ボラの話
翌週も繁華街へ出かけた。映画を見てみたいとのことなので、メインの目的地は映画だ。ポップコーンとコーラのフルコースで。満足したようだった。
少し大きいくらいなので、司のものを着せているが、なにか衣料品を買おうかと提案したが、『また成長しそうなので』と断られた。
ランチ、ゲームセンター、買い食い。大雑把には先週とそれほど変わらない。それでもヤマトは楽しそうに見えた。本当に楽しいかはヤマトにしかわからないことだが。
適当に大雑把に生きているので、用事がなければそうそう出かけない程度に、司は出不精だった。こうして積極的に出かけるのは珍しい。そして、人に合わせているが、案外楽しい。前回にタケルが“デート”といっていたのは一蹴してしまったが、間違っていない気がした。となりにいるのが司好みの女性であればと思ってしまう程度には。
「あの、司さん……」
弱々しく裾を引っ張られた。
「ん? どうした?」
「“成長”しそうです……」
「なっ!」
よりにもよって街中で。
「家まで我慢できるか?」
聞くと、ヤマトはふるふると首を振った。
切羽詰まっているため、悲壮的なほど泣きそうな顔をしている。あの成長は人の前で見せていいものではない。あわててトイレの表示を探す。
「もうちょっと我慢してくれ」
「は、はい……」
手を引いて案内板の矢印をたどる。幸い、多目的トイレは空いていた。
「ベルト緩めておけ。まあ、最悪ここはユニクロ入ってるから、脱いでもいい」
多目的トイレに押し込む。
「しんどかったら休めるところ探すから言えよ。この規模のビルなら、たぶんどっかに医務室みたいなのあると思うから」
いかにも具合が悪いふうに声を掛ける。中の音はあまり聞こえない。中に聞こえていないかも知れないが、周囲への予防線だ。
平静を装いつつも、内心ハラハラしながら待っていると、数分で出てきた。
「お待たせしました。もう大丈夫です。ご心配おかけしました。すみません」
声は思ったより上から聞こえた。
大学生くらいだろうか。幼さは消え、精悍な顔立ちになっていた。それが、少しだけ上の方から。司も成人男性の平均身長はあるのだが、それより少し高いというくらいに伸びていた。この竹め。大は小を兼ねると着せていた服は、サイズに違和感がなくなっていた。縦方向には。横には余っているように見える。手足が長いために、ロールアップしていた足元は裾が伸ばされたうえで大胆に足首が出ていた。足が長いのである。この竹め。大きめのサンダルを履かせていたが、それもちょうどよくなっていた。妙に細長く、きれいな顔をしている。最近のアイドルか、少女漫画頭身のキャラクタのようだ。この竹め。
「うん、無事でよかった。けど、全部大丈夫じゃないんだろ?」
勝手に成長を腹立たしく思うも、それは一方的な羨望だ。いい大人なので奥に押し込んでおく。
「あの、」
小さく囁かれる。
「パンツはきつくて、ごめんなさい、穿いてないです」
このイケメン、涼しい顔をしてノーパンである。
「それで、お腹空いてます」
「やっぱりそれか」
「はい、すみません……」
このビルにはユニクロがある。パンツを買うとして──。
司は考えながら、こっそりため息をついたのだった。
繁華街には、夜の繁華街もグラデーションに隣接しているものだ。わかりやすく棲み分けされているのは大都会の話。地方都市の繁華街など、そんなものである。
夜の繁華街には何があるのか。もちろん、お金を払ってちやほやしてもらう店なのだが、目的地はいわゆるラブホである。ひょろ長くなったヤマトがしおしおにならないように、家より近いそこに連れてきたのである。男二人で入っていいものかと一瞬考えたが、止められなかったし、三人以上のプレイであれば男が二人以上になることもあるだろうと、気にしないことにした。
「パンツ穿いとけ」
買ったばかりのそれをわたし、室内をあれこれ探した。ベッドから様々操作できるようにベッドサイドに設備が集中している。お腹が空いていると言うなら、なにか食べさせたほうがいいだろうか。二度とごめんだとは思ったが、“精”を食わせねばなるまい。アメニティも探す。
と。
「おわっ」
