ギルド長の談話と斬りあい
「お互い、1人ずつ減ったか……」
「そうだ……そうなんだけども……ベンケーが欠けたのは結構痛いな。今の戦いで減りすぎたし。……まぁいいか」
「そう気負うな!俺が言えたことじゃねぇが、まだ時間はあるし、ギルドの人数も多いんだし巻き返すことはできるだろ。」
「うーん……まぁそう言われればそうだけども、なんかこう?やる気がちょっと削がれてしまったというか?」
「それは知らない」
「ちょっとくらい共感してくれよ……」
フウまるとランがお互い、刀を交えながら会話する。といっても動きが速いので並大抵の人は会話できないだろう。
談笑はさておきといった感じで会話が止み、お互いが戦闘に集中する。
2人の刀が強く当たり、音を立てると、2人は一度下がり、一足一刀の間合いの距離の分だけ離れる。
足を肩幅程度に開き、利き足を少しだけ前に出し刀を構え立ち止まる。静寂に包まれるその空間には、なぜか風の音ひとつ聞こえない。
その時、1枚の葉が2人の目の前を通り、地面に付く。
「[縮地]!」「[一閃]!」
同時にスキルを放ち距離を詰める。フウまるは刀を横に振り、ランの胴めがけて刀を振る。ランは刀を縦に構え攻撃を止める。
「[水紋]」
ランに止められた刀をスキルで強制的に動かし、横一面、フウまるを軸に土星の環のような斬撃を繰り出す。ランは膝をつけるようにしゃがんで回避すると、刀を下から振り上げ、スキルの後隙を狙う。
それに気付いたフウまるは刀の柄でそれを止め、刃の裏側である峰を掌で押しランの首元に刃を近づける。
「[ジャストパリィ]!」
フウまるが刃をランの首元へ近づけたとき、既にランは刀を双剣に変えている。片方の剣で刀を押しているため、視界外の情報を力の変化で感じていたフウまるは武器を変えたことに気が付かず、攻撃をもう片方の短剣に止められてしまった。
「[嵐の目]」
天気予報で見る台風のような回転しながら外側へと動く斬撃が白いエフェクトとしてフウまるを中心に上へと動く。ランはその攻撃で後ろへ吹き飛ばされ、斬撃が襲い掛かってくる。全て防げずに数撃受けてしまったが、ノックバック主体のスキルなのか、HPが大きく削られたわけではない。
双剣を持ったまま右手の指を2本立て、スーツに付いた汚れを少し払う。
「本気……出すのか?」
「……察して言ったのか?まぁ俺がやるような雰囲気だしそうせざるを得ないのだろうだけども」
ランの言った言葉にフウまるが少し過剰に反応する。普通に話すよりも少し抑揚の変化が大きく、少し面倒くさそうに話す。
「じゃあ行くぞ。[血刀][徒桜]」
フウまるがスキルを唱えると、どこからともなく傷口が開き、血を抽出し、集めることで刀や装備を形成する。装備したと同時に桜の花びらが数枚、フウまるの体の周りをフヨフヨと漂う。すると、漂っていた花びらが服に吸われ花びらの形をペイントするように桜色が染み込む。
さほど見た目に変化があったわけではないが、本気を出すと言ったのなら、それほどの効果があるスキルと考えていてもいいのだろう。
「俺も行くか。[ペテン師の嘲笑]」
ランがスキルを唱えると、顔もとにエフェクトが現れ、ワイパーの様にランの顔の上を通ると、その後にお面が出現する。人を面白おかしく笑わせ、楽しませる道化師のようなお面。そのお面はにっこりした顔にギザギザした歯が満面の笑みとして大きく描かれている、何とも不気味なお面だ。ランはそれに合わせてなのか、はたまた勝手に武器が変更されたのかは分からないが、武器を投げナイフを用いる飛び道具へと変更する。
「さ、はじめるか。」
ランが飛び道具であるナイフを双剣を持つように構え、フウまるにかかって来いと促す。
「ああ!かかってこい!」
だが、フウまるは使用した[血刀]のスキルが攻めに向いていないと思っているのか、逆にランに向かってくるよう促し、自身は刀を振り血の色をした軌跡をばら撒き、防御の体勢を整える。
ランは[血刀]により発生した軌跡の効果を知らないため、一度試しに自身の持っているナイフを1つ投げる。
カキンという音と共にナイフが弾かれ、その場に落ちる。
「なるほど、跳ね返らず攻撃も反射とかで帰ってはこないと。単なる障害物か。」
ランはフウまるとは少し離れた距離で冷静に分析を行う。
「戦闘中に考え事は厳禁!![血の鉤爪]!!」
軌跡として残るベール越しに同じ色の弧を描いた形をした斬撃が3本ランに向けて飛んでくる。
ランは軽く跳躍して後ろに下がって回避する。
「そして発動者からはこちらが見えると。」
ランはそう独り言のように話しながら、空高く、数本のナイフを投げる。
「[第三の眼]」
ランがスキルを発動したが、特に変わったものはない。だがランには確かに変わっているようで、
「見えたぞ。その隙間から打ち込めばいいんだろ。」
ランは新たに飛び道具を投げる。その中にはブーメランや鉛玉といったナイフとは違うものが含まれている。
「[タネ明かし]」
ランが新たにスキルを発動すると、ナイフの後ろに黒い球状のなにかが紐で括られていた。
「……まさかな。」
「そのまさかだよ。さかなの動きを参考にした。」
フウまるにはこの状況に見覚えがあるようだった。
それと同時に最初に投げていたナイフが落ちてくる。鉛玉が刃の先を掠り、落下しているときのナイフの状態が少し変わり、フウまるの方を向く。ナイフに掠って威力を落とした鉛玉は、そのまま放物線を描き、別のナイフの後ろに括られている黒い”なにか”に直撃する。
その正体はさかなが爆発する札を用いていたようにナイフに括られた小型の爆弾であり、鉛玉が接触すると爆発を起こし鉛玉を再び浮かす。あまり威力が乗らなかったのかフウまるの頭上で落ち始めた。
ブーメランは少し遅れてランの方向へと戻るように動きだす。そのまま爆弾に直撃し方向を変えていたナイフを飛ばす。ナイフは爆風で鉛玉より少し早く落下し、フウまるの頭上にたどり着く。
元々気付いていたおかげで血のベールを張り防ぐことが出来た。だが───
「はぁ!?嘘だろ!?」
ナイフはベールを破り、フウまるの頬を縦に裂く。
フウまるに向かって落ちていったナイフは血のベールにより一度弾かれたが、それほど爆風の威力が乗らずに軽く弾かれた程度だったが、鉛玉によって刃が垂直に落ちるようナイフの持ち手を直撃し、鉛玉の落下による威力増加でナイフはベールを貫通したのだった。それを見たランは高笑いする。まるで狙っていたかのように。
ランは[第三の眼]を使用しフウまるの頭上に空いている隙間を発見。そこにナイフと鉛玉を入れ込むために工夫したが、気付かれ防がれるどころか、そもそもさかなの唯一無二ともいえる変則的な攻撃を完璧に真似できず狙いがずれてしまっていた。結果としては成功なのだろうが、実のところはただの幸運によるものだった。ランも、フウまるにとっては成功して高笑いしているようだったが、彼は思っていたのと違うこと、なんでか成功したことにどういう反応をすればいいのかわからず、お面の中で苦笑している。
「これは解除した方がいいかもな。[血刀:解除]」
ただ、フウまるを警戒させることはできたのでさっきも言った通り、結果論で言えば成功なのだろう。