第2のNPC
「えっと……お知り合いかな?」
声を上げた後、静寂と共に訪れた気まずい空気。それを断ち切るかのようにグリードが質問してくる。
「お隣の人です……」
「はい……そうです……」
指を指し、立ち止まったまま首だけを横に動かしてグリードの方へと振り向きその質問に答える。
「知っているなら、まぁ、大丈夫か。手っ取り早く作業できるだろうし。」
グリードは返答を聞くと安心したかのように机に置かれている資料に目を通す。立ち続けているのもあれなので、俺が座ると、お隣さんも、続け様に座った。
「えっと、[ヒノモト]の名前でプレイしているのが君だね?」
「はい。そうです。」
「NPCとしてプレイしていると認識したが、合っているかい?」
「そうですね。」
「じゃあ君!君も”逆パワハラ”なるものの影響で始めたのか?」
お隣さんがNPCとしてプレイしていることを聞いた途端、食いつくかのようにナビが話しの輪に突っ込み、お隣さんの目の前で質問をする。
「えっ、あっいや、違いますけど……どうして逆パワハラから質問したんですか?」
あまりに急な質問だったのでお隣さんはびっくりしたかのように会話が途切れ途切れになる。そりゃそうでしょ。突然視界の大部分を覆うように出てきたんだから、正直言って、下手なホラゲーより怖いと思う。
「いや~、あいつが逆パワハラを理由に始めていてなー」
そう言いながら「あいつ」のタイミングで俺を指差す。言わなくていいだろ!
「逆ハラ、結構辛いですよ……?」
こみ上げる怒りを抑えながらそう話す。
「でも、私、そこまでちゃんとした理由じゃないですよ。」
「ほう?では教えてくれんか?」
「……ネットコミュ障の改善です。」
「……え?」
想像もしていなかった答えがナビの元に返され、彼女はフリーズする。
「あと、友達にネットコミュ障の改善のために提案されて実践しているので、もしかしたら友達にバレちゃうかもしれない……です」
「なるほどなぁ……。」
ナビがフリーズしたのを全員が放っとき始め、会話が続く。グリードが一瞬悩むと、口を開き、また話し始める。
「分かった。君のお友達ってこのゲームやってる?」
「やってますね。何ならかなり強いはず。[称号]?を持ってるって前に自慢していました。」
「アカウント名って分かるかな?分かるなら今連絡することも可能だけど。」
「あっ、分かります。えーっと……これですね。」
お隣さんがスマホを取り出し、写真をグリードに見せる。
「なるほどね。[辻斬り]か。ありがとう」
グリードはポケットからトランシーバーのようなものを取り出すと、それに向かってブツブツと話す。内容は聞こえないが、話している途中、頷きながら声を上げているので恐らく会話しているのだろう。
「よし、オッケー。とりあえずは大丈夫だね。君のお友達には後日改めて説明するから、もしかしたら君ももう一回ここに来てもらうことになるかも。」
「はい。分かりました。」
「さて、話題を変えてここからは君のNPCとしての性能の調整を始めたい。何やら気になる自作スキルを使っていたようだしね。」
「あっ!あれはちょっと!」
「ん?どうかしたのかい?」
「いや……なんでも……ない……です……」
お隣さんは突然焦り始めたかのように立ち上がり、声を荒げてグリードに向かって叫んだが、グリードが疑問に思ったのか理由を尋ねたが、力が抜けるかのようにストンと椅子に座った。
「あれって、ぜんぶでどのくらいある?」
「……確か40くらいあったはずです」
「そうかい。じゃあ詳細をここに記入してくれる?」
グリードがそう言い、紙とペンを渡した途端、彼女の動きが止まる。
「……ダメそうなら、この後1、2時間くらいかかるけど、動きをVR内で記憶させることはできるよ。」
「そっちで……お願いします。」
「分かった。性能についてはこっちの方で調整するけども、ある程度の要望は聞いておきたいのと……やっぱスキル名として残したいから全部書いてくれないか?」
「え」
グリードがうまく提案をして順調に物事が進んでいたが、グリードの発言で彼女が固まる。隣で同じようにナビも固まっている上、前もいたセルフ……だっけ。彼は寝たままで微動だにしないし。
お隣さんが部屋に入った時と同様、気まずい空気がこの場を包む。
「……。そうだ!イベント後のスキルとかってどうなったんですか?」
俺はこの場の空気を振り払うようにイベントの話を振る。
「ああ、それなら今日配布だな。アイテムのチケットを配布して、その枚数分、スキルを交換できるようにした。それと、お前の変なキャラコンについてなんだが、検証の結果、「動くことが出来る」という結果が出たからな。バグとして処理されない。つまりオッケーだ。……だが、あのキャラコンを使いすぎるとプレコロのコンセプトが崩れるからな。カーズに警告してまで制限したから、あまりやらないで欲しい。という訳で今日、お前にアイテムと一緒にスキルを渡す。効果はあのキャラコンに似ているものだから空中戦については心配しないでくれ。」
グリードがスキルのことについて説明すると、思い出したかのようにイベントのことをまた話し出した。
「そう言えば、おまえのあの行動、良かったぞ。」
「え?どのことですか?」
「あの、ほら。臨時チームを組んだ時のあのセリフ。「お前ら、どうして俺を狙うんだ?」とか。設定にかなり合っていて、運営側も調整する必要なかったからさ」
グリードが言ってくれたことで思い出したけども、俺の真似してまで説明しなくていいだろ……




