とにかく後衛が厄介すぎる
ランの胸が貫かれ、ランはやってしまったと言わんばかりに顔をしかめ少しずつエフェクトに飲み込まれ塵となっていく。
その時上位勢たちがいる場所から1人の女性の声が響く。
「[聖なる鎖]!!」
するとランの周りどこからともなく鎖が現れ、槍が引っかかっているのにも関わらず霊体のようにスルッと抜け、消えるようになっていたエフェクトが逆再生のようにランの体を修復していく。
「良かった!間に合った!」
白いローブに身を包んだシスターのような服装をした女性がホッと息を吐く。彼女の名前は確か「マリー」だっけか。
「うわ……生きてるわ……」
ランは生き返ったことに困惑しているのか、繰り返し自身の体を見ている。
蘇生魔法。こういう対戦系のゲームにおいて厄介なスキルの1つ。通常の回復魔法ならHPまたはTPしか回復しないのだが、蘇生魔法はどんな形にせよ殆どがMP、このゲームだとTPも一緒に回復されてしまうため唐突に反撃を喰らいやすい上、回復魔法はHPの減少量を見計らって回復させないといけないのだが、蘇生魔法は死んだと分かれば発動するだけなので楽なのである。
「ならば、先にやるのは決まりだな」
俺は獲物を狩るような肉食動物のように彼女を睨む。彼女は少し怯えタンクであるワタルの後ろへ隠れる。
そういえば、さっきからツリアの姿を見ていないような。
俺は即座に異変を感じわざと一歩下がる。するとタイミングよくツリアが元々いた場所にハンマーを振り下ろして来る。遙か上空からでも落ちてきたのか地面は大きく抉れ、爆発するように土や岩が飛び散る。
片手を少し上げて目を守るようにその場で待機する。土煙が風に流され、消えるとそこにはドレスを着込んだお嬢様のようなツリアではなくこの前装備していた[継承された遺物]を装備している。なんでこんなことを覚えているのやら。
「クソ!!外した!!」
「あれ気付くとか異常だろ!?」
「もういい!畳み掛けるぞ!」
『オオ!!』
再度全員が畳み掛ける。
ツリアがハンマーを振り、ナオトキが拳を振り回し、フウまるが刀を振り、ランが双剣を振り回す。
[狂乱の宴]を使用しているため画面がプレイヤーだらけで真っ赤っかだが、AGIが上がっていることでさっきみたいに数で押されることはなく、安定して対処できている。
ツリアのハンマーは前回、別のアカウントで戦った時にそのSTRの高さを実感しているので必ず避けるように立ち回り、ナオトキやフウまるはスキルを織り交ぜて戦っているため、攻撃によってはスタンやノックバックが入ってしまうので避ける必要がある。ランはというと、スキルを使っていないため、特に心配することなく、弾いている。
槍を軸に跳ねてみたり体をくねらせて同時にくる攻撃を避けてみたり。低い姿勢のまま姿勢を崩して反撃してみたり、跳躍して背中に周り、突いてみたり。不利な状況でも確実に反撃しているのだが、マリーやルリなどの後衛の回復が止まないせいで結局戦況は変わらない。
「攻撃が当たんねぇ!こいつさっきのNPCと同じなのか!?」
「おんなじだが、スキルで行動パターン変わるやついるだろ!」
「ああそうかい!!それでもこれだけの変化は理不尽だろ!」
実感としてはそこまで動きを変化させているイメージはないけど、結構変わっているのか。
それはそうとして、後衛が厄介なので一度前衛を後衛から引き剥がすためにわざと逃げる。
「あ!こいつ、背中見せて逃げやがった!」
「待てェェ!!」
攻撃が当たらないことに結構ストレスが溜まっていたのか、ブチギレて叫びながら追っかけてくる。怖い。
逃げている途中もプレイヤーが集まっているのか、目線の先に点のように映る赤い光、プレイヤーが何人かいる。俺は通り魔のようにわざとそこら辺のプレイヤーの元へ行き、問答無用で突き刺し、後ろを向きツリアたちの元へ出来立てホヤホヤの死体を投げ、逃げてはまた同じようなことを繰り返す。途中わざとHPを残すように突き刺し投げるとかいうクソみたいな行動して逃げたりもした。
