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相手を疑うしかない

 大きくHPを削られてしまったので、私は追撃を諦めて1度大きく下がる。削られてしまい、残ったHPは約2割。与えた攻撃の数は私の方が多いだろうが、私のレベルが低いのと、はちみつの余裕そうな態度から多くても5割程と考えておこう。もっと多いかもしれないけど。

 これ以上、ダメージを与えるにも、大ダメージを与えるにしろ反撃を食らいデスしてしまう可能性があるし、ちまちまとダメージを与えるにしても小さな隙をついてばかりでははちみつが残っているHPを利用して被弾覚悟で攻撃して来てしまえば結局はデスしてしまう。正直言って私の勝ち目はほとんど無い。


 どうにかしてハチミツに勝てないか、ステータスをはちみつに悟られない程度にチラ見したり、宇宙ができるよりも遠い昔にある私の記憶を探って花鳥風月(かちょうふうげつ)の型に丁度良いのがないかを思い出してみる。せっかくの初対戦なんだし、勝てるなら勝ちたいよね。


 そう勝ち筋を探ってみると、幾つかその勝ち筋を見つけることができた。

 1つ目に気づいたのはステータス画面。どう言う訳か、レベルが15から56まで上がっている。ステータスポイントをかなり得ているのだ。私はその大量のステータスポイントを残っているHPの底上げのためと、戦闘での決め手となるダメージを与えるSTR、戦闘での攻撃速度や回避性能を上げるためのAGIに振っていく。スキルを使わないならTPに振らなくていいし、DEFに振るより、今はHPに降った方が効果が出そうだからだ。後々レベルが上がった時にTPとDEFにも振っていくことにしよう。

 2つ目は、遠い遠い記憶から勝ち筋となる型があった事だ。


 刀を目の前で縦に構え、刀を中心に映る目線の先に、はちみつを捉える。

「さぁ、かかってこい!」

 強気に出て、HPが若干少ないことを隠す。

「威勢だけは良さそうだな!」

 だが、はちみつにはHPが少ないことはお見通しなのか、そう挑発される。そして、はちみつは敢えて攻めるのをやめ、こちらから攻めさせるかのようにその場で立ち止まる。

 少しの間、2人の動きが止まり、空気の流れも止まったように感じる。

「ならば、こちらから攻めさせてもらうぞ!花鳥風月(かちょうふうげつ)孔雀(くじゃく)!」

 腰に差している鞘を左手で持ち、右手で刀を持つ。

 花鳥風月(かちょうふうげつ)孔雀(くじゃく)。鞘を手に持ち、鞘と刀を用いて突撃する動きを主にまとめ上げた「鳥」の型。孔雀は鞘を打撃を与える武器として、双剣のように扱い突撃する型。刀は突く為だけに使い、鞘を使って攻撃・防御を行うのだ。

 右脇をしっかりと締め、刀の刃先をはちみつに向けて横向きに伸ばして構える。刀の上に鞘を持つ掌を乗せるように構えたまま走って突撃する。

「ハアアッ!!」

 声を上げながら距離を詰めていく。はちみつは私の突撃が捨て身だと思ったのか、槍の刃先を私に向けるように構えてその場で立ち止まる。ある程度の距離になったところで、槍が届く射程範囲内に入ったのか、はちみつは思いっきり突きを繰り出す。


 まっすぐに伸びた刀とすれ違うかのように刀と平行に伸びていった槍は、私の体の中心を捉える。だが、左手に持っている鞘で槍を正面から受け止め、左に弾く。その間にも歩みを止めずに走っていき、懐へと潜ることができた。懐といっても刀の中心から端くらいの1メートルと50センチくらいの距離だ。はちみつはその距離で抵抗するかのように槍を振っても刃が当たらず、大したダメージにならないことを察したのか、槍の持ち手の端と刃の近くの持ち手のそれぞれを掴むように両手を動かし、槍を縦方向に向ける。

「とうとう諦めたか!」

 そう叫んで、刀の刃先とはちみつの体の距離が20センチほどになった時、突くための体勢を解き、右腕を大きく振る。首元を狙った刀ははちみつの首へと届きそうになった(・・・・・・・)


 結局、届かなかったのだ。


 なぜなら彼も同様に、槍を振って私の首元を狙っていたからだ。咄嗟に左手に持っている鞘を立てて防御したが、せっかくの攻撃のチャンスが失われてしまった。

 なぜ懐に入ったせいで当てられなくなったはずの槍の刃先が私の首を狙えたのか。

 たとえ槍の刃の近くを持っていても、持ち手の長さが仇となって振る際にうまく力が伝わらず、そこまで速く振ることはできないはずだ。

 一度その考察をするために、はちみつと距離を取る。大きく一歩下がると、そこには最初と明確に違うものがあった。槍だ。


 最初に見ていた時は、竹のように筋のような黒い線が等間隔に広がっていたが、今は違う。槍の持ち手が、その黒い線の間隔の長さと殆ど同じになっている。はちみつの顔程の大きさ───小刀ほどの大きさまでに縮まっている。その槍に目を凝らして見てみると、小さくだが、槍の端の方につまみのような出っ張りがある。つまみをずらすことで長さを変更できる槍なのだろうか。それならさっき槍を縦にして両端を持ったのも、つまみを用いて長さを変えるためなら合点がいく。


 ……それにしても、あの槍、見たことがない。始める時に心配だからと攻略サイトや掲示板を探って武器の性能や掲示板でたびたび話題になるプレイヤーの装備性能の予想などを見てきたが、その範疇を超えていると言ってもいいのだろう。そもそもとしてあの武器は現実的に考えて創れない。


 つっかえ棒とか、天気予報に使われるあの先っちょになんかついている棒とかは伸び縮みさせることが出来る。こういったものは空洞に物をしまいこんでいるから収納し、縮ませることが出来る。そのため、伸ばすと段々と棒が細くなっていく。だが、はちみつの使っている槍は細くなることは無く、太さが一定のままだ。また、仮に細くなっていくにしても空洞があれば肝心の戦闘では耐久力がなく、攻撃も、防御もできない。すぐに壊れるからだ。


 プレコロの公式サイトは、「Player(プレイヤー)Kill(キル)Coliseum(コロシアム)」というフルダイブ型VRゲームを作るにあたって、「ゲーム」という魔法やスキルと言った非現実感を出しつつも、「現実性」を出すために物理演算や武器の構造、急所への攻撃に対するダメージ倍率を細かく計算していると明言している。

 では、なぜはちみつの持っている武器は、現実ではありえない構造をしているのに存在しているのか。チート?グリッチ?

 だとしても、チートならすぐにバンされているはず。それすらも対策しているの?まさか、HPも減っていないとか?


 ……ともかく、そんなことをひたすら思い浮かべて疑心暗鬼になっているならせっかくのチャンスもドブに捨ててしまい、私の勝ち目が0になる。それでも不明瞭な要素が多い以上、疑っていないと、足元を掬われる。

 でも考えすぎると、行動に遅れが出てしまう。

 考えるだけ無駄そうだな……警戒する程度でいいかも……


 私は深く考えるのをやめ、今分かっている「槍が伸び縮みする」ということを第一に攻撃を続けることにした。警戒するのはもしもの時。ただ、そんなことで警戒するようだったら初対面の相手との戦闘の時にどうしても消極的になってしまうので、警戒しながらの戦闘は避けたい。


 左手に持っている鞘を腰に差し、両手で刀を持ち直す。はちみつも私が構え直す姿を見て、小刀ほどの大きさまで縮んでいた槍を振るようにして持ち手の長さを伸ばし、元通りにし、構え直す。

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