ギルドの強みのぶつけ合い
さかなとチヨメがお互いの飛び道具を投げ始めた頃、ヒズミは周囲を見渡しながら銃を構え、いつ、どこから敵が来てもおかしくないよう、警戒している。
ヒズミは今回みたいな対戦系のイベントで何度かフウまるのギルドと戦っている。それ故にこの後何が起こるかは、さかなの行動からもう確定している。ただ、これから起こることは時と場合によって大きく形を変える可能性があるので周囲を警戒していないと全てを対処しきれないのだ。
元々片目を眼帯で隠しているため、視野が狭く常に視点を動かさないと360度全体が見えないため、普通よりもかなりの集中力が必要となる。
と、その時。遠くの茂みが僅かに動き、「ガサガサ」という音が小さいながらも聞こえてくる。
「そこからか!!」
ヒズミは茂みの動きに反応し、すぐさま弾丸を3発撃つ。すぐに「DEAD」の表示が3つ見えるようになる。すると突然、予め隠れていてバレていないプレイヤーが動いたのか、全体の茂みが全て激しく動く。
「やっぱりな!![熱源感知]、[自動装填]!」
ヒズミは口早にスキルを2つ唱える。最初に放ったスキルは2分の間、プレイヤーやモブ、高熱を放つオブジェクトを赤く強調表示するスキルだ。ヒズミの目に映る景色は、サーモカメラという温度を感知するカメラの画面を見るのに近い状態に変わる。
次に放ったスキルは、3分の間、ヒズミの持っている銃のリロードと散弾銃や狙撃銃の排莢を無くすスキルだ。別に弾を消費しないというわけではない。
ヒズミは体を駒のように回転させながら、近づいてくるプレイヤーの頭を的確に撃ち抜き排除していく。
撃つたびに銃の下から薬莢が飛び出し、カランコロンと音を立てる。薬莢同士が当たり金属が打ち合うキィィンという音もなる。
今ここに集まっているプレイヤーは全て、フウまるのギルドである[掲示板ホームズ]のメンバー。ギルドに入っている全メンバーの2割がここに集まっており、全ギルドの中で最もメンバー数が多い。ギルドの強さで言えば量より質で戦うようなギルドが多いためそこには劣ってしまうが、チームワークで見ればかなり高い部類ではある。
さかながステータス画面をいじっていたのは、イベントに参加しているギルドメンバー全員に招集をかけたのだ。
その数およそ300。今回のイベント参加人数は1049人なので、だいたい3割である。
この人数を集め、統率出来ているこのギルドはかなりすごいだろうが、それを1人で捌いているヒズミも相当なものだ。
プレイヤーが集まってから今まで、彼女がキルしたと思われる人数は約40人。ペース的には丁度いい感じなのだが、今回、プレイヤーたちは策を練っていたのか、突如として木が揺れる。
「隙ありッ!!」
木が揺れたのは木の上で待機しているプレイヤーもいたからだ。それに加えヒズミが振り向き木から攻撃しに跳んできたプレイヤーを対処しようとしたとき、空中からも攻撃しようと向かってくるプレイヤーが現れていたのだ。
「チッ、多いな……」
イライラしながら指を高速で動かし彼女の懐に入りそうなプレイヤーを一度殲滅し、銃をパーツごとに分けるように分解し、インベントリから新たにパーツをいくつか取り出す。
「[展開:散弾]」
するとパーツが宙に浮き、素早く組み立てられ、ヒズミの手に戻る。
先ほどの拳銃の形とは変わり、散弾銃に近い形へと変わる。
拳銃のような水色の線が入った見た目と大きくは変わらないが、普通に銃撃戦系のゲームとかで見るようなリアルよりの散弾銃とは形が大きく違い肩に当てるストックの側面が凸凹になっている。
「[集約]」
ヒズミはスキルを唱え散弾銃を何発も撃つ。本来ならリロードが必要だが、効果時間は未だ続いているため、好きなだけ撃つことが出来る。そして、唱えたスキルの効果で、散弾が飛び散り有効射程が少し短いことを補い、スキル名の通り弾を集め、より遠くの敵にも高ダメージを狙えるようにする。
ただ、さっきよりも射撃の間隔が遅いため、何人かは生き残ったままヒズミの元へ向かうことが出来てしまう。
「ハアアアア!!」
剣を縦に振り、双剣を横に振り、槍で刺突を繰り出す。ヒズミの元へ向かうことが出来たプレイヤーは順次攻撃していくのだ。
ヒズミは銃の形状が大きくなったことでさっきよりも防御しやすくなり、近距離にも対応しやすくなった。なぜなら……
「オラッ!!」
銃のストック部分が凸凹になっているので、打撃を与えることでわざわざ狙うことなく、弾を消費することもなく近距離で戦うことが出来るようになるのだ。
振り下ろされた剣を銃で受け止め、腹部に蹴りを入れる。双剣が横に振られるので、ストック部分で弾き銃を頭部目掛けて振り下ろす。後ろからハンマーが振り下ろされてきたので、ハンマー持っている人目掛けてズドンと一発。槍で刺突を繰り出されれば横に避け槍の持ち手を引っ張り、体勢を崩させて顔面を殴る。続けざまに剣を振りに来たプレイヤーも殴り、遠くから矢が放たれたときは華麗によけ、撃たれた方向にいる弓持ちを打ち抜く。
上から双剣持ちが降り、背後から刺そうとしたときも、気付かれてしまい、ストックで腹部を思いっきり殴る。
AGI重視に振って撹乱しようと向かう者もいたが、攻撃のタイミングで動きが緩やかになってしまい、そこを狙われ返り討ちにあってしまう。
近接がダメならと、遠距離攻撃の手段を持つ多くのプレイヤーが遠くから狙撃する。
ヒズミは場所こそ分かるものの、多方向から撃たれるせいで反撃に回れない。
「[簡易防塁][展開:狙撃]」
ヒズミは土嚢を積み上げた防塁を3方向に積み上げ、銃を変形させる。バレルが長くなり、スコープが付き狙撃銃へと変わる。
「要らねぇんだよこれ」
ヒズミはスコープを人の髪の毛を千切るように強引に外す。狙撃銃から冷や汗のようなものが流れている気がするがそれは気のせいだと信じたい。
土嚢が積まれた防塁によって冷静に攻撃できるようになったヒズミは己の眼を信じ一発一発撃っていく。スキルの効果が切れているため、撃つたびに排莢が必要になっているためボルトを毎回動かすが、その動きがなぜか映えて見える。
ヒズミはスコープを使わずに撃っているが、これは決して自身の実力を過信した気持ちの表れではなく、今のような多人数戦で射撃に集中しすぎず、周りの攻撃にいち早く反応するためだ。
後ろからの攻撃は土嚢によって防がれるものの、数発は土嚢を超えてくるので、時々動いて撃つ方向を変えている。また、狙撃銃に変えたことで近接武器のプレイヤーも出てくるので、その都度腰に差しているナイフで対応もしていく。
少し攻撃の勢いが止んだところで、額の汗を拭い、周りを見渡す。
「チルア、少し苦戦してるな。当たらないんだろ。それなら雑魚を任せたいんだが……」
「はーい。当たらない以上、相性ってのがあるからねぇ~……んじゃ。よろしく。」
チルアはベンケーに手を振り、ヒズミとハイタッチして対面状況を変える。
「さぁて……頑張りますか!ヒズミからのお仕事!」
持っている双剣を遊ぶように一度手から離して上に軽く飛ばし、改めて持ち直す。
銃の知識浅いので間違った使い方をしてるかもしれません……




