感覚を掴み実力という壁を登る
ギリギリ2回分書けた……!!土日も頑張るぞー!!
もしかしたらまた平日2回投稿になるかもしれないぞー!!
もしそうなったら許してくれーー
「参考にされたか……」
さかなは少しよそ見をする。
「ハァ……今だ!ハァ……」
チヨメは数本の錐を投げるが、さかなが持っているクナイで殆どの錐を弾かれてしまう。なんとか一本だけ攻撃できたが、それでも浅く傷つけた程度。さかなの全身を見ると、そんな傷がいくつもできているが、大きくHPは削られていないようだ。
チヨメの方は深手を負ってこそいないものの、トリッキーに戦うさかなの攻撃スタイルに何度も惑わされHPを削られ、走れるほどの体力もあまり残っていない。
チヨメは己の得意である視線を動かさず周辺視野で錐を正確に投げられることと、振りかぶらずに指5本を巧みに動かして錐を投げられることを生かし、錐の投げる方向を悟られず、さかなに向けて投げた錐で見えない死角に錐を投げ、少しずつ攻撃している。だが、死角を狙う必要があるため、さかなに直接攻撃を加えようとすると見つかって攻撃のタネがバレてしまうため迂闊に攻められないのだ。
「ハァッ!!」
さかなが頭上に向けてクナイなどの飛び道具を投げる。またトリッキーな攻撃が始まってしまう。
チヨメは自分の残っている体力をいかに使わずさかなの攻撃を防ぐか。向かってくる攻撃に錐を投げるのか。錐を振って攻撃を弾くか。
そんなことを考えるが、ふと思いつく。「普通に頭上で飛んでいるクナイを弾けばいいのではないか」と。思いついたなら即実践。チヨメは頭上のクナイに錐を投げる。
だが、さかなもそうはさせまいとクナイを投げ、錐を弾く。
チヨメはそれならばとさかなとクナイを同時に視界に収める。
見える範囲なら正確に投げられる。その自信から挑戦した攻撃。クナイに当たるよう、方向を調節した錐を2本投げ、さかなに3本の錐を投げる。
さかなは慌てたようにクナイを瞬時に5本投げすべての攻撃を捌いたが、仕掛けを実行できずにクナイが地面に刺さり、括られていた札が爆発する。
「巧いな。だが、もっと刺激が欲しい……といったところかな」
「褒めてもらえて光栄だよ!」
チヨメはさかなの言葉に反応するが、攻撃の手は止まらない。
「どうした?突然雑になって?」
さかなは挑発交じりに声をかけ、片方の眉を歪めてチヨメの方を煽るように見る。
「ああそうかい!!もう私には正確に投げることし───」
チヨメは怒りの感情を乗せてさかなに怒鳴るが、突然閃いたように話すのをやめ、攻撃の手も止める。
チヨメの言う「正確に投げる」は、タイミング、場所全てが完璧な状態で投げること。そして、飛び道具や屋で攻撃する遠距離攻撃では、一部のスキルを除いて即着弾はないため、ある程度の予測が必要。それを日常茶飯事の様に完璧にこなすチヨメはその”経験”という自信から1つだけ、思いついた即興の”トリック”をやってみる。
チヨメはさっきよりも力を込めて錐を3本、いつもより錐が速く飛ぶように投げる。さかなは右利きなのか、今までの攻撃は全て右手で弾いている。つまり、錐が弾かれる方向は───
「ここだッ!!」
チヨメは弾かれた錐が飛ぶだろう方向めがけて、保険の意味も込めて6本投げる。弾かれた錐は縦横不規則に回転するため、4本の錐は当たることなく素通りしてしまう。残りの2本は当たりこそしたものの、片方は地面にそのまま叩きつけられてしまった。だが、もう1本はチヨメの望み通り、弾かれた錐に当たり、威力こそ失ったものの、さかなの右足のふくらはぎに刺さった。
「よし!!」
チヨメはガッツポーズを決め、喜ぶ。さかなは足に痛みが走り、急いで錐を抜き、少しだけ冷や汗を垂らすが、同時に同じ飛び道具使いが戦闘を通して成長することに少しだけ嬉しさを感じている。
チヨメがガッツポーズの後、深呼吸をして気持ちを整えると、さかなも同じタイミングで気持ちを整える。
「「さぁ、いくぞ!!」」
2人が同時にクナイと錐を投げる。さかなはクナイをチヨメの後ろの空めがけて数本投げる。
「[マーク]」
さかながスキルを発動すると、チヨメの体の中心辺りに銃のレティクルのような、ゲームで標準を合わせるときに出てくるような十字が重なった丸の図形が赤く光り表示される。
