新スキルを手に入れた
「じゃあ、また今度。」
「ああ、また何かあったらね。」
そう言って部屋から出ていく。
「あの!私もこれで……」
「何言っているんだい?君が了承したからには……」
ドア越しからお隣さんとグリードの会話が聞こえるが、廊下に響く足音にかき消されるように、数歩歩くと、話し声が聞こえなくなってしまった。
「帰ったらプレコロやろっかな」
真っ直ぐ帰路に就き家へと帰る。帰ってすぐにでもプレコロを始めようかと思ったが、スピアのアカウントで報酬が来ている以上、プレイするには20:00からしかできない。
「もらったスキルの確認と、アイテムで選択可能なスキルを選んでおきたいからな……19:00くらいから始めよっかな?」
そうと決めたのなら準備を済ませて始めるだけだ。
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時刻は19:00。ギアを装着し、電源を入れる。
視界が広がるように選択フィールドが現れ、メッセージ受け取り欄に2つの通知が届いている。
「1つはスキルか。[空舞]……TPを2消費して自身のみ使用可能な足場を生成するスキルか。それに一回踏んで離れればすぐに消えるから障害物になる心配もないと。……TP消費量が少ない割には結構高性能だな。」
そんなスキルに喜んでいると、その画面の下側に[試してみる]と書かれたボタンがある。
スピアとして動き回れる時間外なので、別フィールドで性能を試せるのは結構嬉しい。早速入ってみようと思ったが、先にもう1つのスキルを選択して同時に試せばいいと思ったので一度画面を閉じてもう1つのメッセージを確認する。
「アイテム。[スキル選択チケット・プレミアム]。……説明欄に通常のコインよりもより多くのスキルが選べるなんて書いてるけど……まさかね」
グリードがこっそりグレードアップさせてたかもしれないと疑問を抱きつつ、早速そのアイテムを使用する。すると、画面いっぱいに大量のスキル名が映し出される。
タップするとスキル説明が画面上部に映し出され、画面下部に[選択する][試してみる][戻る]の3つのボタンが映し出される。
「こりゃミスったな……1時間程度じゃベストなスキルを選べないぞ?」
とは言っても、早いうちに選んで戦闘の幅を広げたいという思いがあるので、決められるのなら今決めたい。
候補を絞るため、まずはどういったスキルが欲しいかを考える。
「移動系のスキルとか、バフ系のスキルは正直他のスキルで足りちゃってるからなぁ……でも攻撃系のスキルは硬直があるだろうから隙が出来てあまり使いたくないし……」
そう悩んでいると検索機能が左上にあるのを見つけた。とりあえず[攻撃スキル]と[移動スキル]、[バフ]の欄にバツをつけ、候補を絞る。
「やっぱり、魔法系のスキルばっかりだな……」
最後のページまで軽く目を通したけど全部殆ど魔法系のスキルだ。他にあるスキルはいくつかあるけども、[アイテム収納]といった役立つけども戦闘面では大きな効果を発揮するほどのスキルはない。
「やっぱりバフ入れよっかな……」
STRやAGIの強化は間に合っているけども、DEFの強化やデバフ効果の軽減といったバフは必要かもしれないと、検索機能でバフの欄のバツを消す。
「ん?なんだこれ。[プレミアム限定スキル]?」
バツをつけた時、ふとその文字が視界に映る。試しにそのスキルを見てみようと他の欄全てにバツをつけたが、何も出ない。
「え?どういうこと?バグ?」
一瞬、表記ミスか、ただのバグか気になり、バツを全て消す。その時、偶然にも[プレミアム限定スキル]に指が当たったのか、その欄にマルがつく。
「あっ!なるほどね」
どうやらその部分だけ、消すのではなく候補から浮かび上がらせるための機能だったようだ。その状態のまま再検索を行うと、かなりのスキルが絞られ、1ページの半分くらい、30程のスキルにまとめられた。
「えーっと、[紫電の極光]に[運命の歯車]ね……名前からして強そうなものばっかりだな」
1つ1つ効果を調べながらスキルを選ぶ。とりあえず前半部分のスキルはダメかな?威力が高い分、TP消費が激しかったり、後隙が大きそうなものが多い。TPは多めに振っていたから問題ないのだけども、回復速度が高いわけじゃないのと、さっきもらった[空舞]で消費するだろうから使う頃には足りなくなっているだろう。
せっかくならTP消費が無いものがいい。TPが多いから戦闘中にバンバン[空舞]使ってもかなり余ってしまうだろうけども余っている方が継戦しやすいし。
「継戦……継戦能力を高めるためのスキルってないかな……?」
ふと思ったことを口にし、スキルを再度探し始める。プレイヤーと戦う時に、力の差を見せられるような高威力なすきるや高い機動力を有するスキルを手に入れるのもありだけど、そういうものはさっきも考えた通り、後隙だったりTP消費だったりと、対価として大きな代償を払う必要がある。
それなら地道に戦ってHP消費やステータス低下だったりの次の戦闘でデメリットになるような効果が減らせるスキルが欲しい。
「デバフ解除系もありだけどな……」
そんな中、1つのスキルが目に入る。
「これ……発動条件としては少しシビアだけど、[狂乱の宴]とか[愚者の矜持]のコンセプトに近いな。それに、発動できれば継戦能力に向いているし……」
他のスキルも確認してみたが、「継戦能力」という点で見ればこのスキルが最も適していると言える。「発動条件」で言えばTPを大幅に消費する高威力のスキルなんかよりも難しい……というか発動するための条件がTPとかのステータスじゃなく、とある「行動」がトリガーになると考えると結構ヤバい部類に入るだろう。
ただ、それでも効果の方に目が行ってしまい、気付けばそのスキルを取っていた。
「試しに新スキル2つ使ってみたいけども、今取ったのは条件的に無理だな。[空舞]だけ練習してフィールドに行くとしますか。」
そう言って[空舞]の使い心地を確かめるため、[試してみる]のボタンを押し、専用のフィールドへと入る。
そこは木の杭と無機質な材質に囲まれた2~30メートルほどの空間だった。
「早速試してみるか。[空舞]!」
空中へと跳び上がり、スキルを発動する。すると、跳躍したときの推進力を失い、落下しようとしたタイミングで、足の裏が地面のようなものを捉える。一度動くのをやめ、足元を見る。
「なるほどね。すりガラスみたいな感じでちょっとぼやけてるのか。それに、止まってても足場が消えない感じかな?」
実際に使用し、考察する。例えば、「足場を生成する」といっても足場の大きさはどのくらいなのか、生成した足場は足が離れるまで無くならないのか、はたまた数秒で自動的に消えるのかなどを確かめるのだ。
足場の大きさは足の側面をくっつけるようにして立てばギリギリ両足で立てる。そして、足場は生成されてから3秒で消える。ただ、3秒経っても跳び上がらない場合は、TPを消費して継続的に足場を作ってくれる、良心的な設定になっているようだ。
また、両足に足場を作るように考えると、同じようなタイミングで足場が出来るし、落下し始めるタイミングでできる足場も、自身がどう考えているかによって足場を生成するタイミングをずらせるし、生成する座標も足の裏だけじゃなく、頭上に生成して掴むなんてトリッキーな使い方もできる。
「さて、[空舞]の使い心地も試したことだし、実際に使って戦ってみますか!」
専用のフィールドから抜け、選択フィールドに戻る。
St11を選択し、転移を始める。




