初の対人戦
「ラァッ!!」
はちみつレモンミルク……言いにくいな……「はちみつ」でいいや。とにかく、はちみつは私が動き出さないのに痺れを切らしてくれたのか、距離を詰めてきた。様子見なのか、本気でキルしに向かってきたのか3回ほど、急所を狙って突いてきた。
刀を鞘から抜きそのまま刀を振り上げ、最初の突きを弾く。続く突きを刃で弾き、最後の突きを刃で流すようにして横に逸らした。
「ハァッ!」
はちみつは足を大きく横に広げて、背負い投げするかのように逸らした槍を横に振った。刀で受け止めはしたが、はちみつのSTRが高いのか、衝撃に負けてしまい横へ地面を擦るように飛ばされてしまった。
はちみつは追撃を入れるかのように距離を詰めてくる。振り下ろされてきた槍を刀を横にして止め、槍の持ち手部分に刃を沿わせながら刃の向きを変えはちみつの懐に一太刀浴びせる。
「危ねっ」
腕を伸ばして腰を引かれたため、深々と斬りつけることはできなかったが、ボロそうな初心者セットの服を斬りつけ、肌の部分が浅く斬られていた。
「良い反応をするな。だが、これならどうだ!」
そんな言葉を考えるよりも先に口から勝手に出て行ってしまう。体が戦うことに喜びを感じちゃってるよ……まぁ楽しいけども……
距離を詰めて左斜めから刀を振り下ろす。男は私より武器の扱いが上手いと誇示するためなのか、ただそう防いだだけなのか、槍の持ち手を一直線に通るかのように刀の先を当てて防御する。
刀を振り下ろしきった時に持ち方を少し変えて刃の向きを変える。今度は刀を上方向へと振り上げる。
振り上げる時に、大きく一歩踏み込んでいるので軽く上体を逸らすだけじゃ刃が当たってキルできるはず。そう思っていたのに、はちみつは上体を逸らすどころか、バク転でもするかのように上半身を後ろへと投げだす。刀を大きく空振り、はちみつは槍で地面に頭部が当たらないよう動きを止めると、跳ね返るかのように曲げた足を伸ばしてこちらへと蹴りを入れる。防御はできたものの、跳ね返るようにして蹴られた衝撃は重く、刀からビリビリとした感触が伝わってくる。
はちみつは蹴りを入れた後、その勢いのまま立ち上がり距離を詰め槍を横から振る。
しゃがんで槍を避け、低い姿勢のまま踏み出して胴を斬る。だが、振られていた槍がいつの間にか目の前まで移動しており、攻撃が防がれる。
刀を引っ込めるようにしながら一歩下がる。胸の近くまで刀を寄せ、改めて刀を構える。
「結構……しぶといなぁ……」
「ふん、何を言っている。貴様が手を抜いているからではないのか?」
「よく言うね!」
だんだんと戦うことが楽しくなってきたので、つい挑発してしまった。ま、いいか!
「ハァッ!!」
はちみつが槍を大きく振り下ろす。がら空きの胴に刀を振るのもいいと考えたが、カウンターが帰って来てて痛いダメージを食らう可能性があるので、ここは冷静に対処するため、一度攻撃が振り下ろされるまで手出ししない。一歩下がるようにして攻撃を避け、振り下ろされてがら空きになった上半身に刀を振る。首を捉えた刀はそのまま振り切れると思ったが、はちみつは振られる刀に近づきながら持っている槍を体に近い方だけ持ち上げることで持ち手を斜めに傾け、刀の軌道を無理矢理ずらした。
いくらなんでも自分から刀の方に突っ込むのはおかしい。槍を大きく傾けられて、避けることが出来るから近づいたのだろうけど、別に上半身を逸らしながら槍を傾けることだって出来たはずだ。
「動きが止まってるぞ!考え事か?」
そう言われた途端、ハッと我に帰る。だが、そのタイミングではちみつは、傾けた槍を持ち直し、逆方向、私の背中目掛けて槍を振った。
「ガッ!?」
背中に鈍い衝撃が走る。当たったのは持ち手だろうから切り傷が出来たわけじゃないけど、打撃の方が痛い。気がする。背中の痛みをこらえながら、男の追撃に対応できるよう、刀を構える。
「貴様、よくやるじゃないか。さぁ、来い!!もっと楽しもうではないか!」
背中は痛む。でも、戦う事への楽しさ、高揚感がその痛みをなかったものにし、刀を振るう力を作りだしていく。
「花鳥風月・三日月!」
刀を鞘にしまい、左手で鞘を持ち、刀に手を添える。私が中学の時、剣道の練習中に暇になって編み出した我流・花鳥風月!攻守カウンター、全てを備えた我流なのだぁぁ……あ。
うっかり言っちゃった!我流は中学の記憶と共に遠く離れた場所へ捨てたつもりなのに!あぁ~も~……どうしてうっかり言っちゃうんだろ……
まぁ、はちみつがスキルだと思って警戒してくれているのか、彼の動きが止まった。
花鳥風月・三日月。ブラジルよりも遠くにあるであろう記憶を掘り進めれば、カウンターを主にまとめ上げた「月」の型のうちの1つ。相手の攻撃に合わせて大きく踏み込み、攻撃を速攻で弾くようにして相手の体ごと斬りつける型だ。
つまり、はちみつが攻撃したならば、槍を弾きながら体を斬りつける。それに、懐に入り込むために最初から姿勢を低くして構えてあるのでさっきみたいに槍を振られた後に浅く胴を斬った時とは違い、より深く、相手の懐へ潜り込める。
ずっと鞘と刀を手に持ちながら構えたまま不動の状態でいるので、はちみつもどう攻撃するのかが分かったのか、私に向かって話し始める。
「カウンターだな。つまり、二撃目は反撃しづらいだろ!」
はちみつはどうやって攻撃するかを宣言するかのように叫び、走り出す。
槍のリーチを伸ばすかのように端を持って突きを繰り出す。私はスキルではないことを悟らせないよう、わざと槍に反応し、槍を上方向に弾いた。
「もう一発!!」
はちみつは左手を大きく振り上げ、斜めに振り下ろすようにして槍を力強く振る。
「花鳥風月・有明月!」
右手で持っていた刀を振り上げた状態のまま両手で持ち直し、槍を止める。押すようにして槍を弾き、刀を高速で振り下ろす。
花鳥風月・有明月。三日月をカウンターとして放った後の後隙をカバーするための型だ。カウンターとして振り上げる「三日月」と月の満ち欠けが反対になっている「有明月」を対比させるように、「三日月」の時と反対の足で大きく踏み込んで刀を振り下ろす動きをする型なのだ。そのため、カウンターと思って二撃目を入れようとする相手にはよく刺さる初見殺し的な型だ。
有明月として放った刀の刃ははちみつの胸元を捉え、斜めに切り裂くと、エフェクトを大きく散らす。だが、はちみつも負けじと押された槍を握り直すかのように再度力を籠め、私の右肩目がけて槍を振り下ろす。振り切ったばかりの刀では防御が間に合わず、槍に刃を当て防御することは出来たが、力を入れるより先に突破されてしまい、大きくHPを削られてしまった。
「ぐあっ……!」