一度攻撃した相手を無条件でマーキングし、自動追尾の効果を得た飛び道具を投げるスキル。弾けば効果を失うが、発動者の任意のタイミングで飛び道具が動くため、警戒する対象を増やさないといけない厄介なスキル。チヨメも持っているものの、さかなのプレイスキル的にすぐ弾かれるだろうと思ってあきらめた。
「[反射板]!」
さかなは続けざまにスキルを発動し、板を数枚投げる。その板は[マーク]で宙に浮いているクナイに張り付き、宙に浮くオブジェクトへと姿を変える。
さかなはそこにも狙ってクナイを投げ、多方向からの攻撃を試みる。
だが、チヨメにはその攻撃方法はあまり効果がない。周辺視野で正確に物事を判断し錐を投げているということは周辺視野で物を見ても正確な位置が把握できるということ。
本人にとっては視界が動きまくるため撮れ高がないため多用はしないが、この状況を打破できる手段としてはかなり有効だ。それに、クナイが来た方向から錐を投げ返せばさかなの元へ錐が飛んでくれるので、避けるついでに錐をプレゼントしていく。
「甘い甘い!!」
さかなはそう言いながら錐を弾く。チヨメはさっきと同じように弾かれた錐に新しく錐を投げてさかなに攻撃しようとするが、それを理解していたさかなはあえて弾き方を縦にして錐を飛ばす方向を変えたり、大きく動いて弾かないようにして避けたりして対策する。
「ないなら作るまで!!あんたがやったように!!」
チヨメはさかなの攻撃方法から着想を得て錐をわざと適当な方向へ投げたり、投げ方を変えて回転しながら投げるようにしてみる。
空高く打ち上げた錐に錐をぶつからせ、その反発で回転数を増やしさかなへと降らせる。弾かれた錐は自ら錐を投げて攻撃の手数を増やす布石へと変える。使えるものはどんどん使っていく。
感覚を掴んだのか、弾かれて不規則に回転する錐に当て、弾かせる成功率がどんどん上がっていく。
さかなも反撃としてチヨメが投げて弾いた錐にクナイの後ろ側の札を当て爆発させることでクナイ単体での仕掛けの発動を可能にさせ、チヨメに攻撃していく。元々トリッキーな攻撃スタイルだったのか、感覚を掴むというよりも、元々持っている自分の技を応用し当てはめているようにも感じる。
お互いの飛び道具がぶつかり合い、不規則に弾ける。時には自分の投げた飛び道具が返ってくるチヨメだったが、少しずつ慣れていき、着実にさかなの方へと錐を飛ばせるようになっている。
「[針千本]!」
チヨメが発動したスキルは自身の飛び道具を大量に投擲できるようにするスキルだった。加えて指の間に挟んだ4本の錐を一度に全てを正確に投げることが出来るため、チヨメとの相性のいいスキルだった。さらに、錐に錐を当てて弾かせる戦い方を完全にマスターしたのか、普通に錐をたくさん投げるだけでなく、変則的な攻撃方法でさかなのHPを減らしていく。さかなもクナイで弾き深手を負わないようにしているものの、着実にダメージを受けている。
チヨメが錐を投げるのに熱中し、さかなも瀕死状態になったとき。さかなは一言だけ、スキル名を発する。
「[発射]」
その時。チヨメの後ろにあったクナイが数本、背中に深々と刺さる。さっき[マーク]で宙に浮かしていたクナイ。チヨメは己の成長とさかなを追い詰めているという情報で頭がいっぱいになり、すっかり警戒を解いてしまっていた。
HPが大きく減り、0になるかというその時。
「まだ終わってねぇんだよ!勝つまで!撮影を止める訳にはいかねぇんだよ!」
チヨメは手に持っている錐を回転させるように投げてばら撒く。
「[呪いの釘]!」
最後に1本だけ残っていた錐にスキル効果を纏わせ、投げる。己の感覚を信じて投げた残りの錐と、その1本。何本もの錐が弾き、確かにさかなに刺さった。
「まだ……ま……だ……」
チヨメはHPがゼロになり、その場で手を伸ばしたが、力が抜け地面に横たわる。「DEAD」の赤い表示がいつになく赤く、色濃く表示される。
「[浄化]……!」
ジュウゥゥという熱いものを冷たいものにつけた時のような音が響く。
「ハァ……ハァ……危なかった……」
さかながHPをほんの数ミリだけ残していた。疲れたのか、手をつき胡坐をかいている。
呪いの釘は発動者のHPが1割未満で発動可能な[呪い]効果を持った即死スキル。さかなに刺さったが、彼は[呪い]効果対抗手段である[浄化]を取得していたため、[呪い]が効ききる前にギリギリ発動できたのだった。
さかなは胡坐をかいたまま深呼吸し、「フゥ!!」と思いっきり息を吐く。
「さて……援護に行くか……」