NPCになりきってみる
2人が対戦を始める数分前に戻る。
「ふぅ……何とか切り抜けられたぁ……」
私はドアを閉じ、疲れたかのように玄関でへなへなと座り込む。隣に住んでいる男性とは仲良くなれたけども、未だに本名を聞いたことがないし、VRゲームもサブアカウントなんてない。午後の3時に一緒にやるとは言ったけども、本アカで一緒にプレイなんてしたらせっかく盛り込んだ設定が無駄になっちゃうし……
最近上京して引っ越してから消極的になってしまう。友達と離れてしまってフォローしてくれる人がいないから自信を持てないのか、私なんかよりも才能がある人がいっぱいいて、上を見上げてばかりで疲れてしまったからなのだろうか……
私の名前は本間 日菜子。22で普通に大学を卒業したけども就職活動をすることに勇気が出ず、実家で半年くらい脛をかじっていた者だ……
大学で仲の良かった友達に誘われ、ようやく手に入れた初任給の一部を使い、VRギアとプレコロと略せるPKを目的としたゲームを購入した。昔からゲームをして人より上手いと自負できるほどの実力はあるけども、VRなんてやったことないし、ゲームの仮想空間内で知らない人と積極的に話せるかも不安だ。
そんな時、友達からとある提案をもらった。「猫を被ればいいじゃない」……言い換えるならばなりきればいいということ。そんなメッセージをもらった時は「そんなこと言われてもどうやって……」という程度だったが、私はある日、とあるものを見てふと思った。その見たものとは、プレコロの運営会社であるGMTの公式サイトに乗ったとある記事だ。私がギアを購入した数週間前の記事なのだが、その頃から友達に提案されてたので、予習といった感じで公式の情報を見ていたのだ。
「公認のNPCが追加されます。」という文から始まり、新たに追加されるNPCについての話だ。
「これだ!!」
私はその情報を見た時、そう叫んで座っていた座椅子から思わず立ち上がったのだ。
猫を被る……なりきるなら、なりすましとか自分の本性を隠すんじゃなくてあくまで別の存在としてプレイすればいいということ。そんなこんなで友達にその旨をメールで伝えてやってみることにしたのだ。
すると、友達は助言をするかのように別のゲームを教えてきた。「PlayerSkillPractice」、通称PSPというものを紹介してきた。「頑張ってなりきれよ!」という文と共に、そのゲームを購入する分の金額まで送られてきたのだ。
最初は困惑したが、友達がそこまで応援してくれるなら……と思って頑張って練習することにしたのだ。
名前はどうでもいいのでとりあえず「ああああああ」で済まそうとしたけども、被った。入力しすぎて被っても仕方ないので、「ゑゑゑゑゑゑ」という名前にした。これなら被るまい……!
「えーっと……何を練習すれば……ってうわぁ!?」
私は何を練習すればいいか分からず、ランキングを見て人気そうなものを選ぶことにしたのだが、そこには恐るべきプレイヤーがいたのだ。「わわわわわわ」。どのランキングでもぶっちぎりで1位を獲得しているプレイヤー。
「決めた!私、このプレイヤーを超える!」
そうゲーム内で叫ぶようにしてとにかく、いろんなものに当たって砕けろ精神で取り組んで行った。
+++
そうPSPを取り組むこと1週間。ランキングは所々追い抜けたのだけども、やっぱり無理。「コンボ」なんて4391が限界だった。10000なんて無理だよ……どうやっていけるんだよ……
自分は頑張った方だと言い聞かせ、諦めをつけるかのようにPSPを終了した。
そうしてイベントがある当日。彼には「残業が長引いた」なんてカッコつけたことを言ったけども、本当は電車を寝過ごして帰るのが遅れただけなのだ……
20:00を過ぎたあたりで諦めをつけるかのように夜ご飯を食べ、ゲームの準備を整える。プレコロのソフトをカバーから取り出し、ハードに入れる。ギアをつけてプレコロを始める。
最初はキャラメイクから始まった。名前を設定してからアバターの見た目を決めるのだ。
「名前は「ヒ」、「ノ」、「モ」、「ト」。[ヒノモト]でオッケー。」
目の前に出てきたキーボードのような画面から文字を選択し、名前を決めた。名前は名字の「本」、名前の「日」から取って「日本」と読む。別に深い意味があるわけじゃないけども、「ニホン」っていう名前は少し気に食わなかった。単純に名前が決まらなくって今までそうしていたら習慣化していただけなんだけども。
キャラのアバターも、日本=和というイメージから、いつも和装を選んでいる。
「巫女服って初めて見た……これいいかも!」
上半身が白、下半身が赤色の巫女服を選んだ。髪型は、黒くて長い髪にしている。巫女というのは知っているけども、実際に見たわけではないから、なんかそれっぽいので当てはめたけど、当ってるかな?
