魔法というより降霊術 それもかなり危険な
微ホラー。というより結構ホラーめの話になっちゃった気がする。苦手な人は気を付けてください。
「さぁ、かかってこい。」
挑発するように手を小さく振る。
「ルリ。せっかくなら、俺たちだけでやってみないか?残機ならたくさんあるわけだし、NPCをキルして10ポイント入るなら他の奴に手柄を奪われるよりかはいいんじゃねぇのか?」
「まぁそうだけども、誰かがキルされそうになるほど押されたのなら、呼ぶ。これでいい?」
「私は呼ぼうが呼ばないが別にどっちでも構わないからお好きにどうぞ。」
「私はルリの意見に従う。」
「分かった。じゃあ、誰かがキルされそうになったら即座に呼ぶ。それまでは4人で頑張るよ!」
『ああ!!』
4人の考えがまとまったところでみんながそれぞれ動き出す。
「[石弾][反復][包囲陣]!」
ルリが石の塊を大量に撃ち込む。それにスキルの影響なのか、360度上方向も含めて全体から同じような攻撃が撃ち込まれる。
攻撃を見極め、避けられる攻撃は避け、弾かないと必ず当たってしまうような攻撃だけ弾く。石の塊なだけあって質量がそれなりにあるので、弾くにも少し力を入れないといけないので、避けながらだとうまく力が入りにくく、弾くのに少し溜めが必要だったり、避けた石はその場に残ってしまうので、避けるたびに地面の凸凹が多くなっていく。
また、石の塊が積み重なるせいでその上に乗った時、石が崩れて体勢を崩しそうになってしまう。
さらに、この間に攻撃は止まないもので、
「[雪崩]!」「[幽霊鉄道]!」
ブルーが雪の塊を大量に放ち、さやがさっきと同じスキルを使い、大量の霊を突撃させる。
そしてバーンが追い打ちをかけるように
「[熱付与]!」
足場の石に向かってスキルを放つ。すると、全ての石が赤く光り、ブルーが放った雪が溶け、熱の影響で視界が揺れ、ぼやけてしまう。それに暑さのせいか体の動きも少し鈍くなっている気がする。
「全員下がれ!一回試してみる![崩れた井戸の跡]。」
さやが全員に下がるよう促したあと、真剣な表情でスキルを唱える。そして、危険ということを全員が分かっているのかブルーが全員とスキルの発生地点に氷の壁を作り分断し、全員で壁を強化できるだけ強化する。
スキルの発生地点にはまだ黒い靄と水色の人魂があるだけで特に何も起きていない。
俺は警戒しつつも何も起きていないならと、壁を登る。その時、壁の先にいるさやからスキルを唱える声が聞こえる。
「[10枚の皿]。」
その時、後ろから木が軋むような、「ギギギギ……キィィ……」という気持ち悪い音が聞こえる。振り向くと、そこには積まれた石に苔が生えて崩れている井戸と、その上に屋根としてついている、腐ってボロボロになっている木がある。
俺は体勢を安定させるため、一度地面に降りる。
禍々しい気配を放つ井戸は俺の心を抉るように恐怖心を煽り、今にもそこから人の手が出るのではないかと待ち構える。
その時、べチャリと、濡れている手が井戸の石を掴んで出てくる。
「ヒィィッ!!」
ルリが後ろで叫ぶ。確かに、出るということが分かっていても怖いものは怖い。
「ァああなたが……私をぉ……殺したのね……!!」
唐突に出てきた女性の霊に濡れ衣を着せられ、殺そうという意志を持って井戸から這い出て登場してくる。見るだけでも怖いその霊は、髪がボサボサで、変に長く伸び、濡れている。そして、髪の隙間から見える眼は、殺そうという意思なのか、意地でも生きてやるという意思の表れなのか、血管が浮き出るほどに赤く染まっている。肌は青白いがその分、体が腐っているのか黒く、汚くなっている部分が一際目立っている。服も白いのだが、同じように汚れていたり、破れている部分がより目立つ。
女性の霊はフラフラとしながらも一歩一歩に力の籠った走り方で、殺気全開でこちらへと向かってくる。
「殺してやる!!!」