ベッドに転がされていた。胸にすがりつくようにのしかかられる。
「直接、ください」
下腹部をまさぐられる。乗ってきたヤマトはズボンを穿いていなかった。
「中に……」
あ、これよくないやつだ。脳内警戒アラートが響く。細いわりに力は強いが、司もじっとはしていない。はねのけるように身を起こし、
「こら!」
今度は司がヤマトを押し倒した。
「わかってんのか? こういうことは、金を出すか、双方の合意の上でやるもんだ。俺の了解も取らずに、何すんだ」
もっと複雑な事情が絡むことも多いが、建前としてはそんなものだろう。
「俺は、しかたなくとかでお前とやりたくはない。パンツ穿いて横になってろ。腹減ってるなら飯を食え。そのほうが健全だ。ラブホでいうことでもないけどな」
自由な身になった司はベッドから降りた。
妙に情報量の多い室内から、フードメニューの冊子を見つけ出す。かたわらのタッチパネル式のリモコンから注文できるのだろう。
「食い物あるぞ。なにか頼むか?」
メニューを取り、振り返る。ヤマトはうつむき、しきりに目をこすっていた。
「ごめんなさい……」
ずびずび鼻をすすっている。
「ごめんなさい……。こんなに怒るなんて、思ってなくて……」
涙は溢れずシャツの裾に吸い込まれていく。
「もう怒ってない。ちょっとびっくりしただけだ」
ちょっとどころではなくだいぶ驚いたが、そこまで言う必要もあるまい。
「ぼくのこと……きらいにならないで……」
「なってない。あんまりぐだぐだ言うな」
それでもすんすん泣き止まないヤマトをどうしたものかと考える。よくいう頭なでなでは、好意的でなければプラスにならない。懐いていると思うので、好意的には受け止められるだろうが。と、悩んだうえでよしよし頭をなでておいた。
「嫌いっていうのは、いやなものにエネルギーを使う不毛なもんだ。そんなめんどうなことはしたくないんだよ、俺は」
いやなものを嫌いにならなければどうなるのかというと、どうでもいいものに下げるだけだが、ヤマトはどうやってもどうでもいいものにはならないし、まだ十分に好意的だと思っている。嫌いの方向に針は振っていない。
「俺はもう怒ってないし、お前のことも嫌いになってない。わかったか?」
「……はい」
「よし、わかったな。いい子だ。パンツとズボンを穿け」
「……はい」
すらりとした白い太ももは、男のものだとわかっていても目に毒だった。
「ごはん、食べます」
「そうだそうだ。寝ること食う子は育つもんだ」
「でも、足りたいと思うから、口に直接ください」
「わかったわかった。……いや、待て待て待て!」
「司さん、わかったって言ってくれました!」
「姑息な言質の取り方するな!」
少し食べられた。ルームサービスのフードを食べてからラブホをあとにした。
青年ヤマトは司より少し背が高く、足も長い。美少年はそのまま美青年となった。変声期も経たようで、穏やかな男声となっていた。順調に成長したように見えるが、何か少し腹立たしい。すがるように見つめられて、勝手な嫉妬はすぐに吹き飛んでしまったが。
「とりあえず飯を食え。珠代さんはいっぱい食べると喜ぶ」
「珠代さんにまた紹介してもらうなら、新しい名前をつけてください。ぼく、出世竹ですから」
出世魚システムが気に入ったらしい。
「流れで行くと、ミコトになるけど、自分で好きに名乗っていいんじゃないか?」
「ミコトがいいです」
「じゃあ、ミコト」
「はい」
順番はバラバラではあるが、秒で考えたことが丸わかりの名前だ。本人(本竹?)が納得しているなら、それでいいだろうということにしておいた。それにしても、日本武尊は常識の範囲なのだろうか。
「まぁ、ヤマトくんももう行っちゃったのね」
「はい。おかげさまで、入学式から参加できそうです。ご挨拶できなくてすみません。弟も楽しかったと言っていました。ありがとうございました」
設定を練り直した結果、長兄のミコトが成人して親から合法的に離れて、年の離れた弟たちを保護した、ということにした。司は協力者だ。情報が漏れないように詳しいことは話せないと、あまり突っ込まれない予防線も張りつつ。
年が離れすぎていないかと危惧したが、司が中学生の時分に妹ができたと言っていた友人がいた。推定十八歳、十二歳、六歳の兄弟もなくはないだろう。
