峰打ちで牽制しながら戦う
ザインとローアがそれぞれポイントを得たのも束の間、続け様にプレイヤーはやってくる。ただ、ラッキーとでもいうべきなのか、俺から見ても、他の3人から見てもそこまで有名なプレイヤーや上位勢がいるわけでもなく、ただ俺をキルするために集まってきたプレイヤーの集まりで、実力の高い人がいなさそうということだ。
人数はおよそ10人。武器を持っている人を分けると
剣:2
双剣:1
槍:1
刀:1
拳:1
ハンマー:2
斧:2
盾:1
誰が武器を持っているか、3人が対処できるか心配して改めて見ると、計11人いることが分かった。後衛がいないのはこちらとしては戦いやすいが、人数が多いと、自分の安全とザイン、ローア、ナットの安全確認の際、他のプレイヤーに被って見えなくなるリスクがあるのが少し心配だ。
「行くぞ」
「分かった!」「「はい!」」
俺の掛け声に合わせて3人も行動を始める。
「[対象指定]、[加速空間][防御強化:中]!」
ローアがパーティー関係なくバフの干渉を行うスキルを使用して俺達にバフをかける。そしてその勢いのまま他プレイヤーにデバフもかけ始めた。
「[防御低下:大][非力な身体]!効力が強い分、効果時間が短いスキルを使用したので出来るだけ早く決めてください!」
それにとっておきでも出したのか、効果が大きなスキルを選んでくれたようだ。
「僕はローアさんの防御を中心に行います。あまり攻められないので2人ともお願いします!」
「押し付けたな!やるけども!」
「ああ、分かった」
ザインが文句を言いながら前へと出てくる。しっかりと教えた通り、何度も攻撃を行い手数を増やしてハンマーを持った一人の相手に攻撃の暇を与えず押している。この短時間ですぐにものにするなんていいね。
ただ、少し一人に集中し過ぎかな?
「後ろががら空きだぞ?」
ザインにそう言いながら後ろにいる3人の敵の体を掠るように位置をずらして突く。そのまま回転するように槍を横に振り相手を吹き飛ばす。後衛として頑張ってくれているローアとの距離をなるべく離して攻撃を行っていくので彼女たちとは逆の方向に吹き飛ばしておいた。
すると、牽制として魔法がいくつも目の前を横切り、吹き飛ばした相手に何発も直撃する。おおきくHPを削ったので少しは奥手になってくれるだろう。
……ただ。
「ローア!TPの使い過ぎに気をつけろよ!別に今急いで倒さなくてもいいんだぞ?」
「でも、バフの効果が……」
「バフが切れても簡単に倒せる程度には消耗させておけば大丈夫だ!」
そう言った途端、隙ありとでもいうように双剣を持ったプレイヤーと斧を持ったプレイヤーが少し上から飛び掛かってくる。
別に隙を晒していたわけじゃないけど、ローアに指導入れてたらそりゃよそ見しているようには見えるか。
武器を狙って素早く3回突きを飛ばして相手の手元から武器を飛ばし、丸腰にする。
「少し寝てろ」
双剣を持った───というより持っていたプレイヤーに肩を貫通するように突き、大きくダメージを与える。最初からダメージを受けていなかったし、ローアもSTR強化のバフをかけていなかったから、死ぬことはない。続いて斧を持っていたプレイヤーの顔面を思いっきり殴り地面に叩きつけ、体を潰すように足に体重をかけて乗っかり太腿に槍の刃を刺す。
「グアア!!」
叫び声を上げて悶えると、仲間のピンチに駆けつけるように他のプレイヤーが集まってくる。
「来いよ。一歩も動かないで相手してやる」
傲慢な態度をとり挑発する。見事に引っ掛かりこちらへ襲い掛かってくるが、
「俺だけを見ていては足元を掬われるぞ?」
そう言って俺はローアの方を向く。敵プレイヤーもそれに釣られて彼女の方を見たその時。
「[土砂崩れ]!」
上空が隕石が落ちてくるように大きなサイズの岩が何個も、いや何十個も降り注ぐ。殆どのプレイヤーが潰されるように岩の下敷きになってしまった。
残った敵は、いまここで痛がっている双剣を持っていたプレイヤー、斧を持っていたプレイヤーとさっき吹き飛ばした剣を持ったプレイヤーと刀を持ったプレイヤーの4人だ。吹き飛ばしたプレイヤーのう1人はローアの魔法で力尽きてしまったようだった。
「あとは頑張ってくれ。手負いならこれ以上峰打ちが出来ないからな。それにこの程度なら3人でもやれるだろ?」
「……分かったよ。やればいいんだろ?」
「私、頑張る!」
「僕も頑張ります!!」
ザインは面倒くさそうに、ローアとナットは元気に返事をしてくれる。俺は周囲の警戒としてさっき落ちてきた岩の家で胡坐をかいて待機しておく。
「[疾風突き]!」
「[定点引力]!」
ザインがスキルを使い、プレイヤースキルで出せる全力の突きよりも速い速度で連続の突きを繰り出す。そのタイミングに合わせローアが敵を一点に集めて命中率を上げる。
現在武器を所持していない、双剣を持っていたプレイヤーと斧を持っていたプレイヤー2人がそのダメージに耐えきれずデスしてしまった。だが、剣を持ったプレイヤーと刀を持ったプレイヤーの2人は限界そうに肩で息をしているが、生き残っている。
「ナット!後のポイントはお前にやる!頑張れ!」
3人で配分することを意識しているのか、ザインとローアは攻撃をやめた。
「ぇえ!?ちょっと、僕攻撃手段あんまり……!!」
言い訳している間にもプレイヤーは攻撃してくる。だが、ナットのプレイヤースキルには目を見張るものがあり、二人の猛攻をしのげるほどだ。臆病な性格も相まって俺には少し大盾を使っていた俺をキルしたプレイヤーでもある[ミユ]の存在を彼に投影していた。
十数秒程2人のプレイヤーの猛攻が続いたが、
「[棘の盾]!」
ナットのそのスキルでダメージが反射され2人のHPを削り切ったのか、攻撃が止み、2人が武器を振り上げ、追撃を行おうとしたまま倒れてしまった。
一瞬訪れた静寂。3人は喜びハイタッチしていたが俺にはこの状況がどうもおかしく感じる。
それは俺を追ってくる大量のプレイヤーではなく羽の生えたプレイヤーの存在。
岩が落ちてきたことで木が倒され、少し開けた上、俺は今岩の上にいるので上空からは見やすいだろう。それに、俺の位置はマーカーで通達が入っているはずだ。
そう思い、上を見上げた時。俺の考えた通りに物事が進むかのように丁度のタイミングでその男が降りてきた。
「チッ!また来たのか?」
「来ちゃった。もしかしてダメだった?」
「知るかよ。歓迎してはいないがな。」
「そうかい!!」
高速で降りながら蹴りを食らわせようと足を突き出していたが、間一髪のところで攻撃を止めることに成功した。男は攻撃が止められると、蹴りを止めている槍を足場として蹴り上げ、再度上空へ向かう。
「お前ら!一旦隠れてろ!最悪他のプレイヤーに見つかったら会話してわざと寝返ればいい。そうなっても攻撃の意思がないなら俺は殺さないからな。そうしておけば他のプレイヤーからも、俺からも殺されずに済む筈だ。さあ行け!あいつにはお前らが力を合わせても勝てっこないぞ!」
男の様子を窺っているため振り向くことが出来ず、別れの言葉みたいになってしまったが、それでも俺の言いたいことが伝わったのか、一旦この場を離れてくれることにはなった。
さて……どうしたことか。




