87話:数的不利で
さて.....敵は四人か.....
アーレウスによると脱獄を手伝ってくれた味方っぽい奴も一人いるらしいし.....
Sari!アーレウスと脳波で繋いでくれ。
『それは危険だと考えられます。脳波通信の傍受をされる可能性が高いです?』
どうして?
『敵もロードリングを持っています。』
なるほど.....同じ機能を使える可能性が高いのか.....
なら、味方かもしれない奴のことは考えずに戦った方がいいのかもしれない。
まあ、元から殺しをしようと思っているわけでもないし.....
「ミル!ジェット!一人ずつ頼む。後の二人とは俺が戦う。アーレウスは引き続き他の者を守っておいてくれ。」
「ああ、任せろ。」
「余裕ね!」
「分かった.....!!」
それぞれがラーファルトの指示に従い行動を開始した。
それと.....
《トランスペアレント!》
透明化により姿を隠させる。
「アーレウスにトランスペアレントの解除許可を出した。もしもの時はそれで解除して戦え。」
透明化の発動時は敵へ攻撃ができない。
返事はない。
位置がばれるから声は出していない。だがきっと通じているだろう。
よし.....それじゃあ.....
『戦闘サポートモードへ既に移行済み。戦闘掌握はまだ行えません。』
敵の実力も相当っぽいからな.....
「隙がないなあ.....」
向き合った瞬間そう敵が呟いた。
「指示だし.....敵への対処.....その間に攻撃の隙さえも与えていないとは.....」
「それはどうも.....だが一見無防備に見えるあの瞬間に隙を作っていないと気づくのも相当だ。」
敵は二人.....
もし、四人の中に味方が一人いるならばこの二人のどちらかの可能性が高い。
できるだけ犠牲は出したくないだろう。
二対一の数的不利の場所を無くすようにしたいと考えられる。
「さて.....動かないのならばこちらから行こうか.....!!」
敵が攻撃を試みないのを見てラーファルトはそう声をあげた。
《ロックショット!》
まずは小手調べ.....
「副隊長!」
「大丈夫だローソン。対処可能だ。」
ローソンて.....著作権的なの大丈夫なのか?
なーんかどこかで聞いたことあるんだが.....
『ただの人の名前なので問題などないと思いますが?』
うん。それもそうだ。
とそんなことを考えている間にロックショットが敵の目前まで迫っている。
さて、どう対処するのかな.....??
《リセット》
突如、ロックショットが消滅する。
これは魔術の無効化.....??
いや、俺の魔力はまだそこに存在している。
『魔術の退化をさせる禁忌魔術と考えられます。』
ロックショットが無効化されたというより元の状態に戻ったと言う感じか?
『その通りです。』
魔術には基本、四つの段階がある。
まず、魔力の変動が起こる。
次に魔力の移動が起こる。
そして魔術が形成される。
最後に詠唱後、魔術の発動をするのだ。
リセットは魔術の形成以前にまで戻すということなのだろう。
ならば対処は可能そうだ。
「副隊長.....」
「ああ、二人で挟むぞ。」
ローソンがその瞬間ニヤリの笑った。
刹那、撹乱するように二人が同時に動き出す。
ローソンが剣を抜いた。
副隊長の方も剣は持っているが、魔術も使っていた。
リセットという案外難易度の高そうな禁忌魔術だ。
どちらかといえば魔術に才があると考えるのが自然.....
《ファイアーサイクル!》
自身の周りに火の円を作り出す。
これで近づきにくくはなる。
最も対処法が無いわけではない。
例えば.....
「水の精霊の形成する大河よ。その集積たる海をこの陸へ出現させ、あらゆる物を沈ませたまえ!」
《ライクオーシャン!》
水魔術.....!!
《アイスフィールディング!》
ラーファルトの魔術により周囲が凍った。
ライクオーシャンは免れた.....
だが.....
「ガルス流!進手!」
《斬》
ローソンの方から攻撃は飛んでくるよな.....!!
