NPC、空を飛ぶ
今の状況を整理してみる。
まず俺の位置を特定するように10分おきに点滅し、マップに位置が表示される。そのせいで俺をキルしてポイントを稼ごうとするプレイヤーや興味本位で俺をキルしたいプレイヤーが甘いものに群がる蟻みたいにわんさかと集まってくる。それに加えて俺を1人でというか一撃でキルしてきた今最も警戒するべきプレイヤーである機械仕掛けの羽の生えた男と接敵している。
勿論、俺が戦ってるからって待ってくれるプレイヤーなんていないだろう。岩の上にいるから周囲を見渡しやすくなってはいるから戦闘中の不意打ちは避けられるけど、その分俺を見つけやすくなっているので多くのプレイヤーが集まりやすくもなっている。
攻撃される回数を減らすようにしてデスするリスクを減らせるなら今この場から逃げていった方がいいのだろうけど、減らしたところで上空のあの男の1回の攻撃が通されてしまえば俺はほぼ確定で死んでしまうだろう。だからあえて動かず出来るだけ多くの攻撃を対処できるようにしたい。
俺はこの場を切り抜ける1つの作戦としては、あの男が突っ込んできたときに、周囲の人を巻き込んで人数を減らすことだ。そう考えながら武器を構え、周囲を警戒する。
早速茂みが揺れる音が鳴り俺を中心として囲むようにプレイヤーが集まる。ざっと見た感じ、あの3人と今までに戦った上位勢がいないので、ほんの少しだけ安心して戦闘に集中できる。
個人的に嬉しいのは岩の上で立っているので、茂みから現れてくるプレイヤーを見下すように待機できるということだ。ただ、上側も警戒しないといけないので目線まで動かせない。だから、見下している雰囲気しか出せないのがちょっと惜しい。
「かかってこい」
雰囲気が出来てるなら完成してなくてもできるところはやっておこう。そんな気持ちを持って、相手を見下しながら挑発するように低い声でそう声を発する。
すると挑発に乗ったのか、雄叫びを上げながら岩と岩を跳躍して登りながら距離を詰める。ただ、今俺が立っている場所は周辺では一番高い場所だ。山なりに岩が積まれているので、プレイヤーが頑張って登っているところを上から突いて外側に飛ばせば簡単に攻撃を阻止できる。
冷静に考えて、飛び道具を持ったプレイヤーに指示を出して避けて体勢を崩したタイミングで攻撃すればいいのに、俺のポイントだと言わんばかりに誰とも協力せず1人で俺の元へ飛び込んでくるのが悪い。
ゾンビみたいにひたすら岩を登ってくるけど、槍でチクチク刺してれば、勝手にHPが減っていって途中であきらめたり、デスして消えていってくれる。
途中、矢や魔法が飛んでくるけども、飛ばしているプレイヤーも岩を登るプレイヤーと同様、自分の事しか考えていない。こんな光景を見ていて思うけど、アシストしてもポイントが入らないからキルしたプレイヤーにしかポイントが入らないのは結構人間の欲を刺激するんだなと思う。配分することって大事なんだなって。
そんな状況が1分程続いた時。ついに状況が一変する。空でずっと旋回していた男が急降下し始めたのだ。俺は周辺のプレイヤーの邪魔ができるだけ入らないように一度槍を振り回して登ってくるプレイヤーを全員落とした。飛び道具を使ってくるプレイヤーは防ぎようがないけども、警戒だけしておけば最悪飛んでいる男と同時に攻撃が飛んできても躱すことはできるだろう。
男が急降下してきた軌道上に顔を向け注視する。その時、顔が正面でピッタリと合わさる。仮面越しの目は少しだけ光っている。
「もう対応したのか!?」
男は大声を上げながらこちらへ向かってくる。足を大きく伸ばし蹴りを入れる姿勢をとってきたので少しだけ足を曲げてすぐに動けるよう準備しておく。
足を大きく動かし蹴りを入れてきたタイミングで大きく跳躍し攻撃を避ける。男の蹴りは空振り反撃に出れそうだと思ったが、瞬時に翼から青い炎が放出される。
