可愛さに見合わない実力
ちょっと今回説明多いですが、その部分ちょっと飛ばしても大丈夫な感じの無駄知識?みたいな感じです。
[バーサーク]と[薔薇の国]の戦闘が終わる数分前に戻る。南東側ではランをはじめとした[変な称号集合!]のパーティーが4人。
ランがギルド長を務めるこのギルドの特徴は、同じような戦闘スタイルが少ないことによる対応できる幅の広さ。その中でも突出している4人がパーティーとして森の中を探索している。
「うーん……こんなんじゃ映えないよ……」
しばらくの間変わっていない森の風景に怒りを覚えながらも冷静に行動し、先頭を進む雪のように白い肌に淡い青色の瞳の可愛げな女性が1人。彼女の名前はチヨメ。このギルド内で唯一、称号を持っていないが、称号を必要とするこのギルドには入れている。理由としては現状あまり人気でないフルダイブ型VR動画の投稿を行う人気動画投稿者としてチヨメが活動していることが1つだろう。
フルダイブ型VR動画はプレイヤーの視点に合わせて画面がつくられているため、動画を見るためのスマホ、パソコンの平面にうまく対応せず、手間のかかる動画となっているのだ。その画面を安定させ投稿している彼女の活動の頑張りと、今後称号がつくだろうという予想から「体験」という形でしばらく活動しているのだ。
ランはギルドの方針に則れば体験期間が終わればすぐに追い出す考えなのだろうが、彼女が動画を見やすい工夫のために視点をあまり動かさずに広い範囲を索敵したり、自身の攻撃で画面が見えにくくなるのを防ぐため、最小限の攻撃回数で正確に致命傷を与えられるプレイヤースキルの高さにかなりの興味を示しているため、本心なら称号を持っていなくてもこのギルドに入れたままにしたいのだ。
「あ!見っけ!」
そんなことを話しているうちにチヨメが敵を見つけたようだ。先陣を切り少し先へ行くチヨメを見てランは残った2人に指示を出す。
「ヒズミは先に進んで援護しろ。チルアはチヨメとヒズミの攻撃に合わせて決定打を与えてくれ。俺は遠くでバフでもかけておく。」
ランは手につけている手袋を変形させるようにして杖を出す。
「「ああ!」」
2人はそれぞれ自分の位置に移動するように先に進んで行く。少し間を置き、ランもついて行く。
「スタンバイオーケー……!」
茂みの中から小声でチヨメが話す。視界を十分に確保するように草木を動かし、敵の目の前に移動し、武器を構える。彼女の武器は飛び道具であるかわいくデコられた錐を使っている。
飛び道具にはいくつか種類がある。広範囲を攻撃するが扱いが難しいチャクラム、高威力で広範囲だがタイミングの調整が難しい手榴弾、安定した速度と威力を持つ投げナイフなどだ。錐は攻撃範囲が最も小さいが扱いさえ極めてしまえば速度、威力共に高水準の武器となる。
彼女の視点の中心から1本の錐が吹き矢のように素早く放たれる。奇襲だったので敵は気づいておらず、1人が呆気なく頭部を錐に刺され倒れ込んでしまう。
「てっ敵だ!!」
「1人で飛び道具!やれるぞ!!」
残った3人が武器を構えチヨメの元へ攻撃しに行くが、チヨメは手に持った錐を一本ずつ、丁寧に投げる。彼女は視点を変えることなく錐を敵の腕や足を狙って投げる。彼女の実力なら一撃でキルすることも可能なのだが、
「映えさせるために、少しだけ楽しんじゃおっかな?[磔]」
スキルを使用し、刺さった錐をスキルでもう一度動かす。さっき投げた時と同じような動きで斬りの刺さったプレイヤーを運び、木や地面に体の一部を固定する。
「皆さん、やっちゃってくださ~い!」
チヨメは援護が来ていることを知っていたのか、大声で伝える。
その時。2発の弾が2人のプレイヤーの脳天を撃ち抜く。数秒経ち、撃たれた方向からヒズミが出てくる。彼女の手にはハンドガンが1丁。プレコロの世界観に見合わない近未来をイメージさせる水色に光るラインの入ったハンドガンをくるくる回し、銃をしまうホルスターに入れる。銃を入れると同時にホルスターから銃が落ちないようにするためなのか、側面からベルトが伸び銃を固定する。
「チヨメ、その錐抜いてくれ。チルアを戦わせてやりたいからな」
「はい!分っかりましたぁ!」
チヨメは歩いて直接刺さっている錐を抜く。錐を抜かれたプレイヤーは一瞬焦ったものの、チャンスと持っている剣をチヨメ目掛けて振る。
「ちょっとぉ、せっかく助けたのに不意打ちは酷いよぉ……。まあいいや。プレイヤーのぷれぜんとあーげるっ!」
持っている錐で振られた剣を止め、離れていく。その上からチルアが現れる。
紫色に輝く双剣を振りながら剣を持ったプレイヤー目掛けて襲い掛かる。絶え間ない連撃に剣持ちは反撃できずに受けきるしかなかったが、突如として剣が溶けるように崩れてしまう。
「[蟲毒:融解]」
そのタイミングでチルアがスキルを使っていたのだ。
攻撃が防げなくなったプレイヤーはチルアの双剣2つの攻撃を腹部に2回食らう。
「[蟲毒:崩落]」
スキルを唱えると、プレイヤーの傷口から体から欠片が剥がれ落ちるようにボロボロと崩れていき、最終的に「DEAD」の表示が出てしまう。
「終わったよ。ギルドマスターは何やっていたのやら。」
途中からやってきたランに向かってヒズミがそう言い少し睨む。
「やんなくていいもんはやんなくていいだろ。TP節約だよ。」
ランは反論する。まぁ理由としては筋が通っているのでヒズミは納得してそっぽを向く。
ここで紹介していないヒズミとチルアの紹介をしておく。
ヒズミは前にスピアこと玖ノ又力が見た手配書の人だ。称号は[異常者]。特徴としてはプレコロが発表している武器種にない「銃」を使用しており、装備も一部が近未来を連想させるような装備となっているが所々ボロボロである。
チルアは紫の髪に緑の線の入ったツインテールの女の子。称号は[蟲毒]。スピアが前に戦った[毒使い]であろう称号は強力な毒を用いた戦いをすることで得た称号だが、[蟲毒]の称号は違う。様々な効果を持つ毒を場面によって使いこなす必要があるのだ。麻痺毒、睡眠毒などのデバフ効果を持つ毒から、さっき剣を溶かしたような装備に影響を与える毒。詳しくは省くが、[蟲毒]の特徴はなんといっても毒の強さ。スキルとして[蟲毒]を得ることで持っている毒系のスキルの個数に応じて毒の効果が底上げされる。また[毒耐性]、[毒無効]のスキルの効果を無視して決定打を与えられる、いわば[毒使い]の上位互換のような称号なのだ。
「はいはい!!次行くよ次!!一個上のギルドとのポイント差もなんだかんだ埋まって来てるんだから。」
チヨメが再度先頭に進む。またさっきと同じようにしばらく進むと新たな敵を見つける。
チヨメは攻撃のため進もうとしたが、先に気付かれていたようでその場で構える。
「気づかれた。手練れかも。」
「その通りみたいだな。ありゃフウまるたちだな。」
槍を持ったランが目の上に日陰を作るように手をかざし遠くを見る。
「あのNPCを倒すのに協力したって人?」
「ああ。そうだ。」
距離は離れていてもお互いがその存在に気付き、武器を構える。そして、その戦いが今、始まるのだ。




