頑張ってもあと少しのところで負けることだってある
ミユは手に持った大鎌を俺に向かって振る。AGIに高く振っているのか連撃の際の動きが盾を使う人としてはかなり速い。
そして、大鎌が誰かに当たったわけでもないのにもかかわらず、誰かを斬ったように青い血を流す。そして、血が流れるように大鎌からは禍々しい気配が流れ続け、寒気だけで氷を作れるのではというほどに鳥肌が立っている。
「ハァッ!!」
大鎌を下から斜め上に向け、首を斬るように振り確実な一撃を決めようとする。槍で鎌の動きを止め蹴りを入れるが、DEFも高いのか、それなりにあるSTRから出てくる高いダメージを出せる蹴りが有効打になっている気がしない。
俺は前衛を撹乱したときのように近くのプレイヤーを刺しミユに投げつける。ミユはマリーによって蘇生できることを知っているのか、持ち手で攻撃を止め、マリーの方を向き目で会話し、頷く。
「[神の奇跡]!」
案の定、復活してきた。それにこの行動を何度も繰り返し、多分キルしたプレイヤー十数人を投げつけたが全員もれなく蘇生されているし、蘇生している当の本人はクールタイムとかの概念がないのか汗ひとつ流さずに余裕な表情でスキルを使用していく。
このままじゃキリがないので、どうにか工夫してスキルを使い切るか、彼女をキルするように考えながらミユの攻撃を捌く。
とりあえず牽制程度にプレイヤーをキルしてミユに投げつけるが毎回刃で斬って対処せず持ち手部分で対処する。
どうしてこの行動しか繰り返さないのかを考えながらプレイヤーをキルしに行くと、運悪くミユに先回りされて鎌を思いっきり振られてしまう。
とてつもない速さで振られる鎌に内心かなりびっくりしたが何とか回避した。だが、近くにいたプレイヤーは野菜の如くパックリと腕を斬られてしまった。
そして俺の目に映ったのは、ミユが青い炎に包まれたようにプレイヤーが鎌で斬られた部分から青い炎が噴き出すように発生し、プレイヤーの体を包み込む。
戦闘中もしばらく燃え続けていたが、少しだけ痛みがあるのか、プレイヤーは全身が痒くなったように残った腕を必死に動かす。
このゲームでは痛みが限りなく減らされているものの、減らしすぎると、痛いというより、むずむずして今みたいに耐え切れず体をかいてしまうのだ。とはいっても叫んではいないものの、表情が炎で見えないまま必死に動いていると生々しくてあまり見ていられない。
しばらくすると燃える部分がないと炎がしぼみ、燃え尽きる。燃えて真っ黒こげになったプレイヤーは「DEAD」の表示を出す。
だが、マリーは蘇生できないと言わんばかりに近寄ることなく、そのままでいる。
ここから考えられることは恐らくミユの鎌に斬られると即死させられ、蘇生不可の効果までつけられる。
厄介というよりブッ壊れ。盾を使っている分、相手の攻撃を見極め、防御が巧いというのに加え、完全に当たれば勝ち確という武器を持って対戦をしてくるなんて相手される側はたまったもんじゃない。
「[死の爪]!!」
それに広範囲を攻撃できるスキルまでおまけじゃないレベルのおまけがついている。
熊とかの引っ掻き傷みたいに斬撃が飛ぶ。当たり判定も大きいし。
斬撃の間に割り込んで避けるが、その間にもミユはこちらへ飽きずに攻撃してくる。
俺は斬撃に当たって槍が引っ張られないよう縦一直線に、横から見て槍の軌道が扇状になるように突きを繰り返す。
ミユは持ち手を器用に動かし攻撃を全ていなし、斬撃で動けない俺に向かって上から渾身の振り下ろしを食らわせようとする。
ギリギリのところで突いて懐にない槍の刃の近くを持って持ち手で防御した。だが、
