誰が一番強いのか決めるため
勝負の行方を決めると言ったが、はっきり言って俺は今不利だ。なぜなら俺のHPは増え続けているものの、2~3発でも食らえばすぐに死ぬほどの体力しかない。つまり、この戦いはできる限りの被弾を0にして尚且つ俺とSTRが拮抗している状態に近いステータスを持ち、瞬間移動が可能な霊と戦わなければいけない。
お互いに近づき、最初の一発を加えようと、槍を振り、拳を振るう。槍は首を捉えたが、拳は腹部を捉える。すかさず槍を回し、攻撃を受け、流す。そのまま持ち手部分で腹部を小突き、霊の右足に蹴りを入れる。左足だけで安定しない体を支えようと精一杯のところに突きを入れようとしたが、霊は左足を軸足に大きく回転し、右足を引き、左手で殴り掛かる。
突きの向きを変え、左腕を正確に刺し、動きを止める。霊はこの状況を打破するためにがら空きの腹部に向け、蹴りを放つ。左腕に刺さっていた槍を抜き、勢いのまましゃがんで避ける。霊は外した蹴りを踵落としの要領でしゃがんだ俺に向け攻撃を仕掛ける。
片手と背中で槍を支え攻撃を受け止める。衝撃が強いあまり地面がひび割れ、その衝撃を食らった背中が痛み、HPが少し減る。
起き上がる時に力を入れ、踵落としに使われた足を払う。槍を持っていた左手で時計の針のように回転させ、霊の足に当てる。そして右手で持ち、引っ張って霊の体勢を崩させる。
起き上がり、連撃を加えようとしたその時、霊が消える。そして、後ろから足を掴もうと霊が飛び出してきたが、さっきの行動からおおよそのタイミングを掴み、避ける。そして、出現した後隙を狙い、空中で何度も突きを放つ。
「アアアアア!!!」
頭を何度も刺されても絶命しない霊は叫び、そのうるささのあまり、キィンと耳鳴りがして思わず耳を塞いでしまう。
「殺してやる!!!」
水たまりから出ている霊は右腕を伸ばし、足を掴むが、俺は掴まれたタイミングと同時に伸ばした手目掛けて槍を振り、腕を切断する。
「イヤアァァァァ!!!!」
腕がなくなり叫ぶ霊。それと同時に斬り落とされた腕が浮遊しながら移動し、槍を掴む。その手には血管が浮かび、余程の力を込めているということが分かる。だが、メルクが作ったイネイシァルはびくともせず、ただ赤茶色の輝きを放っているだけだ。
「叫ばず、苦しまず、受け入れればよかったものを!」
左手で槍を持ち、右手で霊の髪を掴み、持ち上げそう言う。
「終わらせてやるよ」
霊の赤く染まった目に視線を合わせ、高く蹴り上げる。そして、何発も、何十発も、突きを入れる。
何発か攻撃を弾くように残った左腕で槍を振り払っていたが、途中から防ぎきれず、何発も刺さっていき、ついには左腕を動かすこともできなくなっていた。
血のようにエフェクトが飛び服に着くことなくすぐに消える。
しばらくすると、霊が少しずつ薄れて見えなくなっていき、周りの真っ暗な風景も元の風景へと戻っていく。
「終わった……」
俺は疲れ切ったように体の力が抜けていくが、もしかしたら他の人が見ているかもしれないので、一度周りを見渡し、いないのを確認してからへなへなと大の字になって倒れ込む。
「おっと、スキル切るの忘れてた。[解除]」
疲れていて忘れていたので[愚者の矜持]を解除する。視界の所々が黒い模様で隠される。なんだかんだで久々に見たな。
視界が見えづらいことに対する不快感と久しぶりという懐かしさを感じつつ、その場に寝転び続ける。
その体勢のままイベントフィールドの時間経過を見れば1時間45分。30分上位勢たちと戦い、1時間上位勢を観戦し、残りの15分で少しルリ達と戦い、あの女性の霊を倒したのだ。思い返してみれば内容がかなり濃く感じる。今までは1時間かけてフウまるとかを倒していたのに、あんなに一瞬で倒せるものなんだなと。そう思っていた。
「15分間、待機してよっかな?」
流石に視界が悪い中では行動しにくいのと、スキルで回復速度が上がったにしろ、まだHPが全快ではないのでプレイヤーにで見つからないよう警戒しつつも、その場で少し休憩することにした。