しばらく走るとある程度距離を離せたので一度最初に現れた暗殺者の人みたいに木の上に登り走る。
スキルのおかげでプレイヤーと、その装備が光の輪郭で大体わかるのでそれを頼りにさっきの後衛たちを探す。
「見つけた。」
輪郭を頼りにしているため相手から見えることもなく一方的に観察できる。
茂みの音で多少警戒している姿が見えたが、気のせいだと感じたのか、盾を構えたまま一方向だけを見る。
俺はさっき後衛たちを見た時の姿を思い出し、マリーの服装に最も近いと思う人目掛けて、木の上から飛びかかる。
大きく木が揺れると同時にマリーの背後に突きを与える。あと少しで当たりそうというところでワタルとミユによって軌道を逸らされ、頭に被っている装備を僅かに破る程度の攻撃しか加えられなかった。
「マリーをキルさせることは!」
「絶対にさせない!」
ワタルが真っ直ぐな目でこちらを睨み絶対に守るという意志を見せたが、ミユはというと、叫んでおいて足を少しガクブル振るわせながら、顔を青ざめさせながら汗を流し苦笑いしている。正反対だなこの2人。
「俺たち2人でNPCを足止めする。その間に態勢を整えてくれ!」
「エ゛!?」
ワタルが頑張ろうと盾を構えながらそう言ったが、ミユは戦いたくないと言わんばかりに驚きの声をあげ、渋々盾を構える。
「私じゃあんなのキルできないよ〜……」
自信なさげに声を出しながら顔半分を盾で隠す。改めて盾をしっかりと見るが、ワタルはさっき発動したスキルに似た感じの植物の根や蔓に覆われた盾を持ち、ミユは言動に似合わない、髑髏が堂々と描かれた盾を持っている。
足止めを頑張ると言っても、盾使いとしてはAGIが低いし、ヘイトを自身に向けるスキルも中身がプレイヤーである俺には効かない。つまり、ここで盾に見向きもせず離れていった後衛を追いかければいいのだ。
俺は一気に駆け出す。見向きしないと言っても後衛との直線上に盾を持った2人がいるので迂回するとAGIに差があっても最短距離でギリギリカバーされるかもしれないので、盾を足場に後衛の元へ向かう。
「来るぞ!!」
「エ!?ちょちょちょっと待ッ!!」
俺はミユの盾を足場に後衛に向かって跳ぶ。
「ギャーー!!」
盾に触れただけで叫ばれる。どんだけ気が弱いんだ……
「まずいッ!![蔓の鎖]!」
ワタルはスキルで発生させた蔓を伸ばし俺の左足に巻きつける。少しだけ引っ張られたが体を捻り蔓を切る。
「そこだ!合わせろ!ミユ!」
すると、蔓を切ると同時に槍の軌道に合わせてミユの盾が現れる。俺はノックバックをさせるためにそのまま思いっきり振る。その時、
「[最悪の日]!」
マリーからスキルが飛び、当たる。特に何も起きないまま槍がミユの盾に当たり、彼女は少し吹き飛ばされる。それなのに、
「サンキュー!マリー!発動したよ!」
ミユは少しだけ明るい口調で話す。俺は発動という言葉が気になり彼女の方を見る。そこには、髑髏の目が少し青く光り、ヒビや盾から青い加湿器から出るスチームのようなものが溢れる。
「[死神]!」
彼女がスキルを発動すると、盾から髑髏が飛び出し、骨がカラカラなる音と共に盾が青い炎に包まれ彼女の体を包み込む。
髑髏は骨を鳴らしながら口から長い刃を吐き出し、首に繋がる空洞から脊髄のような棒を伸ばす。その形はスキルの名にちなんでいるのか大鎌の形をしている。そして、ミユの体で燃えていた青い炎が消えると彼女も死神のように、顔の右半分を隠すような髑髏の仮面を装着し、彼岸花のようなデザインの赤い線の入ったドレスに赤黒い色の薔薇が付いている装備へと変わった。
「さぁ、懺悔の時間だ。」
ミユの性格がガラッと変わり、強気になる。




