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死神初等教育:霊魂

中級の死神、高久義典は教え子たちの待つ教室へと向かう。

 初等教育の3年目となる彼らはこれから一般教養として死神についての知識を学んでいくことになる。今日はその第一回目の授業であり、朝からクラスの皆が何となくテンションが高いように感じられた。

 教室の扉を開け教壇の前に立った義典は「はい、皆席に着いて。」と言おうとしたがクラス全員がしっかりと着席していることに気が付きその言葉を飲み込んだ。他の授業ではありえないことだった。

「はい、今日から死神の役割について少しずつ勉強していきましょう。」

 そう切り出し授業をスタートさせた。


「死神の大まかな役割としては

 ①現世で亡くなった人の霊魂を霊界へと導く

 ②死神の世界のルールを作ったり、生活をサポートする

 ③犯罪を犯した死神や人間を罰する。」

 黒板に文字を書きながらゆっくりと説明していき、最後に①の所を丸で囲んだ。

「まずは一番多くの死神が携わっていて肝心な役割である霊魂を導くことの大切さについて学んで行きましょう。」

 確かに大切なんだけどね、、、、言いながら義典は小さな罪悪感を覚える。彼自身は現世で霊魂を探し回り日々消耗していた父親の姿を目の当たりにし、そうはなりたくないと必死に勉強をして初等教育を担当する職になんとかありついたのだった。ここに居る大半の生徒は恐らく現世で霊魂を探す役割につくのだろうからそんな動機で教師になったと言うことは口が裂けても言えないだろう。



「霊魂は現世の人間にも霊界にいる我々死神にも宿っています。そして基本的には現世と霊界とで霊魂の総量はほぼ同等な量でちょうどバランスを取っており、どちらか一方が増え過ぎるとそれに対応するため境界が歪み天変地異を発生させたりする可能性があるんです。なので現世で亡くなる運命にあった人の霊魂はなるべく早く霊界へと戻してあげなければいけないのです。」

「、、、、でも、死神の人数は現世の人間より随分少ないですよね?それでも同等なんですか?」

「人に対して死神の方が霊魂の量が多い、、、ということもありますが、それを説明するには霊界に戻って来た霊魂がどのような運命を辿るかを説明する必要があります。」

 普段であれば授業中質問等は出ることがないのだが、やはり今日はみんな熱量がすごい。他の授業もこれくらいの反応があれば助かるんだけど、、、、義典はそんなことを考えてしまう。

「霊界に戻った霊魂は霊魂のプールに入れられます。そこで長い年月掛けて他の霊魂と混ざり、そして前世の記憶であったり穢れを洗い流していきます。最終的に浄化が完了したプールの中から現世で生まれて来る運命にある人の子に霊魂を移していくのです。」

「死神もそのプールから霊魂をもらうんですか?」

「はい、我々死神も人もおおもとの霊魂は同じ所にルーツがあるんです。霊魂を移す作業も一人の死神に委ねられている、実は私も皆さんも兄弟みたいなものなのかも知れませんね。」

「先生のお話では霊界にあるそのプールが大きいから霊界と現世のバランスが取れているんですよね、、、ちょっと位霊魂が戻って来るのが遅れても大きな影響はないんじゃないですか?」

「確かにすぐにバランスが崩れるということはありませんが、もう一つ霊魂をそのまま放置できないあるんです。肉体から抜け出た霊魂は少しずつ記憶・理性を失っていき現世の他の人間に害を及ぼすようになてしまうのです。悪霊やお化け、、、、そういった類でしょうか。そうなってしまうと死神にも襲い掛かるようになり簡単に霊界に連れ戻すことも出来なくなります。

 もう少し学年が進むとそういった霊魂に対処する術も授業でやっていきますので、しっかりと身に着けるようにしてください。」

 その話に半分は息を飲み、半分は目を輝かせているように感じれた。


「死神って人と同じ姿をしているのは何故ですか?他の動物の死神って見たことないんですけど。」

 授業がある程度進んだ頃に一人の生徒から質問が来た。当然疑問を抱く生徒がいてもおかしくはないと思っていたが、特別自分から説明はしないつもりでいた。自分も教員を目指し勉学に励んでいる時に偶然知った事実、、、事実なのかも定かではない情報であったのだが、死神が人と同じ姿をしていることに対して最も説明がつきそうなものでもあった。

「ごくわずかではありますが他の動物の死神もいることはいます。基本的に霊魂は肉体から離れた時点で自然と霊界に戻るようになっているのですが、文明が栄え多くの知識を持つようになると現世への執着、、、、未練とでも言いますかそこに留まろうとする力が強くなってしまいます。

 動物もペットとして家族の一員として扱われたりするとその傾向が強くなるためそれらの霊魂を導くため死神が必要となってきます。

 現在の現世で最も文明を築いているのが人間であり、留まる霊魂の数が多いため必然的に人と同じ姿、言葉をしゃべる死神の数も多くなっていった、、、、そう考えられています。」

「それって、、、、死神の方が後から出現したということですか?」

「う~ん、難しい話ですが過去他の種族が文明を築いていた時にはその種類の死神が多く、霊界もその種族によって構成されていた、、、、そんなおとぎのような話も聞いたことがあります。」

 皆がぽかんとした顔をしているそのタイミングで終業のチャイムが鳴った。

「まぁ、それが本当なのか確かめるすべはありませんけどね。今日はこれ位にしましょう。」

 そう言って義典は教室を後にした。

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