あやしいチェーンソーつかいがやってきた!
「ふぅ……」
あれから休憩のために木の上に登ってコアラみたいにしがみついてだらんと休憩していたわけだが、プレイヤーがやってくることもなく、ゆっくりと体を休めることが出来た。
視界不良のデバフが完全に治ったタイミングで移動しようと木から飛び降り華麗に着地。そのままいつも通りといった感じで辺りを歩き始める。
動いてなかった分、少し体を動かすためのウォーミングアップとして適当なプレイヤーと戦闘したいので少しだけ早歩きする。
耳を澄まし、視界外からの情報も積極的に取り入れるように索敵する。そんな時、近くで誰かの会話音が聞こえる。
歩き続けて入るものの、その音を聴き逃さないよう足跡を立てず、聞こえる方向の逆に言って離れすぎないようにする。
「ハァ、ハァ……何とか逃げ切ったけども、あいつやばいよ……」
「あぁ……あの残虐っぷり……本当に人か……?」
「しかもあいつの武器……剣なのか斧なのか、それとも新種の武器なのか……よく分かんねぇからどんなスキル持ってるかも予想しづらいんだよ……」
「そう───」
「シッ!静かに!」
会話を聞いていると、何かに追われているかのような話しぶりと、その何かが近づいたかのように突然会話をやめる。確かに、話し声が聞こえた場所よりも奥から茂みが揺れる音が聞こえる。
一度木の上に跳び移り少しだけ見通しのいいところから聞こえる方向を見る。
そこには3人組のしゃがんで口を塞いでいる男女と1人の大柄な男。3人は恐らくあの大柄な男から逃げているのだろう。敵パーティーがあの男にキルされたときの恐怖で逃げたか、パーティーの1人がやられて今の人数になったか。理由はどうあれ少しだけ背の高い草むらに身を隠し、必死に隠れている。
大柄な男は呼吸のための穴がいくつか開いているマスクを着けている。長靴とズボンとエプロンが繋がったみたいなウェーダーを装備し、右手には肉を切る用の長方形の包丁を持っており、血を直接表現せず、エフェクトで表すプレコロにしては珍しく、遠くでもはっきりと見えるほどの量の鮮血が包丁に描かれている。
「[ソナー]」
男は辺りを見回し、追いかけていたプレイヤーがいなくなったことを疑問に思ったのか、スキルを使用し索敵を行う。
すぐさま男は3人組を見つけ草むらをかき分ける。
「見ぃつけた」
3人は草むらをかき分けて見つかるよりも前に走りだし、男から逃げる。3人組のうちの少女の1人はAGIが低いのか、逃げている男2人よりも移動速度が遅い。というか2人とも助けてやれよ。
大柄な男は少しだけ足の遅い少女を追いかけ始める。大柄な男の方が足が速いのか、少しずつ距離を詰められる。
「オラ!」
肉切り包丁を振り下ろし、少女の背中に当てようとする。
「[防御魔法]!」
咄嗟に展開したスキルで包丁は弾かれ、男は一瞬動きが止まってしまう。
「[火球]!」
その隙に魔法を叩き込み、男は防御に回らざるを得なくなった。
「[緊急招集]、ほら、うちらで倒すよ!」
少女がスキルを使うと、逃げていた男2人が空中から召喚され、盛大に転ぶ。
「ちょっと、さっきまであんなに怖がっていたのに、急に倒すとかイかれたんじゃないのか?」
「そうだ、何ならお前が一番怖がっていたし、俺らよりも強いあいつが一瞬でやられたんだろ?」
「あ……相性とか、チームワークとかあるじゃん!それに、失ったポイントは私たちで取り返さないと!ね?」
「ウーン……そこまで言われたらなぁ……」
「あいつのためにも頑張るか……」
男2人は弱音を吐いていたが、少女よりも弱音を吐いているのは格好付かないのか、少しだけやる気を出す。
