第88話:敵の副隊長
「お、おい!レイニー!」
どうやらジェットに倒された人の名前はレイニーと言うようだ。
「貴様らぁ.....!!ただじゃ済まさんぞ.....!!」
「殺してないだけ喜びなさいよ。」
「た、確かに.....」
納得するんかい。
「だが、お前らは倒す.....レイニーの分もな.....!!」
だから死んでないから!
「手伝おうか?」
「いえ、いいわ。私が倒す。」
そうジェットへ告げてミルは敵を見据える。
そういえば、私の異名ってないの?
『複数ある中では黒紅のミルというのが一番かっこいいかと。』
複数.....??
まあそれはいいか。
黒紅のミルってかっこいいわね。
「黒紅のミル参る.....」
静かに呟き、攻撃の構えをとった。
敵も冷酷な目をしながら攻撃を受ける形を整えて呟く。
「牙折のドリー参る.....」
どうやらこの敵の名前はドリーと言うようだ。
会話する限り根から悪い奴という感じではあるが、今は戦うしかない。
この斬り合いで決める。
アリス流のカウンターを受けないように倒す.....!!
「ガルス流!壕」
《土壊!》
土に剣を叩きつけて地面を揺らす。
地面を割る。
足場が乱れ、バランスを取りにくくなる。
敵はバランスを整えながらもこちらを見据えている。
「ガルス流!急手」
《光剣!》
速度に特化した技。
だが.....!!
「アリス流!置」
《設剣》
防御と同時にスピードの出ている敵から剣に突っ込ませようとする技。
このままでは攻撃を当てれてもこちらが死ぬ.....!!
ならば.....!!
キィン.....!!
攻撃をわざと剣にあててスピードを止める。
「ガルス流急手」
《光剣!》
そのままスピードを出して撹乱.....!!
キィン!キィン!キィン!
何度も剣と剣がぶつかり敵を翻弄する。
キィン.....!!10回目.....!!
ここが隙.....!!
「ガルス流螺」
《獄断!》
スピードにより翻弄で完全に死角へ入り込む。
敵の視線をも光剣で誘導し、高下を完全に当てる。
一瞬、技の途中で目が合う。
が、もう間に合わない.....!!
タァン.....!!
音が響き、敵は地に倒れた。
ーーー
「ゲボッ.....!!ゴホッ.....!!」
大量の海水により副隊長は流されていた。
「チッ.....強すぎ.....??!!」
そう呟いた時ラーファルトはもう目の前にきて拳を振るっていた。
《ジェットパンチ!》
やっぱダサいなこの名前.....
水圧でスピードを出し攻撃する。
荒野の覇者の右腕であったカリウスの使っていた技だ。
それをこんな感じなら出来そうだな。と再現したものである。
ムーブドウインドとライクオーシャン、ウインドロードの組み合わせで行える。
これなら死なない。
Sariが「あれ」って言った時は何なんだろうと思ったが、実際に聞くと普通だなと思う。
威力を調整すればちょっと強いパンチかキックだ。
ただ痛めつけてるように見えるが、実際はこれでどちらが味方かを見極めている。
味方を殺す訳にもいかないし.....
「炎の精霊よ。我が体にその景色を刻まん。今、この場に広がりたる火の脅威を見せしめたまえ!」
《ブロードフレイム!》
初段火魔術を放ってくる。
その攻撃をなんなく俺は魔力探知で逸らす。
「なっ.....!!」
階級が高かろうと詠唱が必要な魔術を使えるのは大体初段まで。
どんなに高くても上段だ。
最も敵との距離により変わるが.....
まあなんにせよ敵の階級はよく分からない。
「おい、お前、覇者狩りのラーファルトだな.....」
『覇者狩りはマスターの異名です。』
ふーん。
「うーん。まあそうだけど。貴様、どうやってここまで来た。森を抜けたのか?早すぎるぞ.....!!」
ああ、まあ霹空というずるい技をルーナに使ってもらいましてねぇ。
ということは置いといて.....
「質問できる立場だとでも思っているのか?なあ、副隊長。」
その瞬間魔力探知が反応する。
結構大きいな。
魔術か。
ローソンも魔術使えたんだな。
《雷砲!》
後方から飛んできていたのはデストロイフレイムであった。
覇闘級水魔術により相殺し爆発が起こる。
「今わかった。おい、お前が裏切り者だな。副隊長。」
爆発の余波で髪を揺らしながらラーファルトはそう副隊長に問いた。
「.....」
俺の問いに副隊長はそっぽを向いて、その話は出来ないというような表情を見せる。
「調停の技」
《絶空・対音》
俺と副隊長のみの空間を作る。
ルーナの作った対魔結界と仕組み自体は同じようなものだ。
「この空間の音と光は外に漏れない。侵入もできない。さあ、話してもらおうか。」
「.....俺は、ただ境遇に共感しただけだ。」
いや、どゆことやねん。
境遇に共感て.....
