第89話:俺たちは
「絶空・解除」
結界が崩れる。
ええと.....ローソンは.....
あ、いた。
ジェットとミルが戦闘不能と言えるほどにまで追い込んでいたようだ。
今は二人の側にいる。
「トランスペアレント・解除」
アーレウスの姿も確認できた。
これで作戦実行はできる様になった。
「おい、ローソン。降伏しろ。」
俺はそう声をかける。
「さもなくば、お前たちのリーダーを殺す。」
俺の足元には副隊長がいる。
そういえば名前聞いてないわ。
「.....」
ローソンは全くの無言のまま黙っているようだ。
「もう一度言う。降伏を.....」
「しねぇよ.....」
ローソンがそう呟く。
「降伏なんてしねえよ!誇り高きジェット王国の兵士がそんなことをしてたまるか.....!!」
大声でそう声をあげるローソンを俺は冷酷な表情で見る。
「そうか。なら仕方ない。」
《雷砲》
ボォン。
そう音を立てて土煙が舞う。
そこに副隊長の姿は跡形もなかった。
「お、おいラーファルト.....!!」
「ラーファルト.....?!」
ジェットとミルも混乱しているようだ。
まあ、殺すなっていっつも言ってる奴がこんなことしたらそうなるよな.....
「それではこれで失礼する。」
「調停の技」
《霹空》
ローソンら倒された三人の兵士を除いてそこに人の姿はなかった。
「ふふふ.....ふはは。はは。」
ただ、ローソンの笑い声が響いていた。
ーーー
「よし、作戦最高だな。」
《トランスペアレント・解除》
目の前に副隊長の姿が現れる。
「うおお.....!!」
アーレウスが剣を構えたが俺はそれを手で制した。
「味方だよ。お前たちを脱獄させる手助けをしてくれた人だ。」
ーーー
「作戦がある。」
と言ってもこれはSariが提案したことなんだが.....
『副隊長を殺しましょう。』
何言ってんだお前!
と俺も最初は思ったのだが.....
「お前を殺すふりをする。」
「そんなことどうやって?」
殺すふりならいいだろう。
最初からふりと言え!Sari!
『うるさい。』
なんだこいつ。
というのは置いておく。
そんなことどうやってするのか。
副隊長も持っている疑問だが。
『トランスペアレントで消し炭にしたふりをすればいけるでしょう。』
「トランスペアレントで消し炭にしたふりをするんだ。」
とSariの答えをそのまま反復する。
「なるほど。まあなんとかなるかもな。」
副隊長もこう言ってるしなんとかなるんだろう。
多分俺ならできる。
『敵は副隊長を殺そうとしていましたし、反対はしないと考えられます。』
降伏を要求しても降伏なんてもっての他だと思うわけだ。
むしろ殺す方が都合がいいと.....
じゃその作戦採用。
「ま、なんとかするからボコボコにされたふりしといて。」
「あ、ああ分かった。」
ーーー
「ということだ。」
「なるほど。」
「それなら納得ね!」
ジェットとミルがそう言ったがほんとに理解したのかは知らん!
俺、説明下手だし!
「つまり、この人は俺たちを助けてくれた人なんだな。」
「ああ、そうだよ。」
アーレウスがそう聞いてきたので淡々と答える。
「そうか。感謝する。いや、してもしきれない。名前は?」
「トリウス・カルディアだ。」
「俺はアーレウス・スコットだ。よろしく頼む。」
そう言って二人は握手する。
そうかぁ。トリウス・カルディアなんだな。
副隊長の名前は。
『名前を聞かないのは普通じゃありません。』
それはそう!ちゃんとこれからは聞こうと思う。
「それで、アーレウスたちにお願いがあるんだがトリウスとも一緒に過ごして欲しいんだ。」
「ああ、それは構わないが.....どうしてだ?」
「それについては俺から話そう。」
そう言ってトリウスが自分の過去について語り始めた。
俺に話したことだ。
「俺は捕まえたお前たちを逃す間に殺し合いが馬鹿馬鹿しく思えてしまったんだ。もう人を殺すなんてクソみたいだとな。だから.....」
最後にそう付け加えようとしたところでアーレウスが口を開いた。
「事情は分かった。歓迎しよう。平和を目指す俺たちが協力するのは大切なことだ。」
アーレウスがなんかかっこよく見える。
言い切る感じがいいな。
「それに俺だけだと心許ないんだ。剣士の他に優秀な魔術師がいてくれると助かる。」
おお、すげえ。
アーレウスが神々しく光って見える。
そんな感じで人を取り込むのが上手なのだ。
この村は発展するだろう。
俺たちがいなくとも自分たちでできることをやる。
また、新しい日々を作り上げる。
「それじゃ国境の方へ向かいましょう。」
そう言って俺たちは歩き出した。
ーーー
ルインド王国の北にある国。
ホック共和国。
ここは永世中立国だ。
ルインド王国と川で国境線が決まっている。
「川だな。」
国境線が見えた。
「これでとりあえずは安心だな。」
ワアアアアア.....!!
そんな感じでちょっとした歓声が起こっている。
「ラーファルト.....ジェット.....ミル.....三人には感謝しても.....」
「いいよ。そういうのは。一応俺は宮廷魔術師だから、任務の一環としてやったまでだ。」
アーレウスがそう言ってきたことに対して俺はそう答えた。
「そうか。それでもこの恩は忘れない。いつでも俺たちの作った村に来てくれ。」
「ああ。行くよ。必ず。」
そう言って。彼は背を向け、歩き出した。
が、途中で振り返り口を開く。
「今、出来ることを全力でやり続けるよ。」
「ああ。頑張れよ。」
アーレウスは強くなるのだろう。
彼には守るものもいる。
優秀な魔術師も仲間になった。
きっとこれから成長し、この村を率いてくれる。
「うう.....怖い.....怖いよ.....」
ダイがそんな風に泣いていた。
あの子怖がりなんだな。どこでも泣いている気がする。
「ダイ!泣き止みなさい!」
アイルがそう言って叱っているが、そこにアーレウスは近付いてそれを止めた。
「ダイ。怖いよな。なら一緒に行こう。」
そう言ってダイの手をアーレウスがとって歩き始めた。
「大地を司る神よ。そこに無き物を、創造をこの世に実現したいこの思いを受け取りたまえ!我の思い描く世界を構築したまえ!強大な力を我に与え、大地の全てを支配する程の支柱を、芯を持たせたまえ!」
《ビルド》
技巧級土魔術を用いてトリウスが橋を作った。
そこをアーレウスとその手を握るダイが渡る。
まるで、俺がフィックス先生に外へ連れ出してもらったときのようだ。
フィックス先生は今どうしているのだろか。
どこにいるのだろうか。
また会いたい。
「行きましょうか。」
そんなことを考えながら俺は.....
「ああ。行こう。」
「ええ。帰るわよ!」
.....いや.....俺たちは王都への道を歩み始めた。