「いい気になりやがって……[チェーンソー]」
大柄な男がその話を聞いていると癪に障ったのか、スキルを使い武器を取り出す。スキル名通り、チェーンソーだ。肉切り包丁同様、血がついているが。
「……やっぱ逃げない?」
「お前あんだけ戦うとか言って逃げるのは無しだぞ?」
「うん。」
「あ…………はい……」
さっき言っていた「武器種が分からない」ってのはこういうことか。確かに、剣みたいといっても、明らかに機械的で重量がありそうだし、斧と言っても刃の部分が大きいからそうとも言えないし。
まぁ、見た目は剣っぽいから剣でいいや。
「オラァ!」
エンジンをふかし刃が素早く動き始めると、男は3人目掛けてチェーンソーを振る。
「[魔力壁]!」
[防御魔法]が使えないので少女は代わりのスキルを放つ。さっきよりも見た目が分厚くなった魔力の壁だったが、チェーンソーの破壊力は抜群なようで、少しずつ、横から見ればその壁にめり込み、着々と壁の先に進んでいる。
3人はそれに気付き逃げ始めるが、移動速度は全員の中では大柄な男の方が速かったようで、追いついた男はチェーンソーを横から振り、全員を巻き込もうとする。
その時、1人の男が剣でチェーンソーを止める。だが、チェーンソーの破壊力に剣が耐えられず、剣の真ん中あたりで2つに折れてしまった。大柄な男がチェーンソーをもう一度振る時、剣を折られた男が目を瞑った時、俺はふと思った。
あ、そうだ。戦うために来たんだった。
少し焦り気味に木の幹を蹴り、4人の元へ飛ぶ。せっかくなら全員をキルできた方がいいので、大柄な男を蹴り飛ばし、助けることにする。
足を延ばし、大柄な男の顔面に蹴りを入れる。
「ブヘェ!?」
怖そうな見た目とは違った情けない声を上げて奥の木に当たる。
「な、何だ!?」
3人組の1人が突然声を上げる。
「う、嘘でしょ……?」
「こいつ、スピアじゃないか?」
それに合わせて少女ともう1人の男も声を上げる。盛り上げてくれてドーモ。
「助太刀……と思ってくれても結構だが、俺はお前らともやり合うつもりだからな。覚悟しておけよ」
「え、あ!はい!」
「に……逃げるぞ!」
俺が3人組に声をかけると、逃げていった。本当ならこの3人キルしてからこのチェーンソー男もキルしたかったけどそれじゃ助けた後に期待を裏切る胸糞悪いやつに……いやなってもいいのか。
今から追いかけてキルしても問題ないけども、せっかく逃がした意味が無くなっちゃうしいいや。
「さて……さっさと終わらせてあの3人を狩りたいんだ。それでも早く死なないでくれよ?」
「ハッ、あの3人含めお前もぶっ殺してやるよ!」
「やれるもんなら、やってみろ」
俺が睨みながら話せば、大柄な男はマスク越しに睨み返す。
どちらが先に攻めるか。その読み合いが始まり2、3歩ほどの距離を一定に保ったまま移動する。[クルセイア]を持ち、間もなく来る戦闘に備える。
「さぁ来いよ。ビビってんのか?」
「お前もそうだと思うがな。」
「フッ、よく言うな。」
一息おき、彼に再度話す。
「じゃあ、行くぞ」
「かかって来い。」
その言葉を言い切った後、思いっきり踏み込み距離を詰める。エンジンの音が響く中、懐に入り腹部に突きを入れる。
チェーンソーで弾かれたとき、いつもと感触が違うと思い一度離れる。
恐らく、チェーンソーの刃が動いているのと刃の形が不揃いなせいで弾かれると普通に武器と当たる時と違い、その刃の影響で変な方向に力が働き、こうなったのだろう。
「どちらにせよ、これを対処しなきゃ攻撃を当て続けるのは難しいかもな。」
独り言のようにボソッと呟き、再度男の元へ走り出す。




