地上のプレイヤー掃討
周囲を見渡した感じ、今見えるのは上空にいる男を含めて6人だ。ただ、岩越しに見えないプレイヤーが数人ほどいそうなのと、茂みの奥から増援が来る可能性があるから、警戒するに越したことはない。……ずっと警戒してばっかだけど。
「ウオオ!!」
1人が雄叫びを上げながらハンマーを掲げこちらへ走り出す。するとそれに合わせるように刀を持ったプレイヤーと槍を持ったプレイヤーも突撃し、弓を持ったプレイヤーと杖を持ったプレイヤーも攻撃しようとそれぞれ武器を構える。
ハンマーが振り下ろされたとき、一歩下がって攻撃を避け、反撃しようと腕を伸ばしたが、丁度そのタイミングで背後から刀が振られる。
しゃがんで回避はしたが、ハンマーの攻撃の後隙に追撃できず、再度ハンマーが振られてしまった。横に振られたハンマーはしゃがんだ時は頭部、立ったら胴を狙ったという感じの上下に動くだけでは避けにくい攻撃だ。だが、射程外にステップを踏めば横に振ったハンマーも避けるのは容易い。ハンマーを避けたついでに背後にいた刀を持ったプレイヤーと武器を交える。音を立てながら互いに力を加えているが、俺は力を加えながらハンマーを持ったプレイヤーと離れるように時計回りに移動する。そうすると力が拮抗した状態を崩すまいと刀を持ったプレイヤーは俺と同じように時計回りに移動する。
そうしてハンマーを持ったプレイヤーと俺との直線的な距離の間に別のプレイヤーを割り込ませる。例えハンマーを持ったプレイヤーと刀を持ったプレイヤーが敵であっても、今は実質的に協力している状態。安易に武器を振っては当たってしまうのだ。俺はわざとこの状況を作り、この中で最も破壊力があるだろうハンマーの攻撃を封じさせることに成功した。
だが、この状況を崩すためなのか、矢が数本飛んでくる。一歩下がり矢を躱そうと思ったが、その行動が功を奏したようで、目の前の刀を持ったプレイヤーに矢が命中した。どうやら俺が下がった行動が「逃げ」だと思ったっぽく、追撃を入れようと前に出てきたら矢の軌道と重なってしまったわけだ。
「痛ッテェ!!」
「あっ!すまない!」
痛みが走ったのか、プレイヤーは声を上げた。弓を持ったプレイヤーはそれを見てすぐさま謝っていた。
そんなことは置いといて、今、目の前のプレイヤーは矢が数本刺さっているため、その部分に力が入りにくくなって動きがさっきよりかは鈍くなっているはずだ。今のうちに1人減らしておこうと前へ走ってきたが、
「[防御魔法]!」
「ハアアッ!![乱れ突き]!」
刀を持ったプレイヤーを守るように防御魔法が展開され、その目の前に槍を持ったプレイヤーが邪魔しに来た。スキルを使ってより素早い連撃を入れたかったのだろう。だが、動作が決まっている以上、避けられてしまえばただ空振ってしまうだけのスキルだ。対人戦を基本とするプレコロではあまり強くない。
一歩下がり射程外に避けると、そのまま横を通り槍を振る。スキルの効果が切れて自由に動けるタイミングになり、防御に回ろうと槍を素早く動かしていたが残念。一手遅かったね。俺の槍の刃が首を裂くように斬り、エフェクトを散らしながらその場に倒れ込む。
「フン!!」
そのまま防御魔法に思いっきり突きを入れて力技で魔法を突破する。ガラスが砕けるように破片を散らしながら割れた魔法を通り抜けるように刀を持ったプレイヤーの元へ走り突きを入れる。
警戒していたのか刀を構えていたため初撃は弾かれたが、めげずに5回ほど素早く突きをすれば威力に耐えられずに衝撃で地面に倒れ込む。その一瞬を見逃さずに腹部に一突き。それと同時に槍を支えにプレイヤーの頭を飛び越えるように跳躍する。横から矢が飛んできていたからだ。
