三つ巴の空中戦
改めてこのゲームを説明しなおすが、プレコロはPKを目的としたゲーム。FPSといった銃を用いた現代や近未来をコンセプトにしたゲームではなく、剣などの近接武器や、魔法、弓といった遠距離攻撃の手段が、ファンタジー寄りとなった中世頃のヨーロッパをイメージさせるようなゲームだ。ジェットパックとか中世頃にあるわけないから魔法でも使わない限り空なんて飛べないだろう。
なのに……どうして空を飛べるんだよ!!
そもそもとして中世頃のイメージなのに目の前の男には近未来な感じの機械仕掛けの羽が生えてるんだよ!!飛ばした羽根が爆発したり背中から青い炎出したりとかあきらかに現代でも実現できてないよ!?しかも俺とカーズに至っては、はっきり言って自分が持っている武器を足場にして蹴って飛び上がり、空を飛んでいる人を見たことがない。……と言っても、俺がやり出したからこれについてはコメントし難い。
これを機に空中を飛ぶキャラコンが流行ったらせっかくの武器を用いた白熱する地上戦が空中戦に変わってしまう……どうか流行りませんように……!
さて、今の状態をざっと言っておく。羽の生えた男は羽をゆっくりとはばたかせ、その場で滞空している。俺とカーズは等間隔で武器を蹴り跳躍して滞空する。跳躍が小さいとすぐに落下してしまうので、前後左右に大きく移動しながら滞空している。
全員が相手の出方を窺い、様子見に距離を離しているが、カーズが痺れを切らし、一番キルしやすいと考えたのか、俺の元へと武器を蹴って距離を詰める。俺も迎撃しようとカーズと同様に武器を蹴り彼の元へ向かう。
「ラアア!!」「ハアッ!!」
互いに雄叫びを上げて武器を振る。激しく音を立てて槍と斧がぶつかるが、最初対峙したときと同様、俺の方がカーズよりもSTRが低い。その上力を加える地面もないのでカーズが武器を振った軌道に乗るように斜め下方向に飛ばされる。
体を丸めるようにして膝を曲げ、槍を蹴ってカーズの方へと向かう。羽の生えた男がカーズが俺に注目しているとでも思ったのか、後ろから不意打ちを繰り出そうと距離を詰めている。スキルでも使用して造ったのか羽と同じような素材で1つの剣を手に持ってカーズの背後で振り下ろしている。
だが、カーズは知っていたのか、男に背を向けながら後ろ方向へ進むように斧を蹴り、加速したタイミングで男の方へ振り向き、上に向けていた斧の持ち手の端を使って剣を止める。上から振り下ろされた剣の威力に負けて落下していくと思ったが、上方向への推進力を得ていたのか、一時的に力が拮抗し、ついにはカーズが男を吹き飛ばす。
大きく上方向に飛ばされた男に追撃しようとカーズは追いかけるが俺が後ろからこっそり距離を詰めて戦闘に横やりを入れようとしたのがバレたのか、方向転換し、斧を蹴りこちらへと向かう。
斧を蹴った途端、体を捻り回転を加えると、斧も体の動きに合わせて大きく振り、遠心力でさらに回転する速度を増す。
「死ねやああああ!!」
それでも首を器用に動かしてこちらをずっと凝視しながら向かってくるため、雑に攻撃しているわけでもなさそうだ。だが、武器を用いて空中を移動する俺とカーズにとってはすぐに武器が足につかないから、急な方向転換が難しいはずだ。槍に足を乗せ、上方向へ少し小さめに跳躍する。少し小さめに跳躍したのは反撃のためだ。カーズは回転しながらの攻撃が避けられると、小さく舌打ちし、こちらを見ながら斧の回転を弱め方向転換しようとする。
「そう焦るな、カーズ。焦りは油断だぞ?」
