第86話:今を全力で
「大地の神よ。その土を我に与え、目の前の敵を砕きたまえ!クリス流!雲!」
《土隠》
初級土魔術のマッドスロウにより敵の目を奪い、その隙を攻撃するクリス流の技。
だが、それは.....
シュピイイイイイ.....!!
効かないよな.....なんたって頭は八つある。
余程大規模でない限り怯ませることなど出来ないだろう。
技を放ったアーレウスに反撃が飛んできている。
「ジェット!」
「ああ、任せろ。荒野独流!」
《零炎》
ジェットはアーレウスに飛んでくる反撃を弾き、そのまま一本の首を落とした。
「相手をよく見るんだ。自分の技術をぶつけるのではないぞ。」
アーレウスに対し、ジェットはそうアドバイスを送る。
「相手をよく見る.....」
アーレウスがそうジェットの言う言葉を復唱し戦場を見据えながら走る。
「ガルス流急手」
《光剣!》
速度のある技でサンドワームを翻弄しながらミルは攻撃を繰り出している。
だが敵の巨大故に決定打には至らない。
既にジェットの落とした首は再生していた。
同時に八本の首を落とさなければこのサンドワームは倒せない。
《ロックショット!》
アーレウスの背後に回っていた首を俺は攻撃する。
「アーレウス、そのまま戦場を見据えろ。勝機を探せ。俺たちが守ってやる。」
「それじゃ駄目なんだ.....!!俺が.....一人で戦って守れる者になりたいんだ.....!!」
一人でか.....
「アーレウス。それは無理だ。」
《デスマジックパワー!》
サンドワームの首が同時に三本飛ぶ。
「なっ!はっ!?」
恐らく今のアーレウスには到底理解できない攻撃だろう。
「お前ではこんな技を扱えない。お前より高みにいるやつなんて五万といる。」
「ジェット、ミル。邪魔をさせるな。」
「ああ、任せろ。」
「ええ、分かってるわ!」
「荒野独流」
《魔終斬》
「ガルス流奥義」
《一閃》
まるで俺の心を読んでいるかのような動きを二人は見せていた。
ラーファルトの声を聞く前にその行動を起こしている。
旅の中で鍛えられた信頼。
そして連携が発揮される。
「頼らなければいつか負ける。」
「なら俺はどう守ればいいんだ!これから!」
その様子に俺はふっと微笑みふっと息を吐く。
「今、守ればいい。」
アーレウスの顔があがる。
「過去を悔やんでも、未来を恐れても仕方がない。今やるしかない。今出来ることを見るしかない。」
その選択を何度後悔しただろうか。
宮廷魔術師にならなければ、あの選択で村に残ることを選んでいれば村を守れたかもしれない。
サナはいなくなったりしなかったかもしれない。
そんな後悔を無限に繰り返した。
そう思わない日々はなかった。
だが、ミルがその日々を変えた。
今、守りたいから。
過去も未来もそんなの関係ない。
今、したいことがあるから。
今を守りたいから.....
だから....
「だから、今を全力で生きるんだ。」
その瞬間、ラーファルトの魔力探知が反応した。
『明確な敵意を察知。警戒して下さい。』
これは恐らく.....
「今出来ることをやろう.....と言いたいところだが.....」
それどころではないな.....
「ジェット、ミル!次の一撃で決める。」
突然の発言だ。
混乱もある。
が、疑うことなどある訳がない。
ラーファルトがそう言うならそうすべきだと思う。
その信頼が思考に次の思考を早める。
「アーレウスは他の人々を守っていてくれ。」
「あ、ああ.....」
アーレウスでは力不足という判断だ。
まだ彼は弱い。だが、強くなるだろう。
今、出来ることををしようとしている。
仲間を、皆を守ろうとしている。
守る者は強い。
戦う者としてこれを超える教訓はない。
「それじゃ.....倒すか.....」
《ロックショット!》
一度、敵の首の四つが飛ぶ。
キュアアアアアアン!!!
残る首で反撃をしてくる.....
が、普通の魔術師と違い俺は無詠唱魔術を使う。
《ビルド!》
土の城壁とでも言えるような物を建造する。
ドオン.....!!
と音を響かせ敵の攻撃がぶつかる。
傷一つない土の建造物がそこにある。
《ソイルハード!》
ラーファルトがその土の硬さを固くしていた。
「荒野独流!」
《黒殲獄豪傑斬!》
敵の首の二つが飛ぶ。
残り二つ.....!!
が、サンドワームもそんなに甘い奴ではない。
ウオロオオオオオオオン.....!!
そう泣き声をあげ、みるみる再生が進んでいく。
「面倒だな.....!!一撃で飛ばしたい.....」
「なら、私たちで時間を作るわよ。当てることに集中して。」
ミルがそう俺に声をかけた。
なら有り難くその提案に乗るとしよう.....
「ガルス流!重!」
《十連!》
連撃が敵の再生を阻害する。
が、その攻撃後の隙は大きい.....!!
「荒野独流!」
《魔終斬!》
そんなリスクはジェットにより排除される。
ミルへ飛ぶ反撃を弾き、そのまま敵への攻撃に移る。
「ガルス流見切り」
《合わせ太刀!》
それでも怯まず攻撃を続けるサンドワームに対し、ミルの方が反撃する。
「荒野独流」
《醒祓》
瞬きの間に消える姿に敵は反応などしようもなく吹っ飛ばされる。
「ミル.....!!」
ジェットがそう大声で叫ぶ。
が、そんな叫び声など必要ないと言うように技の準備はとうにしていた。
「ガルス流!黎撲」
《貫絶剣!》
敵の身動きを封じる一撃。
体制を完全に崩した。
「ラーファルト!今よ!」
ミルがジェットのように大声で叫ぶ。
が、これもまた先程のミルのように必要無かったかのようだ。
既に技の準備は済んでいる。
《雷砲-圧》
覇闘級水魔術の雷砲。
高威力で殆どの敵を葬ることのできる技だ。
だが、それ故に広範囲で周りを巻き込む可能性が高い。
その欠点をラーファルトは消した。
雷砲を圧縮し、一定の場所に放つように魔力探知で攻撃。
また圧縮したお陰でその威力も遥かに増大する。
キュアアアアアアン....!!
そう鳴き声をあげながらサンドワームが消し炭となる。
技の終了と共に静寂が広がった。
「こ、これは.....いや、これが.....」
アーレウスがそう声をあげるのが精一杯であった。
アーレウスでは力不足。
そんなのさも当たり前であるかのような光景。
だが、ラーファルトはその警戒を解いていない。
「いるな.....」
《ロックショット!》
十時の方向およそ三十メートルの地点の地面にその攻撃は刺さる。
「は?」
ミルとジェット以外の者は混乱を隠せない。
が、次の瞬間には全員が絶句していた。
「よもや、バレるとは.....」
《トランスペアレント・解除》
その声と同時にそこに黒のマントを羽織った四人の者が現れた。
「透明化による接近か。」
かなりの手練だ。
恐らく.....
「あ、あ、あいつらは.....!!」
悲鳴や混乱が混じる複数の声がそこに響きわたる。
恐らくこいつらがこの者達を捕まえていた人なのだろう。
「副隊長、あの者らはどうしますか?」
「抵抗するなら殺す。」
そうか.....
やるしかないという感じだな。
見つかればこうなるとは思っていた.....
「こいつらを倒して気持ちよく国境を超えるとしようか.....!!」
「ええ!」
「ああ、行こうか。」
ジェットとミルはラーファルトにそう同意する。
「.....」
そんな中、アーレウスは一人、今出来ることを考え続けているのであった。