プレイヤーの頭上に「DEAD」が出たのを確認したのですぐさまハンマーを持った男の元へ突撃する。あまりに短い時間で2人がキルされたため焦っているのか、冷や汗を額に浮かべながらハンマーを振る。軽く跳躍し、空中で前転するように回転し、喉目掛けて突きを繰り出しプレイヤーの背後に着地する。持っている槍を剣を振り下ろすように真っ直ぐ体の前へもっていき、プレイヤーの体を引っ張って地面に叩きつける。エフェクトが大量に撒き散らされ、タンポポの綿毛みたいに宙で漂っている。
再度周囲を見渡し、近接武器を持ったプレイヤーがいないのを確認した後、弓を持ったプレイヤーの元へ突撃する。杖を持ったプレイヤーと真反対の位置にいるので、後ろから攻撃が飛ぶ可能性があるが、魔法はTPを消費するスキルである分、当たり判定が大きいので巻き込むだろう。
弓を持ったプレイヤーは焦って何発も間髪入れずに矢を飛ばしてくるが、弦の引きが足りないのか矢の威力が半分死んでいて放物線を描きながら地面へと落ちていく。
その矢を避けながらどんどん距離を詰め、ついに槍の射程圏内へと近づくことが出来た。突きを入れてキルできると思ったが、
「[威力増加][火球]!!」
当たれば弓を持ったプレイヤーが巻き込まれるであろう魔法が躊躇無く撃たれる。完全に俺をキルするためだろう。攻撃を躱すため後ろに避けるついでに目の前のプレイヤーに突きを入れてある程度のダメージを与える。そのおかげなのか、そのプレイヤーには魔法が直撃し、燃えてデスしてしまった。1人減ったからありがたいけども。
それならと杖を持ったプレイヤーの元へ突撃する。
「[空中浮遊][炸裂弾]!」
プレイヤーは自分だけ助かろうと空中に逃げ、さらに花火の代わりとして上空に爆発する魔法弾を撃ち込んだ。ご丁寧に爆発エフェクトまで変えて花火に似せて……!
でもさっき空中を移動する術を知ってしまったので、大きく跳躍し、槍を使ってさらに空を飛ぶ。
ただ、そこまで速くないのか、プレイヤーに全く追いつける気配がしない。
少しだけ改善した方がいいのかな……
今は槍の持ち手と足の裏を平行にして進行方向に飛ぶ感じになっているけど、手の長さの都合上、少ししか足を伸ばせないのでそこまで移動はできない。もう少し足を伸ばせればだけど……
そう考えながら、足を伸ばせないか、槍の持ち方を変えながらプレイヤーを追いかける。
槍を持つ手と踏む部分の距離を少し離して……ちょっとくらい角度ずらしても、踏むときにはその部分は平行になるから、飛ぶ方向をずらせば……
そう試行錯誤していると、魔法が何十発も飛んでくる。その間にもこうじゃないとひたすらにやり方を工夫して飛び魔法の弾幕を避ける。
「これだ!!」
心の中で叫び、やっと自分の中でベストの空中移動法を見つけた。
槍の刃の近くを持ち、斜めに傾ける。持ち手の端に片足を乗せて思いっきり蹴る。斜めに傾け、端を持つことで足をある程度伸ばしても問題ないのだ。片足だけを乗せることで両足を乗せる必要がなくなるので準備の動作にあまり時間もかからない。思いっきり蹴ってもSTRである程度自分自身の力が強化されているので、槍を離さないよう必死でこらえることが出来る。
この動作を繰り返して弾幕を抜け、さっきよりも速く空中を移動し距離を詰める。距離が近づいたところで槍を持つ手の力をほんの少し抜き、槍を滑らせるように動かして持ち方を正す。
「ハアッ!!」
プレイヤーを叩き落とすように上から槍を振り下ろす。吹き飛ばされ距離が離れたところで俺も追撃に槍を蹴って地上に向けて加速する。プレイヤーは慌てて横移動を始めたが、槍が届いたのが先だった。
胸を貫かれて動けないところに俺は槍を引っ張り、槍に刺されたままのプレイヤーとの距離を縮め乗っかる。槍を抜きさらに数発の突きを繰り出す。
動かなくなったのを確認した後、プレイヤーを蹴って再度空中を飛び始める。
「さぁ、空中戦を始めようじゃないか。」
そう叫びながら空を見上げる。羽の生えた男がこちらを見ている。そして、高速で動き、こちらへの距離を詰め始めた。




