42人達成に向けて
その後も、空中で男のことを追っていたが、その殆どが突撃に追いつけず置いてけぼりにされてまた出てくるのを追い始めるそう言ったことばかりで参考に出来るようなことはなかった。
というかなんでカメラのAGIの上限が400なんだよ!
俺はその怒りをグリードにぶつけるため、カメラの憑依をやめ、グリードに伝えることにする。半分口を言うようなものだけど。
「グリード!このカメラ、AGIの上限400じゃ、あのプレイヤーに追いつけないんだけど!もっと上げることはできないの!?」
「あ~。確かにな。」
「じゃあ変えてよ!!」
「変えたいんだけども……カメラの映像が綺麗に映ってかつ出来るだけ動ける速度の限界がまずこの速度だからな……」
「じゃあ一部のカメラのAGIを高くして今の羽の生えたプレイヤーみたいな移動速度の速いプレイヤーを映すようにすればいいんじゃないか?」
「確かにな……ただ、これ以上カメラを増やすとサーバーにかなりの負荷がかかるんだよ……かといってプログラムを変えるつっても、俺じゃアクセスできないんだよ……また今度だな。」
「えーー!?!?やだやだ!今じゃなきゃいーやーだー!!」
俺は思わずお菓子を買ってもらえない子供みたいにわがままを叫んでしまった。今年で27になるというのに。
「オホン!!もうそろそろ1時間経つから、準備してくれないかな?」
「あっ、はい。」
結局グリードに咳払いまでされて止められてしまった。お互いに目が死んでしまっている気がする。
することのない準備をさもあるかのように体を動かして準備する。跳躍とか屈伸とかの準備運動だけども。
「じ、じゃあ頑張って……きます。」
「あ、ああ。頑張ってこいよ……」
気まずい空気のまま一度別れてしまった。
まあ、頑張りますか。
フィールドにスポーンし気持ちを切り替える。ゆっくりと歩きだし、最初グリードが言っていたように「1時間で42人ペースでキルする」ことを軸に行動し始める。ただ、1時間あたりに必ず42人キルできるわけではないので見つけたプレイヤーはなるべくキルしていくようにしていきたい。
数十分前にモニターでどこら辺に敵が多いか目を通していたので、そちらに向かうことにする。いつも通り歩こうかと迷ったが、少しでもキルペースを上げたいので走って向かう。それに時間が経っているなら敵の数も減っているだろうから、早めに向かうに越したことはない。
走っている道中、逃げているかのように後ろを向きながらこちらへ向かってくるプレイヤーの集団に遭遇した。
槍を左下から斜め上に振り、俺の左側で走っているプレイヤーを撃破し、流れるように槍を振り下ろし右側で走るプレイヤーを撃破。
その後突きを繰り出し、撃破したプレイヤーの背後で走っていた別のプレイヤーを撃破。
叫び声を上げて死んでいったものだから、まだ戦意が残っているプレイヤーは武器を装備しこちらを襲ってくるが、俺の顔を見るなり絶望を露わにする。
いや、お前が向かったんだから俺悪くねぇよ。
そう思いながら俺は向かってきた敵に槍の刃をぶっ刺したり、体を裂いたりする。
途中、何人かに逃げられたけども、追いかければ問題ない。逃げるといっても途中まで走るだけじゃ安全とは言えない。それなら拠点に逃げ込むだろう!
そう考えた俺は1人のプレイヤーをこっそりと追いかけることにしたのだ。
堂々と走ってなんていたら、拠点に逃げ込まないだろう。自分で言うのもなんだけど、上位勢でも多人数じゃないと太刀打ちできない俺が追いかけてくるんだから、余計拠点に逃げ込まなくなると思う。
こっそりと、物音を立てずに……見失わない距離を保ちながら……
そう考えながら木の幹の裏に隠れたり茂みの奥でしゃがむなどしてもし後ろを向かれても見つからないよう細心の注意を払って追いかけた。……やってること、ストーカーだなこりゃ。
しばらく自分自身の人間性について心の中で葛藤しながら追いかけると、何やら洞穴のような割れ目の中に女性プレイヤーが入っていったのが見えた。
……ん?女性プレイヤー……?あっ……これは完全に良くない。
……いやでも!ゲームだし!!どうせキルするし!意識してたわけじゃないし!そんな趣味ないし!
