1対1対1
「[狂戦士]!!!」
カーズがスキルを叫ぶ咆哮が響き、一度止まっていた状況がまた動き出す。先に動き出したのはカーズ。行動の1つ1つに怒りが籠っているのか、それともスキルの効果なのか、さっきよりも動きが速くなっている。どちらにせよ怒りが籠っているのか、動きが少し雑になっている。
距離を詰めて左横から斧を振る。中段辺りを狙ったその攻撃を、右足を伸ばして準備体操でする伸脚の姿勢をとるようにして頭を低くし回避する。カーズは振った斧を地面にぶつけ亀裂を入れるほどの衝撃を加えると、地面から跳ね返るように斧を上にあげ、体を捻る。一瞬背中を見せたので反撃を入れようと思ったが、顔がほんの少し、視界に収めるようにこちらを向いていることから、逆に致命傷を負う可能性を考えたので立ち上がり、様子見程度に武器を構えたままその場で一度止まる。
カーズは捻った体を戻すように素早く斧と一緒に回し、左足を前に出して斧の射程距離内に俺の体を入れる。足を大きく開いて振られた斧は威力を増しているのか、地面に当たった時、さっきよりも大きな亀裂を入れ、斧が当たった部分の地面を凹ませる。
「オラッ!!」
カーズは距離をさらに詰めるように右足を前に出して斧を振り上げる。俺は右に気をつけの姿勢をするようにピンと立つことで斧を回避し、槍で数回、斧で防御できなさそうな足を狙って突きを繰り出す。
「チィッ!」
さすがのカーズでもこの攻撃は今の体勢じゃ捌けなかったのか、不服そうに一歩下がって攻撃を回避する。
「今度はこちらの番だ。」
そう言い、言った言葉通りにするため、俺は距離を詰めカーズの方へと向かう。
カーズの右脇腹を突くように槍を前に出す。カーズは左半身を後ろに下げて突きを回避したので、槍を少し手前へ寄せ、左に軽く振った後、右方向へ大きく振る。右手で持っている斧で左方向に軽く弾かれてしまったが、槍を持ち直し、距離を詰めながら槍を左上から振って攻撃する。距離を詰めたので、カーズは槍を弾けずに、斧の持ち手部分で攻撃を止めることしか出来なかった。
手押し相撲をしたことがあるだろうか。腕を前後に動かし、押したり、フェイントを織り交ぜて相手のバランスを崩し合い、足が動けば負けの遊びだ。
その要領で互いの顔が至近距離に近づいた時、カーズが腕に力を入れ槍を押し返そうとしたタイミングを見計らってわざと下がる。ほんの少し下がるだけでも籠めた腕の力に体が引っ張られ、カーズでも一瞬だけ、体勢を崩す。ただ、転げ落ちるほど崩しているわけではないので、槍を持ち直して渾身の突きを繰り出すまでの間にはもう、体勢を直して防御できるだろう。
今の状態で槍を使って攻撃すると持ち方のせいで威力が乗らない。かといって持ち直してしまうとその間に体勢を直されてしまう。それならと俺は右足を上げながら腹部に蹴りを入れる。直していた体勢が崩され、左にずらされたカーズはよろけながら左手で斧を振る。これ以上の追撃を避けるためだろう。
右足を後ろに下げて体勢を安定させると、両手で斧を持ち再度斧を振る。
「いいぜぇ……楽しくなってきたなぁあ!!」
問いかけてくるように語尾の音量を上げ、叫ぶ。すると、カーズは大きく後ろへ下がり、斧に足をかける。
「知ってるか?NPCさんよぉ、跳躍はな……AGIじゃなくてSTRの大きさで距離と速度が決まるんだ。」
そう意味深な言葉を発して斧を低く、水平に持ち直し、斧の刃の下側にある凹んでいる部分に足をかける。
「真似させてもらうぜぇ!!」
カーズは軽く跳躍すると俺に向かって跳躍する。水平に飛んできた彼は走って距離を詰めるよりも速くここまで到達する。無駄に足を動かす必要がないので斧をしっかりと構えられるうえ、元々足をかけるために刃が後ろにあるので抜刀するときのように大きく斧を振って素早く攻撃することが出来る。
それに空中ならスキルを発動していても硬直があっても常に移動できる。そのことを利用してカーズはスキルを発動する。
「[大陸裂き]ァ!!」
斧を水平に素早く振る。防ごうと縦に槍を構えたが、本能的に危機を察知したのか、咄嗟にしゃがむ。
カーズが頭上を越えて後ろへと真っ直ぐ飛んでいく。それと同時に轟音が響く。カーズを目で追う目的も含めて後ろを向くと、土煙を大きく上げながら無数の木が同じ高さで伐られ、切り株と丸太に分かれてしまっている。カーズはその土煙に誘われる様に姿を隠す。俺はカーズがいつ土煙から出てきてもいいように少しだけ後ろに下がり、槍を構える。
カーズは土煙が風に乗るように左方向へと流されて行っても姿を現さない。それでも警戒を続けていると、視界外である後ろ側の左斜め上から人影がこちらへと飛んでくる。
現れたのは機械仕掛けの装備を身に纏った男。そう、さっきの羽の生えた空を飛ぶプレイヤーだ。
「さっきぶりだな!!」
「ふん、こちらは忙しいというのに……」
「知るかよそんなも───」
槍と男の足に装備された鳥の足のようなものがぶつかり合い、火花を散らしている時、男の会話を遮るようにカーズの叫び声が響く。
「邪魔を、するんじゃねぇ!!」
カーズが斧を体を捻って回転するように斧を大きく振りながらこちらへと接近する。男は、俺を身代わりにするように足を器用に動かして槍をカーズの方向へ流し、右足で俺の背中を蹴りカーズとの距離を近づける。
「ついでに殺してやるよ!!」
カーズは男に殺意を持っていたが、矛先が俺に向き、斧がそのまま俺に向かって振られる。よろけた状態で慌てて防いだものだから、後ろの方向へと吹き飛ばされてしまう。
木に打ち付けられ、尻もちをついたので立ち上がろうとしたタイミングでカーズと男が示し合わせたかのように同時に襲い掛かってくる。軽く跳躍して後ろに壁のように生えていた木を蹴って2人の攻撃を回避する。カーズなら追撃に斧を振るだろうと警戒し、二人の動きを注視するように顔と体を2人の方に向けながら槍を踏んで空を飛ぶ。予想通りカーズは斧を大きく振ったが、ついでに男もキルするかのようにカーズの右隣にいた男に斧を振りその回転のまま俺が着地するであろう位置も巻き込むように斧を振っていた。
男はお得意の速さを生かして攻撃後すぐにその場から離脱し空を飛んでいたためカーズの攻撃が当たることは無かった。男はそのまま俺の方へと接近し攻撃を仕掛ける。目の前で急上昇し、落下しながら上に掲げるように上げた足を踵落としのように振り下ろす。
「俺の得物だ!」
槍を踏んで飛び上がり、回避しようとしたタイミングでカーズが斧を縦に振り攻撃を止める。状況だけ見れば仲間のピンチに駆けつけたヒーロー的に見えるけど、実際は俺を殺したいあまり、手柄を取られたくないから攻撃を止めただけで、一連の流れを知っていればときめかないどころか、むしろどこまで執着するんだよという感じ。
男は足を振って斧を弾き、背中から青い炎を噴き出し、カーズを地上へと落とす。だが、カーズも俺の行動を真似て空を飛んで復帰してくる。
全員が空飛べるって、どうなってるんだよ……発端は俺かもしれないけども……




