激しい戦いは実のところミスによるもの
今週の用事の疲れが溜まってしまい(言い訳)、投稿が1つになりました。来週の平日は忙しいこともなくほのぼの(?)書くことが出来ますのでそこで2回分投稿しようと思います。
それと前に言おうと思ったんですが、すっかり忘れていました。この作品の設定資料集である「公認NPC?これ、俺なんだが。 攻略本」を投稿しました。 といっても現時点ではプレコロに触れることなく主人公の現実世界の話しかありませんが。
もしかしたら増えているかもです。
「[気合い]!!」
ベンケーのその一声で、ヒズミが両手に持っているナイフが彼の首元で止まる。
硬いものに思いっきり腕を振り下ろしたかのように、衝撃がヒズミの腕にビリビリと響く。
ベンケーはヒズミとの距離を取ろうと、ヒズミの足を薙刀から離すように薙刀を激しく動かす。だが、ヒズミは刃の通らない、硬くなった首元にナイフを引っ掛け、それを軸にして体をベンケーの背後に動かす。左足の脛と右足の靴の裏を背中にピッタリとくっつけ右腕でベンケーの首元を絞める。
「随分と……勝ちに貪欲だな……」
顔を少し赤くしながら苦しそうに声を振り絞ってヒズミに話しかける。さっきの話の流れからヒズミはベンケーの意図を汲み取り、こう話す。
「それでも、もらえるもんはもらっとかねぇとな。」
そう最後にベンケーに話すと自由になっている左手に持っているナイフをベンケーの顎と右腕の隙間に通し、喉を勢いよく斬る。スキルの効果が切れたのか、首には刃が通るようになっている。
腕の隙間からエフェクトを散らすベンケーを彼の背後から確認し離れると、ベンケーは首元を押さえながらスキルを唱える。
「[背水の陣]![止血]、[殿![弁慶の一振り]!」
ヒズミはこれまでベンケーと戦っていた中で、基本的に致命傷を入れた時に復活するような場面は見たことがない。つまり、今回ベンケーがスキルで復活してきたのは初めて。これまでと同じと思い警戒していなかったのでベンケーの薙刀が最速で振られる攻撃を避けることはできず……
「グハッ!!」
腹部へ一の字の傷を負ってしまう。傷口、口からも赤いエフェクトを撒き散らしながら後ろの木に飛ばされ、背中を強打する。木が揺れ何枚か緑の葉がゆらゆらと落ち、その衝撃の強さを物語っている。
「さぁ、かかってこい!!」
ベンケーはエフェクトが溢れ出てくるのが止まっているものの、首から胸にかけてはエフェクトで赤く染まっている。それに加えてヒズミが攻撃したわけでもないのに、少しだけ目元から涙が流れるように、口元から涎がダラダラと垂れるように赤いエフェクトが流れる。
「はぁ……別にここで死んでもいいが、そんなにやる気なら私だってやる気になってあげなきゃなぁ!」
ナイフをしまい体に着いた土煙を音を鳴らしながら手で払い、立ち上がる。
そして、1つのスキルを唱え両手の握り拳を胸のあたりで思いっきり叩き合わせる。
「[不正駆動機器]!」
拳がぶつかる音は、鉄を打つような金属音が響き、それと同時に血管のような赤い線がヒズミの体中に引かれ、全身にペイントされると、彼女が装備しているような銃などの大量のパーツが音を出しながら宙を舞い、ヒズミの体に吸収されるかのように消えていく。
ベンケーからは見えていないが、背中に車のマフラーのような管が6本生え、灰色の煙を漏らしながらドルルンとベンケーにも聞こえる音を立てながら激しく振動する。
このスキルはSTR、AGIを[愚者]以上に強化するぶっ壊れスキルなのだが、勿論代償がある。それは、3分で力尽きるものだ。
ヒズミはベンケーのやる気に煽られ、挑発に乗りすぎてしまい、普通に間違えてこのスキルを使用してしまったのだ。そのため、周りの人にとってはかなり乗り気にも見えるが、当の本人は「やりすぎた」 その一心である。一瞬固まっていたが、「どうせ死んでもいい」と言っていたことで勝手に自分で納得し気を取り直す。
ベンケーも同じようになっていた。[殿]で同じように強化していたもののその代償は大きく、パーティーメンバーが死亡する、もしくは3分以内にパーティーが誰とも接敵していない、「非戦闘」の状態になっていないと自身が死亡する、完全に自信を犠牲にして味方を逃がす「殿」という言葉通りの効果となっている。ベンケーは完全にやってしまったと思っているが、エンジョイ勢だしとさっき言った言葉をヒズミと同様に勝手に自分で納得している。