「ぼくもしばらく司さんに匿ってもらわないといけなくて、しばらくお世話になるんです。弟たちから聞いています。何かお手伝いできることがあれば、いつでも呼んでください。一ヶ月半くらいはいますから」
「あらぁ。じゃあ、何かあったら助けてもらおうかしらね。よろしくね、ミコトちゃん」
「はい。短い間ですが、よろしくお願いします」
そういうことになった。
「一ヶ月半って言ってたけど、もう“成長”はしないのか?」
「えぇ。見た目にわかりやすく背が伸びたりはしないです。急激に老けたりも、たぶんない……はず」
「はっきり言い切ってくれよ。今の状態は、まさにとどのつまりってことだな」
「もうしばらくの間、よろしくお願いしますね」
「おう」
そういえば、当初は二ヶ月ほどと、今は一ヶ月半と言っていたその期限は何なんだろうか。
その日以降も、それほど変わりなく過ごしていた。大人の姿になって動きやすくなったため、しっかり買い物から(珠代の付き添い荷物持ちを兼ねている)、食事を作ってくれるようになった。トーストだけだった朝食は、今はご飯に味噌汁目玉焼き野菜を添えてとなった。いわく、『簡単に詰めたものですが』らしいお弁当まで作ってくれるようになった。帰宅すれば、珠代から新しく教わったといつも違う料理が食卓に並んだ。料理だけではない。いつも雑に大雑把にしか片付けていなかった掃除洗濯も、きっちり隅々まで片付けてくれるようになった。日中に干してくれているらしく、布団もふかふかだ。
雑な男の一人暮らしの部屋の落ち着きは、それはそれでいいものだが、すっかり居心地のいい部屋ができあがってしまったのである。
「ぼくにできることはこれくらいしかありませんから」
とミコトは言うが、司には危機感があった。
「これ、俺がダメになるやつだ」
生活の水準一度上げると簡単には下げられないものなのである。
そして、それよりずっと危機感を覚えるも、押し切られてやめられなくなってしまったことが一つだけあった。
青年の身体になってから、食事だけではまかなえなくなったらしい。頼まれたのだ、追加で“精”がほしい、と。たしかに捨てるものではあるのだが。
ゼロを一にするより、一を二にするほうがずっと簡単だ。つまり、そういうことである。
「っ……!」
吐き出した熱は散ることなく、余さずミコトの口の中に移った。
「ありがとうございました」
過去の己の言葉を引用するならば、それも十分に『金を出すか、双方の合意の上でやるもん』なのだが、ゼロを一にしてしまったのである。今は口淫にとどまっているが、それ以上のことも泣きつかれたら許してしまいそうな気がしている。だが、これ以上はダメだ。確実に戻れなくなってしまう。ミコトが言っていた期限までもう少し。半歩ほど超えてしまっている気はするが、ギリギリ一線は越えずにいる。
平日は勝・珠代夫妻とどこかへ連れて行ってもらうこともあるらしく、夕食時に楽しそうに話してくれる。近所の公園への散歩から、喫茶店でお茶、カラオケやスーパー銭湯など。カラオケは歌がわからず、聞いてタンバリンを叩いていたそうだ。親から虐待を受けていたという設定が、夫妻の親心を刺激したらしい。
「毎日楽しくて、幸せです」
と、まっすぐ言えるミコトはちょっとやそっと見ないくらいに純粋だ。勝と珠代も連れ回し甲斐があることだろう。
「司さん、ぼくの竹林に行きませんか?」
ミコトが言っていた期限間近の週末のことだった。
「いいけど、何かあるのか?」
「はい。花が咲きました」
「あぁ、竹の花は珍しいんだったな」
「せっかくだから、見てもらおうかと思ったんです」
直接根っこでつながっているわけではないが、ミコトはあの竹林となにかオカルト的につながっているらしい。
竹林の持ち主は勝の知り合いだ。ねんのため、勝を介して許可をとり、ピクニック気分で見に行くことになった。
「ほら、咲いてますよ、花」
「……地味だな」
「すみません……」
百年に一度しか咲かないというから、ぱあっと華やかに咲くのかと想像していたが、それよりずっと地味だった。雰囲気が似ているのは稲の花だろうか。軟弱な竹の葉のような花びらから雌しべと雄しべがひょろりと出ている。
