待ち合わせ
名前も分からないNPCのふりをしているであろう女性プレイヤーと対峙して数十分。若干いつもよりダメージが通らない気がする。俺のレベルが低いからなのか、はたまた相手のレベルが低いのか。ただ、1つ分かったのは、途中で相手のステータスが底上げされていることだ。突然相手の速度が変化していたり、武器を交えた際の衝撃が大きくなっている気がする。
前回、俺がこの「はちみつレモンミルク」のアカウントでプレイしたとき、どういうわけか、ツリアと戦闘するだけで経験値が溜まり、大幅にレベルが上がった。
たった1つの事例だけ挙げて予想するのはあまり良くないかもしれないが、俺の特徴にツリアの特徴に当てはめた時、共通するものがある。[称号]だ。ツリアには[大槌使い]、俺には[世の理を知る者]と、称号を持っている。称号持ちと対戦するとき、経験値が自動で入るのだろうか。それとも、レベル差が大きいと埋めるように経験値が自動で溜まっていくのだろうか。
前者だった場合、俺はレベル差が縮むどころか、相手の経験値が[称号]という条件だけで半永久的に溜まってしまい、途中でレベルが抜かされるだろう。後者だった場合、戦闘時、序盤は苦しむが、段々とレベル差が縮まって戦いやすくなるが、途中で止まるので、互いに拮抗した戦闘を途中から繰り広げることが出来る。
どちらにせよ俺はレベル差とか気にしない。差がない方が戦いやすいけども、ツリアと戦闘したときはステータスポイントを割り振っていなかったので、実質的にレベル1とレベル100での戦闘を行っていたのだろう。理論上の話だが、まぁ、レベル差があっても俺は戦えるというわけだ。自慢になるけども。
距離を詰めて槍を数回、右から左、左から右へと、筆を走らせるように振る。刀を正確に動かすことで攻撃を全て捌かれてしまうが、負けじと槍を振り続け、相手の集中が途切れる一瞬を狙う。
こうやって攻撃を繰り返していれば反撃をどのタイミングで入れるか、様子を窺いながら攻撃を捌くはずだ。武器を視界に捉えていても、ある程度体の動きも注視して、攻撃したときに手足から飛び出してくるであろう反撃に備えられるように動いてから攻撃を行うだろうから考えている間は動きが鈍くなるだろう。
槍を振る速度を少しずつ上げていき、攻撃の隙を減らし、考える時間を減らす。反撃を考えているのなら、今の攻撃を対処するためにも考える必要があるから一瞬、行動が遅れるはずだ。
「そこだぁッ!」
一瞬、攻撃の対処に遅れたタイミングを狙って、槍を握り直し自分の出せる最速の突きを繰り出す。突然突きが飛んでくるものだから、驚くかのように、相手の体がビクッと動き、槍に刀を向かわせ、防御する。だが、咄嗟に動かした刀では防御が間に合わずに刀の刃で槍の軌道がずれたものの、体の中心を狙った突きは肩を深々と突き刺した。
「ぐあああっ!!」
相手が叫び、赤いエフェクトを散らす。結構HPは減らした気がするけども、HPも増やしていたのか、しぶとく生き残っている。
槍を肩から抜き、次の攻撃に備えるように構え直すと、突然、相手が高笑いし始めた。
「ハーッハッハ!!貴様、やるではないか!ならば私も貴様の実力に応えてあげようではないか!」
刀を鞘にしまい、右手を刀に添える。抜刀の姿勢だ。
それと同時に空気が変わる。彼女から殺気が溢れ出ているのか、背筋が凍るような空気感が辺り一面に広がる。
「花鳥風月・睡蓮」
刀を構えたまま制止する。カウンター狙いかな……?
カウンターを狙っていても、さっきみたいにカウンターの後隙を無くすような技を持っているかもしれないと警戒して、槍を限界まで伸ばす。
かなり長い槍は走っている間も槍自体の重さで曲がることは無いが、バランスを取れず、俺が槍に振り回されているように感じる。
「ハアアアッ!!!」
大きく槍を振り回し、横方向から槍で叩くようにぶつけに行く。
遠心力で威力が大きく上がったであろう攻撃は相手に当たることなく大きく空振る。
「残念だな。カウンターではない。」
その声は上空から聞こえる。見上げると、大きく跳躍した彼女が刀をゆっくりと抜き一回転させるように刀を回し逆手に持ち替える。
そのまま空中で自由落下するようにこちらへと落ちてくると、刀を水紋を描くように体と一緒に回転しながら小さく振る。
振り切った槍をつまみを回してストッパーを緩め、槍を引いて槍の先をスライドさせて槍を短くし、首元の攻撃を防御する。だが、その攻撃は背中も含めて断つように刀を振って斬ったので、大きくHPを削られ、1割を切っても止まることなく減り続ける。
「負け……だが!!」
短くなった槍をナイフのように逆手に持ち、相手が反対方向を向いている隙に背中に突き刺す。
声を聞いた相手は反応するように振り向き、刀を振るが、俺は左手に刀をめり込ませて強引に止め、何が何でも突き刺そうと右腕を振る。刺さった感触を最後に、全身に脱力感が走って、視界が真っ暗になる。
「はぁ……死んだぁ~」
そう落ち込んでいるのも束の間、相討ちになり、相手もデスしたのか、目の前で経験値とゲーム内の通貨が増えた。
「まぁ、増えただけ儲けもんか……」
デバフが走ったままのステータスを確認しつつ、経験値をステータスに振って能力を上昇させる。
「15:00まで時間あるけども、デバフついたまま戦うのも迷惑かかるし、集合場所間違えたりしたらヤバいから、とっととデバフ解除してカスタマイズフィールドに潜るかな……」
そう呟いて再度St10に潜る。さくっとキルをしてデバフを解除し、カスタマイズフィールドへと潜る。集合場所を見つけたのでその場で待機することにした。
暇なので、昨日の夜追加されたというランキングを見る。
様々なギルドと個人のキル数や、NPCの成績が公開されている。それに加えて今度のアップデートの内容も書かれている。
「新スキルの追加に加え、新フィールドの追加など……運営、頑張ってるなぁ……」
ボソッと呟き、見終わったところで画面を閉じる。
その後、武器を見るなりして時間を潰すと、俺と同じように仮面をつけている女性が目の前に現れた。
辺りをキョロキョロしながら、ステータス画面の右上にある時間を確認するような少し不審な行動をしている。
「あのー……今日15:00に遊ぶお隣さんですか……?」
名前を聞いたことがないので、お隣さんにだけわかるような感じで質問する。
「えっ……あっ……はい!そうです。」
息を吸うように驚きながら声を出し、合っていると回答する。……にしても、なんでそんなにおどおどしてるんだ……?
明日の投稿できなさそうかも……