お互いが3分という時間制限を設けられているため、冷静に状況を判断しタイミングを見計らっていたが、ついに痺れを切らし───
「「ハアアァァッ!!!」」
同じようなタイミングで、距離を詰めベンケーは薙刀を、ヒズミはナイフを振る。
先に仕掛けたのは得物が小さく、動きやすいヒズミだ。彼女は両手に持っているナイフで薙刀を止めると、素早く右手のナイフを薙刀の持ち手に合わせてベンケーの腕から封じようと腕を伸ばしながらナイフを振り下ろす。ベンケーは彼女に懐に詰められてから満足に薙刀を振ることはできないので、ヒズミの体の全てを支えている右足を自身の左足で払う。
回転しながら払った足に当たったことでヒズミは体勢を崩し、ベンケーはそのまま右足を軸にしたまま薙刀を回転の威力を乗せて振る。
体勢を崩していてもヒズミは仰向けの状態から両手をバネの様にして素早く起き上がり、薙刀の上を通過し体勢を直すと、再度突っ込む。ベンケーは持ち手を使い近づかせまいと牽制程度に薙刀を振るが、しゃがんで避けられ距離を詰められる。
ヒズミは駒の様に回転しながらナイフを振りつつ、立ち上がりベンケーをナイフで突く。薙刀を細かく動かし、ナイフを止めると、薙刀を縦に回転させ、ヒズミの回転の隙を狙う。それでもヒズミはベンケーを目で捉えられているのか、右腕を引っ込ませ薙刀を避けると、薙刀を掴み、ベンケーに近づく。
薙刀に乗られたまま距離を詰められてきたので、ベンケーは思いっきり薙刀を右に振る。ヒズミは足を引っ掛けたが、薙刀を振りながらベンケーの手で掛けている足を外され距離を離されてしまう。
ヒズミは空中で体をひねり、着地すると、ベンケーとの距離を一定に保ったままベンケーから見て左の方向へと走る。
射程ギリギリのところでベンケーは少し焦ったのか、薙刀を少し早く振ってしまう。
するとそのタイミングに合わせ、ヒズミが近づきながら右手に持っているナイフをベンケーに向けて投げる。
ベンケーは薙刀を振ったままで対応できず、左目にナイフが深々と刺さってしまう。それでも食らいつこうと薙刀を振る右手に力を入れ振る方向をすぐさま変え、ヒズミに再度攻撃しようと薙刀を反対方向に振る。
左目が見えなくなったことでヒズミのいた方向は赤く染まってしまいよく見えないが、当たった感覚はある。ただ、確認することが出来ないので、警戒するに越したことはない。そう思ったベンケーは残った右目で左の方を確認する。
そこには何もない。だが、画面外から僅かに聞こえるエンジンの音。ベンケーは直感を信じ一歩下がりながら上を向く。
「ハアァッ!!」
薙刀を蹴って高く上がったことによる手応えという直感は当たり、そこには空高くから落下し、右足を振り下ろすヒズミの姿が。
「[過剰流速違反]!!」「[鬼人の拳]!!」
ヒズミは赤い模様をさらに赤く染めながら空中で大きく加速しベンケーは薙刀を捨て右腕に血管が浮き上がるほどの力を込め、赤い電気のようエフェクトを撒き散らした拳をヒズミの足に当てる。
足と拳がぶつかり合った時、激しい衝撃と共に、お互いの赤いエフェクトが放電するかのように辺りに散る。
自傷ダメージを含めた高威力のスキルがぶつかり合い、激しい衝撃が空気を伝い、木々を揺らす。
そしてその衝撃が体に響くと、ベンケーの膝に力が入らなくなったのか、少し体勢を崩してしまい、拳が右にずれ、ヒズミの足が肩に直撃する。
エフェクトを散らしながら消えるその時。
「[儚く散る桜の花弁]」
ベンケーがスキルを唱えると、エフェクトが散るのがほんの一瞬止まる。効果を少しだけ残し、赤いエフェクトを纏う拳がヒズミの体に直撃する。
「せめてもの道連れだ。……まぁおれにとっちゃ負けだなこりゃ。」
「はっ、よく言うよ……」
お互いがエフェクトを撒き散らし、その場で立ち止まる。
ベンケーが先にエフェクトを散らしきり完全に消え、その後を追うようにヒズミの体も消えていく。
[弁慶の一振り]というスキルを短期間に二度使用しているのが前話から分かると思いますが、本来、[弁慶の一振り]はもう少しクールタイムがあります。クールタイムのうちはそのスキルは使用できませんが、とあるスキルを使用することで自称ダメージとクールタイムを無視して使用できます。そのため、目と口からエフェクトが溢れています。
実はこの描写は最初の方にもあるんですが、どのスキルの影響によるものなのか時間があれば探してみてください。