空中戦開始!!
「オオラッ!!」
素早く距離を詰め男は踵落としを繰り出す。かなりの速度で移動してきたはずなので結構な威力になっていると思う。流石に避けてばっかりじゃ……と思ったが、上から攻撃を落とされては防いでもそのまま地面へ直行するだけだ。
槍の持ち手の端を持ち、刃の出っ張った部分に足を乗せ、後ろに飛ぶ。足に装備している[足袋]と[クルセイア]にはどちらも[不壊]があるので、どんなに衝撃を与えても傷つくことはない。そのおかげで、刃の上に乗ってもどちらも壊れるような気配がない。HPが少し削れたけども。
踵落としは空ぶったが、空中戦は慣れているのか、体勢を立て直すように背中と羽から炎を噴き、俺の方へと向かう。
「[瓦落多羽]!!」
スキルを唱えると、男の機械仕掛けの羽に外付けの機械がさらに装着される。その羽でタックルを仕掛けるつもりだ。
一瞬、また避けようかと考えたが、槍の持ち手の端を持ち、刃を下に向け、刃の近くの持ち手部分に足をかける。攻撃を防ぐためだ。手と足を用いて押さえた槍に男は羽をぶつける。衝撃を和らげ、吹き飛ぶことは防げたが、槍が羽にしっかりとぶつかったため、男と一緒に移動し始める。空いれいる右足で顔面を思いっきり蹴る。装備している仮面は金属製なのか、頑丈でダメージを与えたというよりも、自分の脚に衝撃が走り、逆にダメージを与えられて感じがする。だが、一瞬だけ視界を奪ったことが功を奏したのか、男の冷静さがほんの少しだけ欠かれた気がする。
追撃を入れようと、空いている右手で首根っこを掴み、槍を羽から離し、代わりに姿勢を低くしながら右足を曲げて羽に乗せる。改めて槍を左手に持ち直し、男の上に跨る様に左足を反対方向の羽に乗せる。
頭部目掛けて槍を刺そうとしたその時。男は横に回転し、逆さまの状態で飛行を始める。乗っかっていた足は重力に従うまま宙でぶらぶらと吊るされるようになり、今、俺の体を落下しないように支えているのは首元を掴んでいる右手のみ。
右手の力を入れ、男の首を絞める。快楽を得たわけじゃないけども、つい高揚してしまい歯を剥き出しにしながら笑みを浮かべてしまう。
首を絞めるついでに頭部に槍をぶっ刺そうと、体を振りながら左手も思いっきり振る。男はスキルを唱える。
「[喧騒羽風]!」
槍が当たるほんの少し前に羽根が数本、俺を狙って独立して飛んでくる。槍を振り切り、攻撃を当てることが出来たが、その羽根が何本も直撃し、爆ぜる。大きくHPが削られ、衝撃で男を掴んでいた腕が滑り、手を放してしまった。
そのタイミングを見計らって男は急降下を始め、俺に突撃する。加速させて落下のダメージを上げるつもりだ。だが、反撃を恐れたのか、一瞬だけ触れてすぐさま離れていき、再度上昇してしまった。
それでも十分な速さがあったのか、一瞬振れただけでもかなり加速した。焦りつつも槍に足をかけて跳び、俺も彼を追うように上昇していく。
テンポよく槍を蹴っていき上昇していくが、元々のAGI的にかなりの差があるはずなので、あの男に追いつける気配がない。男も、終われているのが分かっているのか、最高高度らしき場所で旋回するのではなく、横方向に移動し逃げている。このまま追っていては追いつくどころか、今後のキル数にも影響が出そうなので一旦彼を追うのを諦め、地上に着地する。
せっかく合計200キルを目標にしているのなら、あんな1人のプレイヤーに構っているよりかは、どんどんキルして数を稼いでおきたい。
そんな時、耳元からイヤホンとマイクが出現する。グリードからだ。
「ハァ……。お前さぁ……どうしてあんなこと見つけちゃうのさ……」
呆れたかのようにため息してから話し始める。
「でも、出来ちゃったから……」
「『出来ちゃったから……』じゃないんだよ!せっかくのフルダイブ型のVRゲームがテレビゲームのムーブになったら非現実的な動きになるじゃん……」
グリードは言いたいのは、恐らくテレビゲームのテクニックである壁を登ったら加速できるやつとか、空中で突然軌道を変えられるようになるやつとか、そう言った動きをプレコロではやってほしくないのだろう。ただ、俺にも反論はある。
「でも、槍を蹴って飛んでるんですから、それが実際に出来るのなら、れっきとした現実的な動きになるはずですよ?」
「……確かに。……そうだな。ただ、お前らしい独創的な動きではあるから、まぁ……使っても……いいぞ。」
グリードは何か言いたさそうに途中途中区切りながら話していたが、結局のところOKは出たので使っていいことにはなった。
グリードは何か小声でブツブツと話していたが、しばらくすると「ブツッ」という音と共に通話が途切れマイクとイヤホンが消失する。
残り時間は1時間と21分。現在のキル数は145だったかな?残り55キルすればいいわけだけども……えーっと、残り81分……端折って80にして、だいたい……16/11分に1回キルだから……だいたい1キルあたり1分と27秒くらい……
「急げ―っ!!」
心の中でそう叫び、走り出す。考えてる時間に2分くらい使っちゃったから、実際はもっと速いペースでキルしないといけないのだから、余計に焦ってしまう。それにこうやって焦った時に限って全く敵に遭遇しない。3分くらい走り回ったが、人影どころか、物音ひとつ聞こえない。いったん止まって冷静に考えたが、マーカーがついて俺の位置が分かっているはずなのに追ってこないのが逆に不思議に感じられてくる。
どういうわけかは知らないが、マップを開くと俺がいた位置を示すマーカーが表示される。そういえば、最後にマーカー点いたのって考えた場所だから、その時は止まっていたけど、急に走って結構遠くまで移動しちゃったから追いかけようがないのか……
「ハァ……」
小さく誰にも聞こえないようにため息を吐き、さっきマーカーが点いた方向へ向けてゆっくりと歩きだす。
俺の考えは的中したようで、少しずつ歩いていると、別のプレイヤーの話し声が聞こえてくる。
走って距離を詰めることを考えたが、茂みの音でバレて花火なんて撃たれたらプレイヤーがどんどんやってくる。多いのはいいんだけど、多すぎると対処できないんだよな……
軽く跳躍し、槍に足を乗せ思いっきり蹴る。葉を揺らすことなく、一直線に飛んでいき、杖を持っているであろうプレイヤーの背後から槍を刺す。
「ガハッ!?」
「どうした!?」
「警戒しろ……」
周りのプレイヤーが襲撃に反応し、武器を構えた始めた時、見渡すよりも速く槍を蹴って上に跳躍する。同時に槍を抜き、痕跡を消す。幸いにも、頭上には木の枝や葉もなく引っ掛かるようなことは無かった。
「おい、どこにいるんだ!?出て来い!」
プレイヤーは双剣の刃を立てて脅すように周囲を見渡す。まぁ、上にいるからそんなとこ見てても見つからないんですけど。
プレイヤーは警戒を続けるが、最初に杖を持ったプレイヤー、魔法使いをキルしたので、索敵スキルが使えないのだろう。そのせいで俺の正体を補足できない。
残り3人。1人は双剣でもう1人は盾、最後の1人は木こりが使うような少し小さめの斧を持っている。
「いたぞ!上だ!」
影を見たのか、突然上を向き盾を持ったプレイヤーが叫ぶ。バレたならしょうがないか。飛ぶのをやめ、落下を始める。
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