形勢逆転
「［花鳥風月・深山颪］！」
ヒノモトがスキルを叫び刀を振り下ろすと、刀の斬撃に追従するように幾つものエフェクトが雨のように上から振ってくる。頭上に注意しつつ、ヒノモトの動きを注視しながら攻撃を回避する。
剣を振った時のエフェクトと酷似しているため攻撃判定はあるようだが、どうやらその攻撃は発動者に効果はないらしく、ヒノモトは降ってくるエフェクトを気にも留めず、ぶつかりながら最短距離で俺との間合いを詰めていく。
スキルを使わず、互いに武器を振って攻防を繰り返す。
突きを繰り返し、刀の届かない範囲から攻撃を繰り返すが、逆に距離をとられ、互いに攻撃が出来なくなってしまう。ヒノモトが一歩踏み出したのに合わせて攻撃しようと飛び込んだが、フェイントだったようで、タイミングを合わせて刀を振られてしまう。右肩を斬られてしまい、痛みが走る。
宙で回転するようにして槍を振り回してヒノモトとの距離を強制的に離す。
槍を振った時も右肩に痛みが走った。……右肩であまり攻撃しない方がいいかもな。
離れるとヒノモトが追撃を入れるように距離を詰めてきたので、進行方向に合わせて左手で持った槍で突きを繰り出す。
軽く跳躍されて回避されたのでその動きを追うように槍を縦に振る。するとヒノモトは刀を槍の攻撃に合わせて振り、その勢いを利用して頭上を通り抜ける。そのついでに頭上に近づいたタイミングで刀を振り、着地狩りされないようにする。刀は頭を斬りそうなほどこちらまで届いたので、咄嗟にしゃがんだ。そのため、近づくことが出来ず、着地に合わせて攻撃が出来なかった。
負けじとヒノモトとの距離を詰めにかかると、カウンターを狙うようにしていたが、技とスキルを使わず、俺が攻撃するのを待つ。
「乗ってやるよ」
そう言い放ち、わざとらしく槍を大きく上から振り下ろす。
ヒノモトは攻撃を弾こうと刀を振り、俺の手すらも巻き込もうとする。だが、振りながら上半身を小さく後ろに反らしたため、カウンターの姿勢をとっていたせいで動けず、刀は俺の手を捉えることが出来なかった。槍は刀に弾かれたが、続け様に槍を振る。ヒノモトは刀を縦に傾け攻撃を数回防ぐと、一歩踏み出して腹部を狙って振って来た。一歩下がって回避したが、ヒノモトはその一歩分さらに踏み出して間合いを一定に保ち続ける。そのリズムが数秒続くと、ヒノモトはその感覚を崩すようにギアを上げ、一瞬で懐に入り込む。
「ハァッ！」
懐に入り込むとすぐさま刀を大きく振り、決めにかかって来ていた。膝をつくように姿勢を低くして回避し、ヒノモトの足を払う。体勢を崩したヒノモトに追撃を入れようと、蹴りを入れ上空へと飛ばす。すぐさま態勢を整え、俺も追うように跳躍し、［空舞］を発動しさらに距離を詰める。だが、空中戦は圧倒的に不利と考えたのか、
「クソッ！［花鳥風月・疾風］！」
スキルを発動し、スキル特有の物理法則を無視した瞬間移動を駆使して俺に斬りかかる。あまりにも一瞬のことで反応が間に合わず、攻撃を防ぐことはできたが、足場を生成するのに遅れ、地面に落とされてしまった。背中に衝撃と痛みが走ったが、追撃されるのを防ぐため、勢いよく立ち上がる。
ヒノモトは空中で動作をとるのが難しいのか、追撃はせずそのまま着地したようだ。
……にしても、瞬間移動できるすきるだというのなら先に地面に着地すればよかったのじゃないかと思う。それとも、運営が戦闘のためだけに使うスキルとして対象を指定してそこに飛び込むタイプだったりするのかな？まぁ、それを考えたところで対策できるわけじゃないし、使うわけでもないから今はいいや。何度も言い聞かせる感じになるけど、戦闘に集中しなきゃ！
しばらく動かずにお互いの動きを探っていたのだが、武器のリーチ的にも有利と考えた俺は、ヒノモトの元へ飛び込み、右上から斜めに斬る様に槍を振り下ろす。すると、ヒノモトは無理に力を加えずに刀を縦に振ってその攻撃をいなす。軌道をずらされ、槍が地面に触れそうになったタイミングで稲妻を描くように軌道を大きく変え、槍の刃をヒノモトの体で走らせる。反応したヒノモトは背中を反らしてその攻撃を避けると俺の左半身目掛けて横から大きく刀を振る。
俺は槍の端を左に押し出すようにして刀を止めると、刀を槍の持ち手で押さえたまま前に進んで距離を詰め、懐に入り込む。槍の刃に近い部分を左手で強く握り、胸元の心臓部分目掛けて思いっきり刺す。
ヒノモトは刀を振って槍にぶつかった時、すぐに刀を離さずこのまま押しきろうと考えていたのか、刀を槍から離していない。そのため、急に距離を詰められて攻撃をされたのに反応しきれず、一歩下がろうと動いてはいたが、少し遅く、槍の刃が胸元に深く刺さる。
槍が刺さったまま逃げられるとしばらくの間攻撃できなくなってしまうので、深く刺さった槍を無理矢理引っこ抜く。傷口からドクドクと溢れる血を押さえるため胸に手を当てながらフラフラと後ろに下がる。
「形勢逆転……といったところかな？」
俺が煽るかのように槍の刃を見ながらヒノモトに向けて言葉を発する。
「こんな傷くらいで、折れてなるものか！」
だが、彼女はまだまだやる気のようで、深呼吸をして息を整えると、刀を俺の元へ向けるようにして構える。
「そうか……」
俺は彼女のやる気に感化され、同じようにやる気が湧いてくる。［愚者の矜持］を発動して全力を出そうと思ったけど、その前にやれることが１つある。
槍の刃についたエフェクトではない液状の血を指で拭き取るようにして集め、口に含む。
「［人共喰］」
減ったHPがある程度回復し、スキル発動時に消費されたTPも回復する。ステータスにも補正がかかり、強化されていく。
全身が熱くなっていき、吐く息が喉を刺激することで、力が湧くという実感を確かなものへと変えていく。
血を飲む時に口周りに付着した血の跡を拭うように腕で顔を擦り、睨むようにして少し顔を上に向けながらヒノモトのことを見る。
「さぁ、これでもやろうと思えるのなら……かかって来い。」
「舐められたものだ……後悔するなよ！」
ヒノモトはそう言った後に大きく息を吐くと、素早く間合いを詰めて斬りかかって来たのだった。
