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我慢できなかったので

 別にイベント後から今日までの1週間、仕事が忙しかったわけでもなかったので、普通にSt11(ステージイレブン)を出入りしていたが、どういうわけかSt11(ステージイレブン)に今日入ってみて、火山地帯の広がる殺風景がとても新鮮に感じてしまう。

 今まで通りNPCらしく歩き回るのだが、イベントをやったばかりなのか最近、歩き回る時間の間に刺激が欲しくなってしまう。イベント期間中、最初から最後まで1対1で戦ったわけじゃないけども、カーズに勝ったことがもし掲示板で語られているとするのなら、例え多くの上位勢───実力者が揃っているこのフィールドでも自ら近づくようなプレイヤーはかなり少なくなってしまうだろう。


 ハァ……。せめてこっちに来てくれるプレイヤーが1人でもいればなぁ……


 そう息を吐くように愚痴を吐き、とぼとぼと歩く。まぁ、そんなことできるなら今頃NPCなんてやってないから気持ちだけだけども。

 周囲を見渡すように視線を左右に動かし、近くにプレイヤーがいないかを探す。遠くの丘の中腹に2人組の人影がいくつか見える。砂漠地帯でやっとの思いでオアシスを見つけたかのように内心、発狂するように喜んだ。だが、その人影の装備がはっきりと見えるような距離まで近づいたところで、そのプレイヤーの方向から声が聞こえる。

「おい、あれってNPCだよな?」

「逃げるぞ!俺たちじゃ敵わない!」

 1人が指を指し、まだ見つけていなかったであろうもう1人に俺の位置を伝え、反対方向へと逃げていった。俺と戦う事って、負けイベントみたいな要素だったの……?

 せっかくプレイヤーを見つけたわけだし、出来るのならキルしに突っ込んで行きたいのだけども、今こうやって歩いてしまっている以上、走ろうとする感情を我慢してないといつしかボロが出る。

 そう言う意味を込めて耐えてはいるのだが、最近、まともな戦闘が続いていなかったせいで体がむず痒い。背中が痒いのに背中を掻けない、そんな感じのむず痒さだ。


「あっ!あいつ、俺たちに気付きやがった!」

「逃げるぞ!全速力だ!」

 俺が追ってきたことを見たため、2人は丘を登り俺から距離を取ろうとする。

 プレイヤーたちとの距離はそこまで離れていないものの、俺がいた位置は斜面。プレイヤーたちは今、丘を登っているため、その道のりの間は、大きく上下するため体力の消費が激しい。それに、直線距離では100メートル程だというのに、わざわざ斜面を下って登りなおすと2,300メートルほどの距離がある。


 走ってもそこまで体力を消費しないというのなら走ればいいのに、さっきも言った通り、まともな戦闘が最近なかったせいでもうなんでもいいから早く戦いたいのだ。

「[空舞(くうぶ)]!」

 スキルを使用し、直線距離を走る。

「オイあいつ空飛んでるぞ!?」

「もうどうしろってんだよ!」

 諦めるかのように叫んでいるが、2人は必死に丘を登っている。

 彼らに追いつき、スキルを解除して丘に足をつける。槍を素早く2回突き、彼らの首を同時に捉えるも、しゃがむように姿勢を低くされてしまい、攻撃を躱される。剣を持っている1人が反撃に剣を振ってきた。槍で攻撃を止めたが、どうやらもう1人を逃がすためだったようで、そのプレイヤーは剣を持っているプレイヤーを見捨てるようにして逃げていた。

「見捨てて犠牲を減らすか……ならば、貴様が満足させるように足掻いてくれ。」

「へっ!お前から逃げるために見捨てる奴がいるかよ![チームユナイティ]!」

 プレイヤーがスキルを発動すると、転移するかのように姿を瞬時に消す。剣の当たり判定も消えたため、どこかへテレポートしたと考えていいだろう。

 ただ、さっき逃げていったプレイヤーの移動速度的に頑張れば何とか追いつけそうな気がする。というわけで、さっきプレイヤーの一人が逃げていた方向へと小走りで向かうことにした。


 丘の反対側の斜面はかなり急になっていて、所々、突起となる岩が大量に生えている。ここで滑ったりなんてしたら大事故になるだろう。

「最悪、スキルで何とかなるか」

 そうボソッと呟き、斜面を全速力で下っていく。障害物となっている岩の突起を左右に蛇行しながら走って避ける。蛇行していると、岩の突起が影となっており見えなかった2人組のプレイヤーの姿が見える。

「見つけた!」

 そう叫び、俺が追いかけているということをわざと2人に認知させる。不意打ちでキルするのも別にいいけども、今は真っ向勝負をしたい気持ちだから、叫んだのだ。

「まだ追ってきてるのか!?」

「それなら……!やるぞ相棒!」

「おうよ!!」

「「肩車ァ!!」」

 スキルを叫ぶように肩車と叫んだ2人は、剣を持っているプレイヤーを下に、上にもう1人のプレイヤーが乗っかる。上にいるプレイヤーは弓と矢を持っている。移動しながら攻撃……流鏑馬(やぶさめ)みたいなもの……なのか?


 とにかく、この急な斜面でよそ見しながら攻撃、それも遠距離への攻撃はかなり難易度が高い。だからもう1人のプレイヤーに移動を任せて攻撃に専念するような、見た目を除けば完璧なフォーメーションなのだろう。

 弓の弦を引き、矢をひたすら放つ。

 走る方向と攻撃が来る方向が違うため、距離感覚を掴みづらく、いつもより回避の精度が悪い。それでも矢を必死に避け、被ダメージはまだ0だ。

 当たりこそしていないものの、俺が嫌がるような位置を狙って正確に矢を放っている。少しでも判断を間違えれば転んでしまいそうだ。

「当たらねぇ![蛇行の矢(スネーク・アロー)][幻の矢(ファントム・アロー)]!」

 男はスキルを使い、数本の矢を様々な方向から放つ。これを避けるとなると流石に荷が重いので、槍を回転させるように振り、矢を弾く。


 その時、右ひざの側面に痛みが走る。痛みが足に響き、躓いてしまった。

「よっしゃ!転ばせたぞ!」

「このまま落下死してくれー!!」

 転がるようにして、岩の突起にぶつかる。結構なダメージを食らったが半分は削っていない。ぶつかった衝撃で浮かび上がったタイミングに合わせて体を曲げ、刺さった矢を抜く。

「[空舞(くうぶ)]!」

 スキルを使い空中に留まり、体勢を安定させる。プレーヤー2人の頭上高くを飛び越えるようにして跳躍し、空の方に足場を生成し、落下速度を速めるようにして距離を詰める。

「そんなんじゃ死なねぇよ!!」

 2人を串刺しにするかのように真っ直ぐ槍を伸ばして突きを繰り出す。


 だが、槍を直前で引っ込めてしまい、直撃とはならなかった。弓を持ったプレイヤーが直前で矢を槍が進む反対の方向に、俺の頭部目掛けて放ったため、咄嗟に体が反射してしまい、避けることが出来たが、同時に腕も曲がってしまったという訳だ。

 空中姿勢をスキルを使って直し、斜面に着地する。肩車をしていた2人もその状態を解除するかのように弓を持っているプレイヤーを肩から降ろす。俺は2人を見上げるようにして武器を構える。

「かかってこいよ」

 さっきとは打って変わって強気になった2人。久々に燃えてきたぞー!

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