第94話:魔道具選び
「それで俺たちは西に進むんだよな。」
「ああ、そうだよ。」
ムシュネネモとの会話の間全く話していなかったジェットがそう聞いて来た。
あんまり話を理解できていなかったのだろうか。
まあ念力ってなんやねん!ってなったらなんでその会話になるのか分からないからな。
俺もSariがなかったら理解できてなかったかもな。
『そうですよ。えっへん!』
そんな自慢げにならなくてよろしい。
『チッ。』
うるさいなこのAI…..
何はともあれ、居場所の方向性は理解した。
次にすべきことは.....
「準備をしましょう。」
「何がいるんだ?そこまで必要な物などない気がするが.....」
確かに俺はミルと旅立つ時にあまり準備はしていない。
だがそれはお金が無かったからで、本当は旅には相当な準備が必要だったりする。
最も、今回も一刻を争うためそんなに時間はかけないが.....
『間も無く目的地周辺です。案内を終了します。』
うん。カーナビ感半端ないね。
「本当は準備が必要なんですよ.....例えば.....こことかです。」
俺は目の前にある店を指差す。
「ここは、剣を売っている店か?」
「そうですね。あと、剣を研いでくれますよ。」
「なるはど、切れ味がよくなるって訳か。」
いや、何当たり前のことを.....
まあ、いっか。
「一つの剣につき、銀貨3枚だよ。明後日まで待ちな。」
店に入って俺の剣とジェットの剣を渡すとドワーフの店員にそう言われた。
が、明後日なんて待ってられないな.....
「その三倍の値段出す。明日までにしてくれ。」
「.....いいだろう。最高の出来にしてやる。」
交渉成立だ。俺は銀貨18枚を差し出した。
幸いお金に余裕はある。
ファイディンからなんか貰えた。
「おい、ラーファルト。小遣いをやろう。」
って、表向きの支援は出来ないから”個人的に”貰ったお金だ。
「さて、次に行きましょうか。」
誕生日にモルガンから貰った剣の切れ味が良くなるなんて期待しちゃうなー。
と考えながら次の店に向かうラーファルトであった.....
ーーー
「ここは何の店なんだ?」
「魔道具を扱う店です。旅に便利な品が沢山ありますよ。」
「いらっしゃいませ。この店のオーナーをしております、ミシェルと申します。」
俺がジェットに店の説明をしていると、そのオーナーがやって来た。
「ああ、構わなくていいですよ。自由に見ますから。」
「いえ、そういう訳には行きません。」
え?なんで?他の人は自由に見てるのに.....
「あなたのことはルーナ様より知られております。私、ミシェルも調停者の一人でありますので。」
えええ、まさかすぎる。
「ルーナと知り合いなのか?」
「ええ、調停者同士は連絡を取り合います。結構街中にいるのでこれからも出会うことはあるかと.....」
ジェットが聞くと彼はそう答えた。
「幸い、私の調停地では何も問題は発生していないため、助けて頂くことはございません。」
そうか。なら良かった。
「ただ、あなた方と出会ったのもまた一つの縁であります。ぜひ、この店を案内させていただきたいと.....」
「分かった。頼むよ。」
「ありがとうございます。オススメの品を紹介致しますので付いてきて下さい。」
てか、ルーナは妖精族だったよな.....
と、ミシェルの後方を歩きながら考える。
「ミシェルさんは何族なんだすか?ルーナは妖精族って言ってましたけど.....」
「私ですか.....うーん.....ちょっと耳を.....」
「え、はい。」
少し渋りながらも教えてくれるようだ。
「私は地底人族です。」
「地底人族.....??」
『地中に住む人族に似た見た目の種族です。ただし、普通の人族よりも目、手、足が進化しておりその容姿から差別を受けています。』
なるほど.....それで渋った訳か。
「でも、そうは見えませんね....」
「ええ、魔術を使用していますから。」
「へぇ.....どんな魔術なんですか?」
「トリックフェイスと呼ばれる禁忌魔術ですよ。」
『フェイスとついていますが、体型と体格以外なら容姿を変えることができる禁忌魔術です。』
へぇ.....どんな風にするんだ?
『普通は詠唱により行うのですが、魔力を自分の想像する容姿と同じ形に動かし、体と定着させることで使用できます。』
つまり.....
「こんな感じですか?」
「これは.....驚きました。正にそんな魔術です。詠唱なしで行うとは恐れ入ります。」
「いえ、それほどでも.....」
なんか褒められると照れるな。
「無詠唱魔術が使えるとルーナから聞いてはいましたが、これ程とは.....それはさておき、これらが我が店のオススメです。」
そう言って指差した方向にはいくつかの魔道具があった。
「へぇ.....中々だね.....」
「はい。一つずつ説明致しますね。」
ーーー
一つ目がなんかかっこいいキーホルダーの見た目の魔道具。
これを杖に付け、杖を媒介して魔術を発動すると、使用魔力量を二倍にする代わりに威力が三倍に上昇する。
値段は標準レベルの銀貨三枚。
二つ目が鏡の見た目の魔道具。
魔術を無条件に三回跳ね返すことが可能。
格上の敵への対抗手段となる。
値段は少し高めの銀貨八枚。
三つ目が指輪の見た目の魔道具。
魔力を少しずつ吸い取る(魔力切れにはならないように調整される。)が、魔力を一気に流し込むとその状況下で必要なものに変化する。
使用しない場合、魔力をもう一度こめると指輪に戻る。変化は何度でもできるが、一度使用すると消える。
値段は標準レベルの銀貨四枚。
ーーー
これは.....
「中々の出来ですね.....」
「ええ、この街一番の魔道具店と自負しております。」
そりゃすごい。
「うーん.....買ってもいいかもな。」
特に鏡.....ジェットに持たせておいたら魔術への対処が簡単になるかもしれない。
「じゃあ、三つとも下さい。」
「はい。ありがとうございます。ルーナの知り合いということで、それぞれ銀貨一枚ずつまけておきます。」
「それはありがとうございます。助かります。」
合計で銀貨十二枚を渡して、店を出た。
「またのご来店をお待ちしております。」
「ええ、また。」
ーーー
「ジェットはこれを持っておいて下さい。」
「ああ、分かった。魔術への対処が可能になるってことだな。」
うむ、飲み込みが早くて助かる。
と考えながら俺は頷いた。
俺はフィックス先生から貰った杖にキーホルダーをつける。
この杖もあまり使っていないな.....使わずとも発動できるからなぁ.....
これを気に使用回数が増えるといいんだが.....
とりあえず一回試しに使ってみるか.....
『迷惑にならないように上空へ放って下さい。』
分かってますよ〜。
《ウインド》
うん。確かに使用魔力量は増えているが、それ以上に威力はあがっているな。
もしいつもの威力にしたいのならば杖を使わずに発動すればいいだけだ。
「よし、じゃあ明日剣を受け取った後に出発です。」
「ああ、今日は宿で休息か。」
「ええ。しっかり休んでおきましょう。これから何があるか分かりませんから。」
そう言って俺たちは宿への道へ進んでいた。