一応頭にも装備をつけられるので、黒い髪を邪魔しない程度の小さな簪を装備する。
「おー!いいじゃんこれ!」
アバターに憑依し、自分で動いてどんなものかを確認する。その場でくるくる回ったりしてしばらくの間楽しんでいた。
「あっ!靴の装備!」
くるくる回っている間に気付いてしまった。装備していないことに。慌てて和風な感じの靴下?……足袋って言うのか。それと草履が一体化した装備を装着して準備は万端。あとは武器を選んで対戦しに行くわけだけど、まぁ、刀一択だよね。
そう考えつつ、装備を選び終わり、いざ、フィールドへ。最初自分の実力を試すため、St5を選んだけども、プレイヤーの影すらなかった。そこら辺をモンスターが徘徊しており、あまりにも過疎化していた。
でも、よくよく考えると、その時はイベント中だったので、殆どのプレイヤーがいなかっただけだと、後々気付いたのだった。
そうして土曜日はモンスターばかり倒していたのだ。作業化のようにモンスターを斬り捨てていったけど、案外作業は苦手じゃなかったのか、集中が途切れることなくずっと斬り続け、00:00にはレベルが15まで上がっていた。
こうして日曜日、今に至る。キャッシュカードでレベルを上げられることを知ったので、今はNPCになりきるためにレベルを上げているのだ。レベルが低くてやられてばっかじゃ格好の的だもんね……
そんな時、仮面をつけたプレイヤーが丸腰で走ってきたのだ。
刀を構えてNPCらしく振舞うかのように猫を被って話す。
「貴様、私とやり合うつもりでこちらまで向かってきたのか?」
「まぁ、そうかな?興味本位というか。」
「そうか……では貴様も武器を持て。始めようじゃないか。」
興味本位で来たって……私はNPCなんだよ?自称だけども。NPCってほら……!攻撃するって決めたらずっと斬りかかってくる奴の事だよ?多分。私は準備するかのようにプレイヤーから離れる。頭上には「はちみつレモンミルク」と書いてある。このプレイヤーも名前つけるの適当だったか。
頭上を見ていると、男がまだ武器を持っていないことに気づく。
「どうした?まだ武器を持たないのか?それとも、戦う気が失せたのか?」
「あー悪い。ちょっと考え事してた。」
考え事って……NPCって問答無用で斬りかかってくるんだよ?そんな呑気になってていいの?
「……まぁいい。早く構えろ。始めるぞ。」
そう言って刀に手をつけていつでも刀を振るえるよう、構える。
男は武器を取り出すと、私に向かって見下すかのようにこう言った。
「さぁ、お前の力を試させてもらうぞ。」
私は少しキレてしまったのか、その挑発に乗ってしまった。
「戦ってもいないのにそう舐めると、痛い目にあうぞ?」
「さぁな。俺は自分に自信を持てるタイプだからな。」
あー!!言っちゃった!!普通にムカついて言っちゃった!レベルが15しかないのに!しかも相手自信満々だし!絶対相手の方がレベル高いのに!!
そう考えると、頭が真っ白になってしまい、自分から足を踏み出せなくなってしまった。早く動いてくれーっ!!
明日(8月12日)から8月18日まで、一時的に投稿を休止させていただきます。
詳しい内容は活動報告に書きますのでそちらの方をご覧ください。
活動報告→ https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2773350/blogkey/3486441/
何回か確認しましたが、もし入れなかった場合は私のアカウントのページまで移動して内容を確認してください……