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「嘘だろ!?あの霊がやられるとか異常だろ!?どんな強さしてんだ!?」
さやが箒から降りたタイミングで叫ぶ。ルリも落ち着いたのか、近くで立っている。
「じゃ、今度NPCと会った時は、花火を打ち上げるということでいい?」
「まぁ、あのスキルはさやのとっておきみたいなもんだから破られるくらいなら、俺たちで対処できるか怪しいかもな。」
「チームワーク……まぁ、安全な方を取った方がいいのかも」
「もう勝ち目無いだろ……逆になんでさっき勝てたのかを知りたいわぁ……」
パーティー全員が花火を打ち上げるという考えのもと発言をして、4人はまた移動を始めるのだった。
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スピアが女性の霊を倒した場所とは正反対の位置にある、少し開けた森の端には砂浜があり、海もある。風景だけを見ればリラックスできるような空間なのかもしれないが、この空間では少なくともリラックスはできない。
「久しぶりだな。ツリア」
「ふん、久しぶりも何も、会いたいときに会えるでしょ?カーズ。」
「ヘッ、リアルなら会えるがな。この世界にその話は持ってくるのはご法度だぞ?」
ツリアのパーティーとカーズのパーティーがご対面しているのだ。
少し話が逸れるが、このゲームには「ランキング」というものが存在する。キル数、デス数などから算出されるが、それはプレイ時間で左右されているためあまり公平とは言えない。そのためこういったイベントでは、プレイ時間が決められているため、順位が近い人同士、「どちらのランキングが高いのか」という対決が良く行われる。カーズは1位、ツリアは2位だ。そして、ランキングの高い=ギルドの士気が上がるという考えがあるため、ギルドのメンバーはそれに協力するのだ。
カーズのパーティーは[斧使い]斧持ちのカーズ、[人喰い]拳士のエイタ、[破壊者]大槌持ちのリク、[土竜]槍持ちのフィリスの4人。対するツリアのパーティーは[槌使い]大槌持ちのツリア、[盾使い]盾持ちのミユ、[守護者]盾持ちのワタル、[聖女]杖持ちのマリーの4人。
それぞれのギルドのTOP4、ゲーム内の上位30に入る者が集まり、今この地で「どちらが上か」というのを決める。
勝者はこの戦いの「一位」という小さな名誉を手にし、敗者は何も残さない。イベントで勝てばいい話だというのに、お互いが接敵することで真の戦いとなる。
これはお互いのプライドとギルドメンバーの期待を賭けた全力の戦いなのである。
ちなみにカーズとツリアは姉弟です。
[バーサーク]のギルドは「実力がある」というのと「プレイヤーキルが大好き、または趣味」という人が多く入っています。
ツリアがカーズがプレコロをしているというのをたまたま知り、さらにカーズが暴れているというのを知りました。「こんなゲームしてたらいつしか犯罪犯すんじゃ……?」と思いながらカーズを止めるため、1人で止めようと始めましたが、プレイヤーキルの楽しさに気付き当初の目的を忘れてしまいました。
その時にたまたま会ったのがミユとワタルとマリーの3人組でした。3人は防御に関してはピカイチでしたが、攻撃に関してはミユの盾ように確立や状況で大きく左右されるような性能のため、あまりいい方ではありませんでした。[バーサーク]のメンバーに襲われているところをたまたま助けてそこからパーティーを組むようになり、しばらくしてギルドを立ち上げました。ミユの盾にある薔薇とワタルの盾である植物から「薔薇」を連想し、3人が防御が高いことから「守るべきもの」を考えた結果、「薔薇」と「国」から[薔薇の国]と名付けられました。
このギルドは[実力がある]というのと[攻撃または防御が上手い人]という人が多くいます。また、実力があっても上位ギルドに門前払いされる盾持ちを多く受け入れているため、防御力の高いギルドとしても名が知られています。
そして、ツリアが本来の目的を忘れているため、この争いは2人にとって「姉弟喧嘩」に近いものとなりました。
以上、2つのギルドとギルド長に関する豆知識でした。




