真剣勝負
「さてと、仕掛けておいてなんだが、どうやって始めるんだ?」
「知らないよ。お互いが好きなように始めればいい。どんな状況でも勝てるのが勝者なんだからな」
「それもそうか……」
カーズとツリアの軽い会話から空気がピリピリしたものへと変わる。
「んじゃ、遠慮なく!!」
カーズが斧を肩に乗っけたまま走り出し、ツリアの目の前で大きく跳躍し斧を振り下ろす。
「行くよお前達!!」
「お前らも遠慮なくぶっ放せ!!」
大斧と大槌が火花を舞わせながら激しくぶつかる。それぞれのメンバーである6人はそれぞれ行動を始める。
「喰らいつくしてやるよ!」
エイタが先陣を切り、後衛であるマリーのもとへと向かう。彼女まであと数メートルというところで口を開き文字通り喰らおうとする。その口に向けて植物の太い茶色の枝が横切り、エイタの歯に引っかかる。
エイタはそれを嚙み千切り
「不味いだろ!なんてもん喰わせやがるんだ!俺はこう見えてもグルメなんだよ!」
一歩下がり口からこぼれた涎を服の袖で拭う。
「知るかそんなこと!テメェみてえな行儀のなってないやつにはまともなもんなんて食わせねぇよ!!」
ワタルがマリーを守るように立ち、挑発する。
「舐めやがって……!!」
ツリアを挟み、ワタルたちの反対の方向では、ミユに向けてフィリスの槍とリクの大槌がひたすらに攻撃を続けている。
「イヤぁぁぁ!!こんな攻撃無理ぃぃ!!」
泣きながら攻撃を全て捌く。もともと攻撃力が異常に高いリクですらミユの盾を剝がすことが出来ない。
「こいつ……どんな腕してんだ?」
「じゃあ、私が後ろから……」
フィリスが先の刃がスコップのようになっている槍で地面を掘り土竜の如く進み、地面を隆起させながらミユの後ろへと移動する。
「取った……!」
地面を掘り進み、勢いのまま大きく跳躍したフィリスは頭上から槍を突く。リクもそれに合わせてミユの正面から大槌を振りアッパーを食らわせようとする。
「ひぃぃぃ!!」
ミユは怯えながら盾を移動させ、盾の底面に大槌を当て、上面にピンポイントで槍の突きを当てる。
持ち方によっては盾が吹っ飛ぶかもしれないが、彼女は無意識にお互いの攻撃の威力を相殺し、衝撃を押さえる。生存本能とでもいうのだろうか。
「[篝火]!!」
ミユは2人を一時的に離すために盾から出てくる青い炎を身に纏う。2人は警戒し、一時離れたが、その火は一瞬だけ燃えたもので、再度2人は突撃する。だが、ミユはリクのもとへと向かい、攻撃を先に撃たせる。
「乗ってやるよ!!」
何かの作戦。そう感じたリクはわざと大槌を振るう。
「[二重衝]!」
スキルを唱え、大槌の衝撃を二倍にする。ミユはその攻撃を完璧に受け止め、衝撃で後ろに動いたものの盾は剥がれる気配すら見せない。
「隙あり!」
フィリスが地中から現れ槍で突く。ミユは軽く跳躍し、槍の上に乗る。
「っと……えい!!」
盾を槍に差し込むように振り下ろしフィリスを地中から引き摺りだし、盾を横に振り、フィリスを吹き飛ばす。
「……やるじゃんか。」
少しだけ顔が赤くなったフィリスは再度槍を構え、ミユを睨む。
「望むところ!」
ミユもそれに応えようと睨み返す。
その真ん中で戦り合うカーズとツリア。
辛うじて目に見えるが反応できるか怪しい、そもそもなぜこの速さで重量級の武器を振り回せるのか。
自由に武器を振り、当たりそうならば自由に防ぐ。間合いがほとんど変わらないというのに、攻撃の種類、方法だけが増えていく。
振り下ろしにアッパー、薙ぎ払い。この3つの動きだけでも攻撃が絶えない。
左から右上に振り上げるのなら、右上から左に振り下ろす。足に向けて薙ぎ払うのなら、軽く跳躍して避け頭部目掛けて武器を振るう。その隙を狙って薙ぎ払った後の右下から左上に向けてのアッパーを食らわせる。体をひねらせて攻撃を避け、頭部への攻撃はしゃがんで避ける。