「俺はジャック王国のとある村で生まれた。」
ーーー
それは争いの絶えない村だった。
隣の村との競争が激しく、戦いが起こった。
「ままー!ぱぱー!」
ある日、隣の村は奇襲を仕掛けてきて俺たちの村を破壊しつくした。
女も子供も問わず、殺して回った。
俺は途中で逸れた両親を叫んで探し回っていた。
「おい、そこの子供。」
一人の敵にそう呼び止められ、俺は攻めてきた村に連れて行かれた。
村に着くなり俺は乱暴に敵の村の牢屋に投げ入れられた。
その時の俺は何も分からなかった。
自分がどうすべきなのか全く考えられなかった。
出されたご飯にも全く手をつけず、ただ日に日に痩せ細り、死にゆくものの体だった。
人としての感情を失っていた。
いよいよ意識が朦朧としてきた時、一人の男が牢屋の中に入ってきた。
俺をこの村に連れてきたやつだった。
「大いなる災いに体を蝕まれ、立ち上がることも出来ぬ、このか弱き一命を天の名の下に変えさせたまえ。」
《エクストラヒール》
彼は俺に中級治癒魔術をかけ、俺を起こした。
「ど、どぉ、どお、どーし、て.....??」
久しぶりに口を動かした。
ろれつが回らず、やっとのことでそんな声を出した。
その俺の声に彼は反応し、目線を真っ直ぐ向けてきていた。
まるで人を人と思っていないような冷酷な目。
「お前は生きたいか?」
彼は俺の質問には答えず、逆にそう質問してきた。
「え、あ、え、うっ.....」
しどろもどろになってそう狼狽えていると、彼は更に目を冷酷にして口を開いた。
「質問を変えよう。今、死ぬか?」
シャンッ!
そう剣の音を響かせて俺の首筋に剣を当ててきた。
震えが止まらなかった。
食が喉を通らず死にかけていたのに、また死の淵に改めて立たされると今度は恐怖で堪らなくなっていた。
「う、い、い、生き、生きたい.....」
幼い俺はどうすべきか分か分からなかったと思う。
それでも「生きたい」とその一言を絞り出した。
「そうか。なら食え。生きたいのだろう。」
そう言って彼は食事を差し出す。
俺は、それをがっつく様に食べた。
泣きながら食べた。
彼はその様子を無表情で見つめているだけだった。
ーーー
「着いてこい。」
そう短く呟くと彼は牢屋の外へ俺を連れ出した。
「あの、何を.....??」
そう聞くと彼は短く答える。
「魔術だ。」
俺は魔術を彼から教えてもらっていた。
初めは初級火魔術。次に初級水魔術。
そして土、風、治癒ときて、続けて中級の魔術を順番に習った。
魔術を教える時は決まって牢屋の外だったが、それが終わると牢屋の中へ戻された。
そして毎日必ず口止めとして彼はこう言った。
「この特訓のことを大人になるまで誰にも言うな。」
それから一カ月で色々なことを学んだ。
流石に 全て習得とまでは行かないが、上級までの魔術を使いこなした。
技巧級までの詠唱も覚えた。
思えば牢屋にいようとも、あの時期が最も平和で楽しい時間だったかもしれない。
だが、それは一瞬にして崩れ去った。
ある日、いつものように彼は牢屋を開いた。
俺が外へ出ようとすると、彼は突然俺を蹴り飛ばした。
「お前には死んでもらう。」
初めに俺にやった様に剣を突き出してきた。
ーーー
「そこから先はよく覚えていない。」
「覚えていない?」
一通り副隊長が話し終えるとそう言った。
「ああ、生きるのに必死でな。ただ一つ言えるのは、その時俺は師匠を殺した。」
「師匠を.....」
俺にとってフィックス先生を手にかけるということだ。
出来るか.....??
相当な覚悟と理由がないとそんなこと出来ないだろう。
「どうして師匠は最後にお前を?」
「分からない。何も師匠については分からないんだ。」
ふむ、まあ一カ月だしそんなもんか.....
「ただ、多分俺を殺そうとしたのは俺の故郷の村を滅ぼしたからだよ。人質を取っておく必要が無くなったんだ。」
「なるほどねぇ。アーレウスたちを逃したのはその故郷を奪われるとか捕まるとかいう気持ちに共感したからか?」
「ああ、そうだ。というよりなんでそれに気がついたんだ?一応お前は倒すつもりでいたのに.....」
「ああ、それは.....」
言いにくいなぁ.....
「構わずに言ってくれ。」
「お前を部下は殺す威力の技を放っていた。逆にお前は仲間を気遣いながら俺に攻撃をしていたんだ。」
「俺を殺そうと?」
「ああ。理由は分からんがな。」
まあ単純に考えれば自分の立場を上げたいからとかだろうな。
「それで、どうする?」
「お前はどうする?戻るか?俺たちに着いてきてもいいんだが。」
「.....着いていこう。」
「分かった。作戦がある。」
「.....」
作戦を告げた後、俺は結界を解いて行動を開始した。