文句をひたすらに心の中で叫んだが、全部やった自覚があるみたいな文句になってる。ダメだこりゃ。
どちらにせよ、拠点らしきものを補足できた以上、攻め込むことに変わりはない。「おじゃまします」と心の中で話した後、洞穴の中へとゆっくり警戒しながら進んで行く。
道中は人が2人通れるかギリギリの幅で、一度に多くの人数が入れないような形状をしている。逆を言えば、攻めるルートが1つしかないので先頭がタンクだったり射程の長い槍だったりすると打開が一気に難しくなる。……火魔法をぶち込めば窯の中で焼けるピザみたいにこんがりになりそうだけども。というか、ツリア達の戦闘を見てるとき、ついでに拠点の構造を見ておくべきだったな……
そんなことを考えながら歩くと、穴の先がだんだんと明るくなってくる。恐らく開けた場所なのだろう。そう思い、その明かりに向かって歩く。予想通り、開けた場所に出てきたようだ。
中はそれなりに広く、天井も高いし照明もついている。10人ほどのプレイヤーが丸太でできた椅子に座って休憩していたり、中心の大きな子葉みたいなオーブを守っていたりする。オーブは半透明で透き通っており、水色に輝いている。それを子葉が二枚の葉で半分ほど覆っている。その中にはさっき追っていたプレイヤーもいる。
「てっ、敵襲!!」
「え、NPCだ!!」
「誰か花火を!」
「花火使ったらリスキルされるぞ!」
「そもそも拠点の外に出られねぇ!」
拠点に入ったことでプレイヤーは大混乱。仮に外に出られてもオーブを破壊されるか、自身の拠点の位置が割れてリスキルされ続けるかのどちらか。俺にとってはそんなことどうでもいい。
「かかってこいよ」
敢えて攻めずに戦闘を促す。
「チッ!!なめんなよ!!」
男の1人がそう言いながら手を掲げる。合図だったのか、その動きに合わせて様々なスキルが俺目掛けて撃たれる。前方にダッシュして攻撃を避け真っ先にオーブを破壊しようと槍を突きだす。
「ウオオオオ!!」
しかし、プレイヤーの1人が身を挺して攻撃を受けてオーブの破壊を阻止してきた。しかも槍まで律儀に持たれ抜くことが出来ない。
「すまない!!……今だ!かかれぇ!!」
プレイヤーの1人が謝罪したのち、チャンスを無駄にしないよう全員で攻撃させようとこちらに向かってくる。今持っている槍に固執していては攻撃を受けてしまうので一度手を放し、近寄って来たプレイヤー数人を拳で殴り今の状況を切り抜ける。
「振り回してやるよ!」
この一瞬で槍を抜こうと試みたが刺されたプレイヤーはまだ抵抗しているのでもう諦めてそのまま振り回すことにする。人道を外れている気がするけども、放さないのだから、仕方ない……よね?
「あああぁぁぁああああ!!」
振り回すことで痛みによるものなのか、恐怖によるものなのか、プレイヤーは叫び続ける。ただ、余計に力を入れ余計に放れる感じがしなくなった。
だがその分、当たり判定が大きくなったおかげで迂闊に他のプレイヤーが寄りかからなくなってきた。味方に当てるのもちょっと遠慮しているのもあると思うが。
それなら遠慮なくオーブを破壊しますか。プレイヤーが刺さったままなので、そのプレイヤーをオーブに当てるように突きを繰り出す。
案外脆かったのか、オーブはガラスのように割れ、欠片を散らした後、エフェクトとして霧散する。
『NPC[スピア]がギルドのオーブを破壊しました。』
まずは1つ。




