ギルド長同士の争いという名の姉弟喧嘩
題名についてはep42の「誰が一番強いのか決めるため」の後書きを見てもらえれば。
時は少し遡り、カーズとツリアの2人。タイミングで言えばカーズが[狂戦士]を使い始めた時だ。
カーズは赤黒いオーラを纏う。
「言っておくが、あんたがどんなに強化していても、私は負けないよ。」
「何言ってるんだ?今までの78試合、39勝39敗、その内イベントでの4回あったチーム戦の勝率も2勝2敗の五分五分の確率。そんなので自信を持てるのか?」
「勝てる自信なら持てるさ。今までとは違うからね。」
そう言うとツリアは首元にある真っ黒に光る黒曜石のような宝石がはめ込まれたペンダントをカーズに堂々と見せつける。
「何だぁそれは?」
「[ユニーク]のペンダント、[執念]。お前のその[虚無]と同じ感情系の装備だ」
感情系の装備。ゲームや物語では主に「強欲」や「嫉妬」などといった七大罪系のスキルが取り上げられることがある。ただ、このゲームは独自性を生み出すためか、「執念」や「虚無」など、感情に関するような装備があるのだ。
いまだその全貌が掴めていないものの、プレコロ内ではかなり有名なのだ。
性能が尖っているため、使う人が少ないが、使いこなせる人は化ける。カーズが使っている[虚無]という名の斧であればDEFを犠牲に、STRをDEFの2倍上げる性能をしている。そのためカーズは圧倒的高火力で上位勢の地位を樹立しているのだ。また、DEFを上げられないのにどういうわけか攻撃を軽減する術を持っているため、それなりに耐久力もあるという反則じみた性能をしているのだ。
ツリアが取り出したペンダント、[執念]は自身のステータスを半減させる代わりに、相手のバフ効果をデメリットなく受け取るという効果である。
そして、マリーの放っていた[天の恵み]の効果は、「デバフを50%軽減し、全ステータスを5%強化」という効果がある。
つまり、ステータス半減の効果は25%に軽減され、ツリアはカーズの[狂戦士]と同じステータスの強化を受けている。
バフを受け取る前から拮抗しているということは、カーズがいくらステータスを強化しようが、ツリアも同様に強化されるため、カーズの勝機はほぼ0に等しい。
ツリアは[執念]の効果をカーズに説明し、勝ち目はないと告げる。
「そうだな。確かにこれじゃ勝ち目がないな。だが、そんなんでくたばるわけねぇだろ?」
「ま、あんたなら言うと思ったよ」
カーズは[狂戦士]を解除し、スキルを唱える。
「[天邪鬼]。そして[全力の業]」
カーズがスキルを使用したことでツリアはスキルのデバフを受けずに恩恵であるTP上昇の効果を得る。
「……やっぱりね」
「ハッ、さすがにこの効果は分かるか。」
カーズが使用したスキル。[天邪鬼]は、バフとデバフの効果を反対にするというものであり、バフではないため[執念]の効果が発動しない。そして、[全力の業]は、TP以外のステータスをそれぞれ75%減らし、減った分のステータスを全てTPに変換するというスキル。これを反対にすると、「TP以外のステータスを75%増やし、増えた分のステータスを全てTPで補う」というものに変わる。つまり、カーズはツリアを強化することなく自信を強化したのだ。
TPは主に攻撃スキルを多く使用する武器種である魔法使いや弓使いなどが使う。剣などの武器でも使うことはあるが、今回のカーズとツリアみたいに攻撃スキルに頼らず己のフィジカルと自己強化スキルで戦うようなプレイヤーにとっては殆ど必要ない。
お互いがバフをかけあうだけで競うという力の誇示だけで争っていた変な時間は終わり、お互いが武器を構え動き始める。
「ガルア゛ァァァッ!!」「ハアァァァッ!!」