武器に振り回されているのではなく、お互いが武器を振り回している。この戦いに重量武器のデメリットは存在しないということを感じさせるほど。
「遅いねぇ!鈍ったんじゃないのか?」
「そっちこそ、全力でやっても勝てるか怪しいんじゃねぇのか?」
「ハッ、大口叩くなんて、立派になったもんだねぇ!」
武器を振るいながら会話をする。そこら辺のプレイヤーがこんな戦いすれば会話すらできない程の高度な戦いをしているというのに、2人には余裕がかなり余っているのだ。
「[天の恵み]!!」
マリーがパーティーにステータス強化のバフをかける。
「だが、これはチームでの戦いだ。私1人に手こずっているようじゃ、あんたはいつまでも勝てないのよ!」
強化を受けたツリアが徐々にカーズを追い詰める。
「チィッ!」
カーズが一度下がる。
「まだまだぁ!![狂戦士]!!」
カーズが自己強化のスキルを使う。
少し場所を変えて、エイタとワタル、マリーの場所。
「喰い飽きたぞ!!もっとないのか?」
エイタがワタルが攻撃に使った植物を全て食い千切っているため、ワタル達は攻撃が全て有効打になっていない。
それにワタルは数発攻撃を当てているが、植物が食べられる度に少しずつ回復しているようにも見えるのだ。試しに毒属性を纏わせた植物で攻撃してみたが、それも効果がないようだ。
「マリー!有効打があまりないんだが、どうした方がいい?」
「一旦、ミユと合流した方がいいんじゃないかしら?」
「そうしてみるか……」
ワタルは一度ミユの方を見る。ミユは攻撃こそ対処できているものの、未だに[死神]のスキルを発動できていないため、劣勢のままだ。
それでも状況を変えるためと、少しずつ下がり、ミユのもとへと近づいていく。
「あぁん?逃げるのか?ま、俺はお前らを貪り喰うだけだからな!」
エイタは牙を剥き出しにして手と足で獣の如く走り、ワタルへと向かう。
「やっぱり追ってくるか![蔓の鎖]!」
「もう分かり切ってるんだよ!![狩りの爪]!!」
ワタルは拘束のためスキルを使うが、エイタに正面突破されてしまう。
「これで終わりだ!![獅子の顎]!!」
エイタの口に連動する牙のエフェクトが出現し、ワタルの盾に噛み付く。
「聞くか分かんねぇけど![麻痺毒]!!」
「俺に毒は効かな……ッ!?」
ワタルがスキルを使用すると、盾に巻き付く蔓に緑のエフェクトが水が染みていくように広がる。
エイタには[毒無効]のスキルを持っているため、毒は効かないが、[麻痺毒]のスキルは、[毒]と[麻痺]の2つの属性を持っている。効果が1秒と短いが、走ってミユと合流するには十分すぎる時間だ。
「すまないミユ!加勢されに来た!!」
「ありがとう!!死ぬかと思った~!!」
会話が嚙み合っていない気がするが、まぁ、お互いが状況を察したのか、マリーを守るように2人が彼女の前後に立つ。
「正面は」「背後は」
「「任せろ!!」」
「人が増えればハンマーは当たりやすくなるんだよ!!」
リクがワタル目掛けてハンマーを振る。
「[花粉嚢]!!」
ワタルの盾に当たり、ワタルは衝撃に耐えきれず、盾を剥がされてしまう。だが、ワタルのスキルが発動し、あたりに黄色い粉が舞う。
「何だ!?視えねぇ!!」
「[急成長]、[植物の森]!!」
ワタルがスキルを一連の流れとしてスムーズに唱える。すると、ワタルを中心にだんだんと植物が大量に生え、砂浜が草原のように変化する。
ワタルが重点的に使うスキルである植物。これが自身で作るものならば、彼はその全てを操れるということである。
「こっからは、本気だ!!」
グラス越しに僅かに見えるその目からは、真剣な表情というのが伝わる。




