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己の強みを捨てて

 お互いが走り出しベンケーが先に薙刀を振る。ヒズミは銃を構えることなく走り続け、ナイフが届く距離になると、ナイフを振る。

 ナイフが振りやすいとはいえ、薙刀が先に振られていたのでヒズミは回避するべきだ。だが、リーチが長いということは距離を離して戦うことが普通。持ち手が当たるような距離にいては武器の性能を発揮することはできない。

 ベンケーは薙刀を振る手を止めずに後ろに下がる。これなら攻撃の手を止めずに薙刀の刃をヒズミに当てられ、ついでに攻撃も避けることが出来る。

「そー来ると思ったよ」

 ヒズミはそう言うと、薙刀が自分に向かって振られているというのに、眉一つ動かさずに銃口をベンケーに向け、トリガーを指で押し、弾を飛ばす。

 ベンケーは予想はしていたものの、自分が避けられるわけではないので、攻撃の手を止め薙刀で飛んでくる銃弾を止める。ヒズミはベンケーが防御に徹すると同時に横へ一歩進み、1度弾切れになるまで弾をベンケーに撃ち切る。ベンケーは薙刀を回転させるように弾を全て弾くが、そのタイミングでヒズミは弾を装填し、走り出す。

 ベンケーは薙刀を縦に振り下ろし、ヒズミを迎撃する。ヒズミは右手に持っているナイフで薙刀を流す。

 ベンケーの膂力と薙刀のサイズ的にナイフは流すことすらできず本来なら破壊されるほどの威力を食らっているはずだが、ヒズミのナイフは見た目からして普通のものとは明らかに違う。ヒズミの持っている銃の様に青い線が入っており、材質も金属であるのは確かなのだが、磨かれたかのような光沢に、滑らかになるように加工された見た目になっている。

 それはともかく、薙刀をナイフで流したヒズミは銃弾を撃ち込まずに思いっきり腹部に突きのように鋭い蹴りを一発入れる。ベンケーがよろけたタイミングで1度銃をしまい己の拳と片手に持つナイフで戦おうと構える。弾を多く消費せずに戦おうとしているのか、そもそもベンケーと戦うのに銃など必要ないのか。前者であれば残り時間が6時間と少しあるので仮に弾がイベント期間中、補給できないのであれば理にかなっているのかもしれないが、後者であるのならば彼女はかなりの自信に満ちている、というか自身の力に慢心していると考えてもいいだろう。彼女は銃をしまった後、一歩下がりこう話す。

「てめぇに銃弾なんて撃ち込むくらいなら周りの奴らに撃ってポイント稼いだ方がいいからな。それに、私が死んだところでポイントの減少は私たちの方が少なく済むからな。」

 彼女の言ったことは実際、フウまる達のギルドメンバーはさっき迎撃したときかなりの数キルされた。つまり、ラン達のギルドは多くのポイントを稼ぎ、フウまる達のギルドは多くのポイントを失ったというわけだ。どちらにせよ、フウまる達が損をしたことに変わりないので勝ちにせよ、負けにせよヒズミにとっての損はないわけだ。

 これがもしヒズミやランなどの上位勢や高い実力を持つ人をキルした時だけ高得点が入るルールがあるならヒズミは負けないよう全力で戦っていたかもしれないが、あいにくそんなルールは無い。

 ベンケーはヒズミの言葉を聞いて迷いもなく答える。

「確かに勝ち負けでいえばそうだ。だが、俺たちのギルドは勝ち負けよりもネットでの武勇伝を語るためのエンジョイギルドだ。それに時間はたっぷりある。また巻き返せばいい話だ。」

「はっ、お前ららしい答えだ!」

 ヒズミは話し終わると同時に距離を詰めようと走りだす。

 ベンケーはタイミングを見計らい、薙刀を振る。ヒズミはナイフを持っている片手で薙刀を止めながらさらに前に進む。拳を振り上げ、ベンケーの顔面目掛けて拳を鋭く突き出す。

「そう来ると」

 ベンケーの顔に拳がめり込んだ時、ベンケーはそのまま顔をヒズミ目掛けて動かし

「思っていたぞ!!」

 頭突きを繰り出す。大柄な体であるため十分に威力があるのかヒズミは頭突きをもろに食らうと少しよろける。薙刀を押さえていた片手の力が緩み、薙刀がよろけた体に直撃する。

 ヒズミは状況を立て直そうとバックするが、大柄故に手が長かったベンケーに腕を掴まれ引っ張られる。

「[スモーク]!」

 ヒズミは視界を奪う煙を撒き散らし隙を狙って脱出を図る。彼女の腕をつかむベンケーの腕にナイフを何度も刺すが、離すことはない。

「[断ぜ───


 ベンケーがスキルを唱えようとしたとき、腕が下に引っ張られる感覚と共に視点が縦に回る。

 ヒズミがこの状況でベンケーに近づき勢いよく股の下をくぐりベンケーの体をひっくり返したのだ。

 ベンケーは反撃を警戒して薙刀をできるだけ広範囲に届くように勢いよく振る。手応えはあった。その感覚と同時に、周囲の煙が薄くなり、視界が広がる。一度地面を転がり体勢を整え手応えのあった方を見る。


 ヒズミは左足のすねの部分を斜めに切断されている。刃が当たり反応して跳んだ時に斜めに斬れたのだろう。右足のみで立っているが、何度も失っていたのか、バランスを保ち焦ることなく立っている。

「ハァ……いつぶりだ?足無くなったの」

 ヒズミはそう言いながら切断面を平らにするように自分の左足を自分のナイフで斬る。自傷ダメージでHPが削られるはずなのに、なぜそうするのかベンケーは疑問に思う。今までの戦闘でヒズミが腕を失ったのは何度か見ていたが、どんな状態でもそのまま戦っていたからだ。

 ヒズミは空いている手にナイフを持ち、両手にナイフを持ったところでベンケーとの距離を詰める。

 片足でケンケンするように走るのではなく、モザイクエフェクトで作られた足場のようなものを左足で踏み込みながら出来るだけ普通に走る状態に近い感じで走ってくる。ゲームであるため痛みはある程度軽減されているものの傷口に体重をかけて走るなんてドMか、感覚がイカれているプレイヤーしかやらないだろう。


 さっきとほとんど速度を変えずに距離を詰めるヒズミにベンケーは容赦なく薙刀を振る。ヒズミは速度を落とさないように薙刀の上を通るように高く跳び、薙刀の持ち手にタイミングを合わせて足を乗せ、踏み込んでさらに距離を詰める。

 薙刀の端を上にあげて防御しようとしたが、ヒズミはフックのように右足の甲を持ち手にかけ、膝を曲げて距離を詰める。そのまま両手のナイフをベンケー目掛けて振り下ろす。

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