《ビルド!》
ドームを作り、攻撃自体をガードする。
「土に潜む神よ、我々の踏む大地のありがたみを感じ、今一度、その力をここに顕現したまえ!」
《タワークラフト!》
うお.....!!まじか.....!!
敵の作ったタワーがドームの中に形成される。
これは.....潰れる.....!!
ドームの強度は高い。
下手すれば俺が圧死させられてしまう。
「ビルド解除.....!!」
『敵の攻撃が来ます.....!!』
ここまで読まれてるってことか.....
「ガルス流!麟!」
《炎輪》
「いい連携だ.....」
ラーファルトが思わずそう呟く。
「だが、甘い.....!!」
《ウォーターソード!》
「アリス流奇手」
《封剣!》
敵の攻撃に合わせることに特化したアリス流。
その奇手の封剣。
バースと牢屋で戦った時に使った技だ。
敵から剣を手放させる。
「なっ.....!!」
敵に技を挟ませる程の攻撃だ。
まだまだ甘いな。
《ライクオーシャン!》
海水を全方位へ放つ。
「水の神よ。流動的なその体を我に預け、我の通る道を作る礎となりたまえ!」
《アイスフィールディング!》
副隊長は海水を凍らせて対処したようだが.....
「崩れる.....」
そう呟くと同時に氷の防波堤は決壊した。
無論、ローソンはなす術もなく流されているようだ。
さて次は.....どうしようかな.....
殺さずに攻撃って難しいし.....
『死なない程度の魔術ならばあれが有効だと考えられます。』
あれ?
『.....』
ーーー
「ガルス流進手」
《斬!》
「アリス流返礼」
《巻》
ミルの放った斬撃がそのまま返ってくる。
敵はアリス流の使いか.....
やりにくいが.....
カウンターに警戒しつつ隙をつけばいい。
その為には手数を減らす.....!!
「ガリス流見切り」
《合わせ太刀!》
「チッ.....!!」
敵は舌打ちをしながら剣を動かした。
「アリス流攻舞」
《剃》
アリス流では珍しい攻めの技。
その挙動にミルの反応が一瞬遅れる。
などということは起こらない。
あらゆる剣に合わせる。
それが合わせ太刀。
攻撃を受け流す。
キィンと音を立て、そのまま押し合う。
が、一定のタイミングで同時に飛び退いて離れた。
剣を構えたまま二人が睨み合う。
「嬢ちゃん強いな。」
「私で強いった言ってたらまだまだね。」
「あ?」
ミルは何も言わずに自分達の右側を指差した。
ジェットが既に敵を倒し、こちらへ歩いてきていた。
ーーー
「お前強いな。」
「そうか、ありがとう。」
剣術を褒められた気分になってジェットがちょっと自慢げな表情になる。
最もまだ剣を振るっていないため体格などを見て言ったのだろう。
「では、始めようか.....!!」
ちょっと上機嫌のジェットがそういって剣を構えた。
同時に敵も構える。
「荒野独流!」
《克戦斬!》
斬撃を敵に向かって飛ばす。
その斬撃を弾くのに精一杯で敵は動けない。
ジェットの斬撃の強さは予想以上だったようだ。
その一瞬の足止めの間にジェットは距離を詰める。
「荒野独流!」
《波風》
読みにくい軌道を剣が辿る。
「くっ.....ガルス流!攻守」
《鉄斬》
守りと攻撃を同時にこなす事のできる技。
だが、その攻撃はジェットに届かない。
弾かれ、そのままジェットの読めない軌道の攻撃が来る。
「くっ.....!!」
そのまま敵は転がりながら吹っ飛ばされる。
「終わりだ。荒野独流!」
《殲眼撃!》
隙に剣を全て打ち込む技。
パァン
そう音を立てて敵にできた隙へ無駄なく何発も打ち込まれる。
全て峰打ちのように斬らないように攻撃されている。
「あっ、やりすぎた。」
そうジェットが呟いた瞬間にはもう敵は意識を失っていた。