「舐めてもらっちゃ困るんだよ!」
精密な操作で体勢を直し、再度俺に蹴りを入れる。飛んでいるからこそできる変則的な胴への蹴り。胴を狙った蹴りは男の脛の中心と俺のへそあたりがぴったり重なっているのでそもそもとして避けるのが難しい。それにAGIが高いとは言え、この短距離でかなり加速してるんじゃ動きに反応できても避けるために体を動かすことは難しい。
反射的に槍を盾代わりにして攻撃は防げたがかなりの衝撃に大きくノックバックしてしまい空中へ放り出されてしまった。
「もう一発!!」
男は俺を蹴り飛ばした後も距離を詰め追撃を入れようとする。攻撃を防ぐことはできるのだがこれ以上大きく飛ばされると男からダメージを加えられずとも落下ダメージで死ぬ可能性がある。
そんなことを考えているうちに男からもう一発の蹴りが飛んでくる。慌てて防いだのでダメージはなかったが、またもや吹き飛ばされてしまった。
何かこの状況で出来る行動は……
そんな時、ふとルリとの対戦を思い出した。大量の雷の弾幕を避ける中、推進力を得るために取った行動を。ただ、その時と同じ行動を取ってしまえば次の攻撃を防ぐ手段がなくなる。それなら、離さないように持っていればいい話だろ!!
槍を握ったまま足を曲げ槍を蹴る。体を伸ばしながら手に力を入れて推進力を失わないようにする。ある程度力が入ったところで槍に足が引っ掛からないように槍を持っている手の力を抜く。そのイメージを持って槍を蹴る。もし現実でこういった動きが出来るならみんな空を飛べているだろう。でも、ここはゲーム!!現実通りに物理演算が働いているわけじゃないからある程度の変な動きは許容できる!!
そんな僅かな希望に託したことが功を奏したのか、俺は推進力を得て空中で移動することが出来た。地上で走り出すときほどの速度は出なかったけども、それなりに速度が出ているのは確かだ。そんな突然の動きに男は意表を突かれ蹴りを外してしまう。だが、負けじと方向転換をして追撃を入れようとまた向かった来る。
それなりに空中に飛ばされて高いところにいるので今、俺は前後左右に動けるだけじゃなく、上下にも動ける。
槍を上にあげて鉄棒で蝙蝠みたいにぶら下がるように逆さになる。そのまま槍を蹴って一度地上に向かって加速する。
「嘘だろ!?」
男も下に行くとは思っていなかったのか、声を上げながら蹴りを外してしまった。
再度槍を蹴り落下の勢いを殺してから着地する。地上には俺と空を飛ぶ男に呆気に取られて立ち尽くしていたプレイヤーたちが大勢いる。慌てて武器を構えて応戦してきたが、俺はさっき空を飛べたことに興奮したのか、いつもより調子がいい気がする。振り下ろされた剣を防ぐことも、躱すこともなくそのまま真っ直ぐ走り胴を横に斬る。そのまま足の下をくぐり振り向きざまに背中も斬る。
素早く振り向いて距離を詰めてきたが、首元に鋭い突きを入れてキルを入れる。そのタイミングで後ろからプレイヤーが斧を振り下ろしてきたが、横にほんの少しだけずれて躱し、斧の持ち手部分に乗っかり足の裏で踏みつぶすようにプレイヤーの顔面を蹴る。
姿勢を崩したタイミングで槍を持った別のプレイヤーが数発の突きを入れ邪魔に入ってきたが、焦っていたのかほんの少し上半身を揺らすだけで攻撃を避けられた。反撃を入れようかと思ったが、今持っている[クルセイア]は通常の槍よりもリーチが短いのでプレイヤーの突きの距離から考えて刃の先っちょしか当たらないと考えたので諦めて姿勢を崩したプレイヤーを槍で滅多刺しにしてハチの巣にして先にキルすることにした。
「さぁ、もっと楽しませてくれよ?」
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