「ハアァァァ!!!」
ミユは負けじと鎌を振り下ろす。必死に鎌を止めようと踏ん張ったが、ミユの力任せの振り下ろしは、鎌を止めても向きを変えられてしまい、プスリと鎌の先端が背中に刺さってしまう。
「よし!勝った!」
ミユは鎌を持ったまま、一歩下がる。確かに、HPが減り続け、炎の勢いも収まる気配がないが、それでもある程度の余裕はある。
体の全身を針で刺すように、叫びきった後のカラカラの喉でもっと叫ぶような痛みが走り続けるが、NPCとして、自分のプライドとして、痛みに悶えて叫ぶわけにはいかないし、ここで抵抗せず死ぬわけにもいかない。最後まで。
俺は警戒しつつも動かない後衛のもとへ走る。
「させるか!」
ミユが止めるように鎌を振るが、炎を嫌がっているのか、少し離れ気味に攻撃してくる。俺はもしやと思い、ミユにわざと近づき攻撃してみる。するとミユはさっきまで攻撃を弾いていたというのに、毛嫌いするように一歩下がり離れる。
「みんな、何でもいいから移動阻害して!」
その言葉で俺は確信した。この炎は鎌の攻撃が当たらなくとも、誰かがこの炎に触れることでも発動するのだと。
「道連れだ!」
俺はそう叫び後衛含めたみんなのもとへ走る。
「[氷の結晶]」「[陽炎]!」「[蔓の鎖]!」
ブルーが氷の結晶をまばらに地面に生やし、単純に移動の阻害、バーンが幻覚のように偽物を幾つか作る。ワタルがさっきも使った拘束系のスキルを使用。
ブルーのスキルは今の森林のようになっている地形をさらに複雑にしただけ。俺がこの程度で移動が遅くなるはずがないし、バーンのスキルなんてずっと本物たちを見ていれば見失わない話だ。
そして、ワタルのスキルは良ければ問題ない。
なぜかいつもよりも感覚が研ぎ澄まされたように戦況全体が分かる。火事場の馬鹿力とでもいうのだろうかね。
氷の柱を蹴り、木を蹴る。足場のように。その間も陽炎で作られた偽物に惑わされないよう、体の動きに反して目だけを固定するように本物を見る。最後に来たワタルの攻撃は不規則に移動し続ければ特に問題ない。
そうして抜けた氷の空間。もう目の前に後衛たちが残る。
苦し紛れの抵抗としてワタルが盾を目いっぱいに伸ばしてブロックし、ミユが鎌で背中を斬る。
HPがさらに減り、炎の勢いが増したが、それを逆手に取る。
「グ、オオオ!!」
痛みに耐えながら、盾の裏にあるワタルの手を掴む。
「クッソ!!」
ワタルも俺と同じように燃える。だが、
「お前で仲間を死なせるわけにはいかない!![蔓草]!」
これ以上被害を増やすまいとパーティーから離れながら俺とワタルを固定するように細い蔓を大量に伸ばし、俺を拘束しようとする。
これが最善の行動なのかもしれないが、俺はまだ槍を手放していない。
槍を振り回し、蔓を切る。
「残念だが、このまま死ぬわけにもいかないからな。」
俺は乗っかっていた盾を蹴り、再度後衛に近づく。
「まだだ!!」
ミユが鎌を振り、とどめを刺そうとする。俺は攻撃を弾き、槍でミユに向かって突きを放ちながら走る。
ミユはこのまま攻撃を受けるわけにいかないと、鎌を振り槍を弾く。だが、弾いたことで移動が遅れる。
「俺は、こんな結果じゃ終わらねぇ!もう一度、お前らを滅ぼしに必ずやってくるからな!」
最後の言葉を振り絞り、後衛に飛びつく。
ルリが苦し紛れに魔法を放ったが、それをギリギリのところで躱す。当たったように揺れる炎を視界に収めたまま、後衛に飛びつく。その時、俺の視界はいつになく赤く染まる。
そして、視界に映ったのは、「DEAD」の文字。
それと突然の転移。移動した先に映るのは、グリードと、60分のタイマーだった。