叫びながら、目から涙を流し、丸腰でこちらを攻撃してくる。槍で攻撃を防ごうとするが、槍を掴まれ、何度も蹴りを入れてくる。それに槍から手を離すまいと、恐ろしいくらいの怪力で槍を持つどころか、奪おうとまでしている。
蹴りを一発入れ体勢を直すが、地面には水たまりがなぜか増えている。警戒しながら女性の霊を見ていたが、突如として消える。一瞬焦ったが、その焦りは消え、更なる焦りへと変化させる。足元にあった水たまりから手が出てくるのだ。
「お前を……!引き摺って、溺死させてやる!!」
髪が口の中に入ってしまうくらい大きく口を開けて叫ぶ。力があまりに強すぎるため、振り払うことが出来ない。俺はこのまま引き摺られて溺死するのは御免なので、対抗策として
「[狂乱の宴]!!」
STRを上げられるスキルを使用する。というかこれしか出来ない。
「ウラッ!!」
声を上げて掴まれた足を振る。強引に引っ張られ出てきた霊は氷の壁に打ち付けられる。
「ヒイッ!!」
ルリがまた叫ぶ。氷越しにも幽霊に怯え、恐怖している顔が見える。バーンもブルーも警戒しているのか、杖を構えてはいるが、氷越しの景色がすりガラスのように少しだけぼやけているのでよく見えない。
その時、
「お前も私を!!殺したのかアァァァ!!!」
突然声を荒げ氷の壁の先をまじまじと見る。そして、
「許さない!絶対に!許さなアアアい!!!!」
拳を氷の壁に打ち付ける。衝撃音と共に氷にヒビが入る。どんだけ強いんだよ。
ルリが腰を抜かしてその場に座り込む。流石にこの状況は1人の人間として無視できない気がする。ほら、ホラーって見たい人が見るものであって見たくない人が見るのはそれは……って感じだけど、考えている暇はない!
俺は女性の霊に後ろから槍を一突き。気づいていないため槍はしっかりと刺さったが、それに気付いた女性の霊は首をグリンと180度回転させ
「やっぱり……あなたが殺したのね……」
そう言い、腕を伸ばして槍を掴む。スキルを使用して強化された状態になっているためさっきみたいに槍が動かないなんてことはないが、それでもさっき飛ばせたのが奇跡というくらい槍が動いても槍は女性の掴む力のせいでかなり重く感じる。槍を何とか手放させたとき、女性はさっきと同じように消える。
足元に注意して周りを見渡すと、その時、「ピチョン」という水の音がすると同時に足元の水たまりから女性が出てくる。気付いただけなので避けられたというわけではないが、この後の攻撃は避けられる気がする。
「今度は……逃がさない!!」
髪越しの目がさらに開き、さっきよりも力が強くなる。
足に力を入れるだけじゃ足りないので、槍で突いて牽制することで気を逸らす。槍を引っ張られるわけにはいかないので頭を突き続ける。だが、よっぽどの恨みなのか、力が緩むことなく着々と、地面を引きずりながら俺の脚を水たまりの中へと引っ張っていく。
俺は一か八か、俺の脚を掴んでいる足の手を刺す。女性の霊は力を緩めまいと頑張ったが、手が刺されたため、うまく力が入らないのか、一瞬だけ力が緩む。このタイミングを狙って水たまりから引っ張り出し、さらに連撃を入れる。引き摺りだされたばかりで安定していない体勢はうまく防御が出来ず、数発入れることが出来たが、それでも何発かは防がれてしまう。
すると突然氷の壁が解け始め、箒に乗った4人の姿が映る。だが、ルリはバーンに抱えられ、さやの箒に3人乗っている。ブルーだけが1人で乗っている。
「んじゃ、ルリが怖がって戦闘どころじゃねぇから、後はよろしくな!NPC!!」
さやが声を上げ、逃げていった。
お前が始めたんだろ。これ。
どちらにせよ、ターゲットが俺に向いているので、逃げるにしても、ここより障害物が多い場所に逃げることがなるので、視認性が悪くなるほか、このままだと他のプレイヤーと戦う時も邪魔になる可能性がある。
仕方ない。戦うとするか。
そう思いながら、女性の霊に向け、槍を向ける。
「さぁ、貴様が何と言おうが構わない。死んでもらうとする。」
「……殺してやる!!」
あれ?逆鱗に触れちゃ……った?