そう言った俺はカーズの背中に槍の持ち手を叩きつけようと縦に振り下ろす。戦闘から短時間離脱させるために落下させようとしたが、結果としてよかったのか悪かったのかは分からないが、カーズの移動速度が速いため、槍の刃がカーズの肩から背中にかけてを少し深く斬る。エフェクトを散らしたカーズは一瞬だけ動きが鈍くなりこのまま落下すると思ったが、執念なのか元々そういったプレイヤーなのか、回復とか距離を取るとか考えずに斧を蹴って距離を詰め始めた。
「てめぇに、言われる筋合いはねぇんだよ!!」
そう叫び、俺の首を狙って斧を大きく振る。上半身を後ろに素早く振って体勢を変える。斧を避けカーズの顎目掛けて右足を上に振る。
顎に直撃した手応え……足応え?を感じ、カーズの方を見る。カーズはギリギリで顎への蹴りを左手で止めていた。「ニィ」とでも言うように大きな笑みを浮かべ、右手に持っている斧を大きく振りかぶって俺の胴へと振り下ろす。
槍で斧を防御したが、その衝撃で空中で浮いていた体が下へと向かい、不安定な体勢になってしまう。
だが、その時。俺の不利な状況を見越した……わけじゃないけども男がスキルを放ちこちらへ急接近しているのがカーズの背後に映っている。
「[落雷鳥]!!」
青い炎のようなエフェクトを全身に纏い、カーズに体当たりを仕掛ける。それを見たカーズは危機を察知したのか、俺を放るように地面に向かって投げる。体を捻って空中での体勢を立て直し、槍を蹴って復帰しに上空へと飛んでいく。俺はその間、カーズたちの方を見ながら復帰していた。
カーズは男の体当たりに対抗するため、スキルを発動する。
「[暴戦者]!!」
そのスキルの見た目を例えるとするなら、俺はまず男のスキルを「太陽」とか、「光」に例えるだろう。そして、カーズのスキルを「影」とか「闇」に例える。それほどの明るさを誇る男のスキルに輝くことなく、ただただ黒を放つ靄を撒き散らすカーズの姿を見てそう感じたのだ。
カーズは斧を蹴って男との距離を詰める。さっきよりも速く跳び距離を詰めると、車輪のように回転しながら男の羽に斧の刃をぶつける。
金属がぶつかり合い、ギギギと鈍い音が響く。ぶつかり合ったその時、男のスキルは[麻痺状態]を付与するのか、カーズの真っ黒な靄の周りを細かい電気が漂っている。
だが、カーズはそんな小細工は通用しないかとでもいうのか、斧を振り切り男の羽の一部を破壊し墜落させる。
そこに追撃を入れるように俺は男の元へと向かう。
「[即時修復]!」
スキルを使用し、破壊された羽根を修復する。そうはさせまいと槍を蹴って加速し、突きを入れようとしたが、上からカーズが斧を振り下ろしてきたので、防がざるを得なかった。
「……邪魔を減らしたいんじゃないのか?」
「違うね。お前を殺すのに邪魔だったから一回退けただけだ。」
「その邪魔を減らす方が後々楽だというのに……」
真っ黒な靄を際限なく放つカーズの攻撃を防ぎながら会話を続ける。
「ハッ、後なんて要らねぇ。今がいいんだよ」
そうカーズが言うと、ぶつかり合っている槍と斧を弾くようにして離し、素早く横に斧を振る。槍が弾かれたので防御が間に合わず、持ち手の端で軌道が若干下にずれたが、腹部に直撃してしまう。
「ガハッ!?」
お腹辺りに痛みが走り思わず顔をしかめ声を上げてしまう。㏋が大きく減り、半分を下回ってしまった。
斧の勢いのまま横へ飛んでいくが、諦めないことを誇示するかのように俺はさっきのカーズと同様、武器を蹴って再び距離を詰めに行く。
カーズの元へ向かいながら一度息を吸い、落ち着いた口調でそう声に出す。
「[愚者の矜持]。」