2人が声を上げ、斧とハンマーを衝突させる。お互いがバフをかけ、ステータスが変わったというのに、実力は拮抗したまま。体の右上から攻撃しようが、中心めがけて武器を振ろうが、カーズから先手を打とうが、ツリアが仕掛けようが、どちらがどこを攻撃しても、丁度間で武器がぶつかり止まってしまう。
だが、攻撃スキルを使えるツリアの方が戦術の幅には分がある。そのことを分かっているのか、ツリアは数回斧とハンマーをぶつけた後に行動に出る。
「[帯電槌]!」
麻痺属性を纏ったハンマーによる攻撃。武器が交わり、斧を伝ってカーズの体に電流が走る。
「グッ……ォオオオ!!!」
カーズは今までに何十回も麻痺属性による攻撃を受けているため、[麻痺耐性:小]がついている。効果時間を短縮し、行動不能の時間を減らす。だが、麻痺により動けない1秒をほんの0.2秒短縮したところでツリアの攻撃が避けられるわけでもない。
「ハアァッ!」
ツリアはハンマーを大きく振り、カーズを浮かす。DEFが0だというのに、体は未だにピンピンとしている。
「[全力の業]を[解除]!![大車輪]!」
カーズは浮いたところを追撃されないよう、浮いたと同時にスキルを唱えステータスの変化を修正し、縦に何度も回転し、落下しながら振り下ろしを行う。
ツリアは横に回避し、攻撃を避けるが、カーズは右へ避けたツリアの追撃に右へ斧を大きく振りながら慣性を利用しツリアへ踏み込み、もう一度斧を振る。
ツリアはそれを一歩退いて避け、下から振り上げるようにハンマーを動かす。
「フン!!」
カーズは振った斧を無理やりでも動かすように軌道を変えハンマーの軌道に合わせる。ツリアはその斧を跳ね返そうとバク転するようにその場で回転し、ハンマーを振り切る。
斧を弾き、胴ががら空きになったところに、逆さまの状態でハンマーを横に振り、攻撃する。カーズは斧の持ち手部分で防御する。
動きが一瞬固まったところにカーズは蹴りを入れるが、ツリアも同じように蹴りを入れる。それもカーズの出した足に引っ掛けるように蹴りを入れ、体勢を整えた後、空中で駒のように回転しながらハンマーを大きく振る。
カーズも斧を振るが、遠心力の小さいカーズがほんの少しだけ力負けしたのか、足で少しの土を集めながら動く。
カーズは斧をずらし、ハンマーを流す。ハンマーを押さえる斧が無くなり、ハンマーが動くことで生まれる隙に攻撃を通すつもりなのだろう。
「甘いよ!!」
ただ、そんな甘い考えは通用しない。そのことを分かっていないカーズではない筈なので、少し焦っているのだろうか。ツリアはカーズから離れていくように動くハンマーを力づくで止め、カーズに向かって再度振る。
焦って判断を誤っても、やってくる攻撃には冷静に対処できるのか、斧をハンマーの軌道に合わせ、攻撃を防ぐ。
「[壊面]!」
ツリアがスキルを唱えると、ハンマーと斧の間に白い線を描くヒビが生まれる。それに遅れて、斧とカーズの間にも同じようなヒビが発生する。
ヒビが大きくなり、壊れる。空間を壊れたように景色が破片となって落ち、剥がれた先に紫の空間が生まれる。その破片はハンマーと斧の間のヒビからも落ちる。その時。
紫の空間からツリアのハンマーが飛んでくる。カーズは反応こそできたものの、斧を振られたハンマーよりも速く動かせず、顔面に食らってしまう。
ツリアのハンマー紫の空間を通して、カーズに当たったのだ。
「痛ってぇなぁ!!」
膝をつくが、それでもカーズはピンピンとしている。
「どうする?諦めて降参でもするかい?」
ツリアはカーズを見下しながら降参を促す。
「ハッ、そんな言葉で俺たちみたいな荒くれ者は止まらねぇんだよ!!」
包帯越しに妙に感じる視線。顔が見えなくても、その熱意は直接伝わってくる。ツリアもそれに感化され、心が燃えてくる。




