両ギルドメンバーの意地 2
ep1からep10まで読みやすいよう、改行の修正と、文の形式を整えるための細かい修正を入れました。
内容はそこまで変わっていませんが、修正が最新話に追いついたら最新話の書き方を変えさせていただきますので、今のうちに慣れておいてください(?)
フィリスが「本気を出す」と言ったことで、リク、エイタは自分の持っているすべてのスキルを出し切るように自己強化のスキルを重ね掛けして使う。
「[捕食者の眼][生存本能][悪食]!」
「[馬鹿力][破壊衝動][狂ウモノ]!!」
エイタが先にスキルを発動する。目が赤くなり、赤いオーラを纏い、口元に牙のようなエフェクトが出現する。
次に発動したリクには、赤いオーラに黒いオーラが混ざる。最後に発動したスキルはどういうわけか、発動したときにリクの発言がシステム障害でも起こしたかのように、途切れたり、止まったり、聞こえなかったりする。それと同時に、リクの全身にモザイクのようなエフェクトが武器も含めた全身に纏われる。
「2人とも、しばらく頼んだぞ!!」
「分かってる!!その時まで、しっかり耐えてるからな!!」
フィリスは事前に示し合わせていたのか、2人に声をかけてから地面深くまで掘り進め姿を一度くらます。
「私たちだって負けないよ!![死の宣告]!!」
「ああ![植物の世界][肥料散布]!!」
「[聖なる領域][絶対安息の地][生への救済]」
ミユとワタルがさらに強化し、ミユは自身にも炎を纏い、火力を上げる。ワタルは今も尚広がっていた自身の植物の領域をさらに広げ、植物をさらに増やし、隙間なく成長させる。
仕上げと言わんばかりにマリーがパーティーのダメージカットと回復効果のあるフィールドを作り、一回は確定で死んでも生き返るバフをパーティー全員にかける。
体の大きさこそ変わっていないものの、それぞれのオーラだけで見れば大怪獣同士が戦うようにも見えるのかもしれない。実際、この光景を少し目にしたプレイヤーは自身の「死」を感じるほどの空間に変貌していたのか、一目散に逃げていた。
「ブチ開けてやる!![大槌砲]!!」
リクが先手を打ち、ワタルの広げた植物に風穴を開ける。空いた場所に2人は入り込み、確実に近づいてくる。
「させるか![栗爆弾]!!」
ワタルは牽制に先陣を切るリクに栗の形をした爆弾を当てる。爆発範囲、威力共に欠けているものの、ひたすらに爆ぜ続ける大量の爆弾にリクは足を止めざるを得なかった。その時、空間を抉るように植物と爆弾が消える。
「俺が前に出る!」
エイタが何らかのスキルを使用して空間を抉るように捕食したのだ。
そうなれば植物で直接攻撃するワタルのスタイルは当たる前に無くなってしまうのでほとんど効果を発揮しない。
もちろん、それを分かっていて攻撃を続けるワタルではないので、ワタルは標的をリクのみに絞りエイタはミユに任せる。
「ハァッ!!」
炎が燃え盛っているというのに、植物に火がうつることない光景があるが今はそれどころではないと、誰も指摘せずに猛攻が続く。
エイタは植物や通常の武器などの直接触れる物質系はかじることで抉ることが出来るが、ミユの炎のような食べられないようなものや、ミユの武器である[ユニーク]の欄がある武器や装備と[不壊]の効果を持つ武器と装備を抉ることが出来ない。金属は食べられるのに、なぜ炎は食べられないのだろうか。それを問いたいのならば、グリードに直接物申すべきだろう。
植物はリクに一度切り開かれてはいるが、それでも生い茂っている植物は障害物となっている。
エイタは植物を噛み付いて抉りながら主に[拳士]のスキルにある[空虎]という拳を高速で振ることで空気の弾を発生させて攻撃する遠距離向けのスキルを使い対応している。また、ミユの炎が空気の揺れで動くということが分かっているため、[爆拳]という短距離だが空気に振動を与え爆発のような衝撃を与えるスキルで炎を一瞬払い、その隙に何度か攻撃することでミユに隙を与えない立ち回りをしている。