「珍しいなら、研究してる人に知らせておいたほうがいいか?」
とりあえず写真を撮っておいた。
建前であるピクニックらしく、散策後は近くの公園でおにぎりを食べた。
「一周回って新鮮な過ごし方だ」
「司さんに見てもらえてよかったです」
どうせそこらじゅう雑菌だらけなのだからと、司は人が握ったおにぎりも平気なタチだった。ミコトの性質の成果、味のじゃまにならない程度に竹の爽やかなかおりがする。混ぜ込んで全体に味のついた梅干しとごまのおにぎりは散策した身体に染みた。
帰って竹の花のことは夫妻に話しておいた。竹林の持ち主に確認したうえで、竹の研究をしているという人物を探してメールを送っておいた。写真と、いくつかの疑問を添えて。
そのままいつも通りの週末は終わるはずだった。
日曜の朝はぐだぐだ寝倒すのがお決まりである。
正午前には起きたが、朝食の時間でもないのでそのままでいた。ミコトは珠代となにやら手の込んだ昼食を作成中らしい。そうメモが残されていた。冷蔵庫のおにぎりを温めて食べておいた。
テレビを付けて見るともなしに聞き流しつつ、スマートフォンを見ていると、見慣れない送信者のメールを見つけた。一瞬考えた。
「あぁ、竹の人か」
返信は営業日で構わないのだが、と思ったが、研究者に営業・休業日はあるのだろうか?という疑問に変わっただけだった。
メールの返信を読んでいく。竹の開花を知らせたことへの感謝と、ご丁寧に質問にも答えてくれていた。
「……ん?」
一つ、引っかかっていたことに、推測ではあるが、嫌な答えがついてしまったのである。
「珠代さんとスパイスからカレー作ってきました! ナンも焼いたんですよ。温かいうちに食べましょう」
大変スパイシーな香りに包まれながらの昼食だった。
「若い子はこういうものがいいかしらって言っていましたから、気を使ってくださったんでしょうね」
「珠代さんのは年季の入ったさらっとした小鉢系は抜群にうまい。カレーはカレーでうまいな」
「初挑戦って言っていましたよ。お料理ができる人って、どんな料理でもちゃんと作れるんですね」
「レシピが間違っていないかぎり、レシピどおりに作れるのが料理上手なんだよな。たくさん作ったほうがおいしいからって、冬におでんを作って分けてくれるのがめちゃくちゃうまいんだよ」
「いいですね。食べてみたかったです」
ミコトの言い方は、叶わないことが前提だった。より、確信が強まる。
洗い物を済ませて、与えたタブレット端末をいじるミコトの前に腰を下ろす。
「なあ、ミコト」
「なんですか?」
「お前、枯れて死んでいなくなるから、二ヶ月って言ったのか?」
ミコトの口元がこわばった。何か言おうとしたのは、口を開いたが、結局何も言わずうつむいてしまった。司の推測はあたってしまったようだ。
専門家からの返信には、写真からおそらくと竹の種類を教えてくれた。花が咲いたあとは枯れてしまうことも。枯れるということは、その代はしまいだということだ。つまり、“死”である。ミコトが言っていた期限と一致するならば、自ずと答えは出てくる。
「どうにかならないのか?」
「えっ? でも、もともとそういう約束ですよ?」
「馬鹿を言うな! 最初は事情も知らないし、お前は得体の知れない何かだったんだぞ。いや、今も得体は知れないけど。二ヶ月一緒に暮らしていれば情の一つや二つ湧く! 死んで消えるなんて、知ったら動揺するに決まってるだろ!」
「寿命ですから、そういうものです。言ってなかったのは、その……すみません」
その時になったら退去して、そのままひっそり看取られることもなく寿命を終えるつもりだったのだろうか。司がショックを受けているのは、知ってしまったからだ。それを見越してミコトは何も言わなかったのだろう。気づかず聞かないままであれば、竹にもどったのだろうと平和なことを司は考えていただろう。
「どうにかならないのか? どういう仕組なんだよ。そもそも人の形になるとかって」
