第95話:背中で
「うい。出来たぜ。」
「ありがとうございます。」
「ありがとう。助かる。」
そう言って、ドワーフの職人から剣を受け取る。
これで準備は終了。出発だ。
「それでは.....」
「ちょっと待て、そこの兄ちゃん。あんた我流だろ。」
確かにジェットは荒野独流という我流の剣技を使っているが.....
「どうしてそれを知っている?」
ジェットが俺の抱いた疑問を投げかけた。
「おれはぁ一応職人やってるからなぁ。剣をみりゃどんな剣術、戦闘スタイルか分かるんだよ。」
へえ、職人ってそんなもんなのか?
『腕がいい人程こよようなことが出来るとのことです。従って、このドワーフも腕利きだと考えられます。』
「俺の見立てによると、兄ちゃんの剣術ガルス流に似ているが、それより威力を高めているな。だが、その分剣へのダメージが大きい。」
「何が言いたいんだ?その剣へのダメージを直してくれるのが仕事だろう?」
それは確かに。刃こぼれとかそんなもんを直してくれるのがこのドワーフの仕事だ。
「そういうことじゃない。戦いの中でダメージが蓄積させると、剣に内包された魔力が一気に放出されて大爆発を起こす。」
えええ、そんなこと起こるのか.....!!??
『起こりえます。どの物体にもこの世界では魔力がこもっている為、暴走し、爆発を起こします。使い古した者ほど大爆発になると言われます。ですが、基本起こらない為気にする必要はありません。』
そんなことが.....
「それは、忠告感謝する。だが、俺の戦闘スタイルを変えるつもりはない。俺は俺が強くあり、剣士として、仲間を守れる者になるためには自分の身など惜しむ必要はないと思っている。」
ジェットはどこか遠くを見ているようだった。
「俺は俺のまま戦い続けるよ.....言うなれば.....信念の下に.....」
「そうか。くれぐれも気をつけるんだな。そういや、名前を聞いて無かったな。にいちゃん名前は?」
「ジェット・ノイルだ。そして.....」
「ラーファルト・エレニアです。そちらは.....」
「ジェルグだ。またどこかで会おう。」
「ええ。また。」
そう言って俺がジェルグと握手をする。
手を放し、俺たちは街の出口に向けて歩き始めた。
ーーー
ジェット視点
街を出てから十日が過ぎた。
ミルと別れてからラーファルトの元気は明らかに無くなったと思う。
旅での会話も無くなった訳でも、減った訳でもない。
だが、それでもどこか寂しげな声に聞こえる。
ラーファルトの境遇は過酷だ。
ラーファルトは自分から話をしたがらない。
当然といえば当然だ。
こんな暗い話をしたくないし、それによって自分の中にあるストッパーが壊れてしまうこともあるだろう。
ある日、ミルから話を聞かされた。
「ジェットは知っておいた方がいいと思うから。」
と言って彼女は話し始めた。
故郷を戦争で無くし、それを忘れ、また思い出す。
ミルが一度それを払拭しかけてくれたが、環境のせいで、そのミルも自分から手放さざるをえない.....
どんなに辛いだろうか。
大切な者を失う気持ちはよく分かる。
その痛みが俺も分かる。
大切な者を救えなかった後悔は永遠と自身の体を蝕み続ける。
やるせないだろうな.....
励ましてやりたい。
救ってやりたい。
「ラーファルト。」
「はい。なんですか?」
俺の声にラーファルトが反応する。
俺の方を見てきた.....が、俺の伝えたい言葉が見つからない。
「やはりいい。それより、魔力探知の反応とかあるのか?」
そう言って話を逸らした。
情けない。
「そうですね.....魔力探知の反応はありますけど.....あ、こっちに来てる.....」
「分かった。」
情けない。
俺は言葉で伝えるのが下手だ。
伝えたいことが頭の中でぐるぐると回って、まとまらない。
ラーファルトに伝えたいことは山ほどある。
救ってやりたい。
でも言葉では伝えるのが下手すぎる。
「前から来てますね。魔物です。」
「ああ。そうだな。」
なら、せめて行動で.....
己の背中で伝えてみせよう.....!!