ミユはワタルが生い茂らせた植物がないかのように鎌を自由に振り回す。ワタルは植物の壁が突破されないよう、予め強度を高めたものなのだが、ミユはそんな植物をぴんと張った糸に刃を立てて切るようにスパスパと切っていく。
エイタはミユにダメージを与えるため植物を抉ってから攻撃という2つの動作を行っているが、ミユは鎌を振って攻撃する1つの動作だけでいいのだ。その分ミユとエイタの攻撃回数の差が広がっていき、エイタは攻撃する回数よりも防御、回避の回数が多くなってしまった。その状況に追い打ちをかけるように植物が生い茂っているため、エイタは回避のために周囲を抉る必要まであるのだ。それも加えてミユが攻撃を5回したころにエイタが攻撃を一回できるかどうか怪しいラインなのだ。
場所は変わってリクとワタルの2人が戦う場所。
リクもエイタと同じようにワタルに攻撃するために生い茂っている植物を破壊する必要がある。また、ワタルは魔法使いではなく、盾を使用しているため、植物を破壊して射程圏内に入ったとしても、盾で完璧に防御されてしまうのだ。ただ、状況はエイタとミユ程酷くはなく、ワタルも今の状態では決定打に欠けているため、拮抗状態とでもいうのだろうか。
「こうなったら使うしかないか。[紅の叢生]」
ワタルが出し渋っていたのかそのスキルを使いたくないのかは分からないが、少しイヤそうな顔をしながらそのスキルを唱える。
周りの植物に絵の具が滲むように、紅く染まっていく。その紅い色は、血なのか何なのかは知る由はないが、植物に意思を持たせるように染まっていく部分が不自然に動き始める。そして動くことで少しずつ成長するように棘を生やす。それも生ぬるいものではなく、確実に人を突き刺すため、殺すための明確な殺意を感じさせられるほどに鋭く尖っている。
ワタルが突然汗を流しながら膝をつく。
「ハァ……ハァ……死なないって分かってても、怖えな。やっぱり。」
その時、紅く染まった植物の茎が数本、ワタルを突き刺す。鋭く突き刺さる植物はワタルの体を貫き、途中に生えている棘なのか、ワタルに突き刺さった植物の茎よりも多くの本数の棘がワタルの体を体内から貫く。
血こそ出ていないものの、エフェクトが大量に零れ出ており、苦悶の表情を浮かべているワタルを見ればその痛みが鮮明に伝わりそうなほどだ。
HPが尽きたワタルは一度エフェクトに覆われて消える。生き返りはするのだが、マリーの近くで再復活する仕様なので、ワタルはリクとは離れてしまっている。
追撃に来ないのは、使ったスキルにそれだけの自信があるからなのだろう。
紅い植物は追尾するようにリクを攻撃し始める。
リクは今までの間隔で植物を破壊しようとハンマーを振ったが、少し強度が増したどころか、あまりの硬さに弾かれてしまう。
「ッ!![衝弧撃]!!」
リクは壊せないか試しにスキルを使用して威力を底上げする。弾かれることなくハンマーを振り切ることはできたが、硬いはずの植物がしなり、破壊されるようなことはなかった。
「こりゃマズいんじゃねぇのか?見た目的にエイタに壊させるのも不安だし……」
リクはハンマーを構えながら後ろに下がっていく。植物は肉食動物のようにリクの様子を窺いながらじりじりと詰め寄っていく。
追い詰められたリクは、ついに周りの破壊していない植物に当たってしまう。目の前には紅い植物。逃げ道がなくなってしまった。植物もそれを理解したのか、同時に襲い掛かる。
その時。地面が少しだけ揺れ、人影が飛び出してくる。
「[化石化]!!」
一本の植物がリクの腕に刺さった時、スキルを叫ぶ声が響き、周囲の植物が一瞬にして枯れる。
遠目に見ていたワタルは自身のスキルに対策できる相性の良くないプレイヤーが1人、増えてしまった。
「遅いじゃねぇか。フィリス。」
「悪い。タイミング見計らってたらピンチにさせちまったな。」
飛び出してきた人影の正体はフィリス。元々被っていた何らかの生き物の頭蓋骨に対応するように背中には背骨が、背中には肩甲骨が、部位ごとに骨が纏わりついている。
「スゥ……終わらせてやる!!」
フィリスは一度息を吸い、そう叫ぶ。
両ギルドの戦いが始まって18分。この戦いに終止符が打たれるまで、あと22分。