「ぼくがこうして人の営みに紛れ込んでいるのは、たぶんぼくがそれを楽しそうだなって思ったからです。本当にそうなったのは、なんででしょうね、神様の気まぐれでしょうか。植物って、動物より省エネな生き物ですから、花を咲かせるなんていつもよりずっとエネルギーを使うんです。その準備をしているときに、司さんの“精”をもらって、少しだけ実現してしまった。なにか、不思議な力で」
「なにか不思議なって……最初からオカルトから言ってたか。なんとかならないのか? 寿命なら仕方ないのか?」
「今は本体からほとんど独立していますから、活動できるだけのエネルギーの供給があれば、この身体は保てるかもしれませんけど、今ですら本体からのエネルギーと食事では足りなくて司さんから“精”をもらっている状態です。本体がなくなったあと、どれくらいのエネルギーが必要なのかわかりません。エネルギーって言っていますけど、単純なカロリー熱量ではありませんし」
「命の残滓って言ってたやつか。“精”でまかなえないのか? もっと回数増やしてもいい。直接のほうが効率がいいのか? それなら、セックスだってする」
「ダメですよ、司さん。言ってたじゃないですか。そういうことは、お金を払うか、お互いの同意がないとダメだって。それはたしかに強いエネルギーを貰えることですけど。今も、ご迷惑をおかけしています。これ以上、迷惑はかけられません。司さんにも、嫌われたくないです」
司が自分で言ったことだ。簡単に撤回はできない。生き延びるためという理由は十分に強いと思うが、ミコトには不十分なようだ。どんな大義名分があったとして、そう簡単にことに及ぶことができない気持ちもわかる。司がミコトに強く言ってしまったために、よけいに頑なになっている。司としては、そんな大義名分がなくとも、むしろ──。
「ん?」
司は気づいてしまった。
「ミコト、大事な話なんだけど、セックスしたら生きながらえるかもしれないってことは一瞬だけ横においてくれ」
「え? は、はい」
困惑の顔。それはそうだ。今話しているとてもシリアスな主題なのだから。
「俺の勘違いだったらめちゃくちゃ申し訳ないけど、ミコトは俺に抱かれてもいいって思ってないか?」
「ひゃ、えっと、その……」
ミコトはおろおろ目を泳がせ、うつむき、最終的にうなずいた。
司には根拠がないわけでもなかった。もちろんラブホの一件もそうなのだが、以降、許可した口淫の技工があがりつつあるように感じたのだ。悪いとは思いつつ、貸しているタブレット端末のブラウザの履歴を確認すると、いかにもそれらしい痕跡があった。口淫に関することのみならず、セックスに関することも。口淫が実践のために調べたのであれば、セックスもそうと考えてもおかしくないだろう。
「あのときは、勢いと見栄と、あとヤマトもタケルも子どもだったっていう意識があったから、あんなことになったけど、今は、まあ……。俺、単純だから、尽くしてくれる美人なんて、好きになるにきまってるだろ! フェラしてくれるようになってから、エロい目でみれるようになったし。俺はミコトを抱ける。抱きたいまである!」
「えっ、えっ!?」
その手前まで及んでいるというのに、なかなか初な反応をしてくれる。
「ここで、横においておいた、セックスすれば助かるかもしれないを戻してくる」
横においておいたものを戻すジェスチャーをする。
「ちょうどよくないか?」
「ちょうどいい……というか、都合がいいというか……」
「都合がよくて何が悪いんだ? この世の全部、都合よくできてるわけじゃないけど、都合よくできてることも、いくらでもある。すごくラッキーじゃないか。都合よくて、ダメか?」
「ダメじゃ……ないです。ちょうどいいですね、ラッキー……で、いいんですよね?」
「助かる“かもしれない”なのは、わかってる。助からないかもしれない。それもわかってる。だからって、絶対にやらなきゃよかったにはしない。ミコト、いいか?」
ミコトの顔がみるみるうちに赤くなっていった。
「は、はい。ぼく、消えるの嫌だなって思ってました。もっと司さんと、いっしょにいたいなって、思うようになっちゃいました」
「本当に都合よすぎるな。大丈夫か?」
「司さんが言い出したことですよ。ラッキーですね」
「そうだな」
自称雑な男・司は細かいことは気にしないことにした。