第8話:出会い
さて反撃開始といこう—————
そんなことを言ってはいるが、余裕はない。
相手の動きをよく観察して最適な一手を打ち出す必要がある。
利用できるものは全て利用する。
さあ、かかってこい.....!!
まずは相手の位置を誘導だ。
そうだ.....!!その位置で突進してこい!
「ウォォォォォ!!!!!!」
魔物が雄叫びを上げながら俺の方へ向かってくる。
こいつの突進は曲がることができない。
だから—————
魔物は滝へ突っ込んだ。
俺はその隙を見逃さない。
《アイスフィールディング》
中級水魔術であるこの技、というより水魔術は水辺での強力さが大幅に上がる。
威力は数倍に跳ね上がり、相手の体を氷でしっかりと固定した。
凍って動けなくなった魔物へとどめを刺すとしよう。
《ロックショット》
威力を最大まで上げた上級土魔術は魔物の体を粉々に砕いた。
「よし。倒したな。」
だが——まだ、終わっていない。
馬車に乗っていた人の生存を確認するまで、戦いは終わったと言い切れないだろう。
全員生きてこその勝利だ。
「あの、大丈夫ですか!?」
そこには四人の人間(?)がいた。
二人は男性の人間
そして、一人は女性エルフだ。
もう一人、少女のエルフがいるが、状況から見てこの子は人間とエルフのハーフだろう。
よく見ると打撲などの怪我をしている。
《ハートヒール》
初級治癒魔術を使って治療をする。
「ん、ムニャムニャ.....ふぇ、あ、あなたは?誰?」
治癒をかけると少女がいつの間にか起きて質問をしてきた。
君、それはこっちが聞きたいことだよ。と言いたいところだが質問には答えてあげよう。
「ラーファルトと言います。よく、みんなからはラーフと呼ばれていますよ。あの、えと、大丈夫ですか?」
「あ、えと、はい!おかげ様で、だ、大丈夫です.....!!私は、あの、その、、あの、助けてくれてありがとうございました!」
段々状況を理解し始めたようで、顔を赤らめながらお礼を言った。
「いえ、当然のことをしたまでですよ。ところで君の名前は?」
「あっ!えっと、その、サナって言います!サナ・ラスファント.....」
「うん!よろしくねサラ。」
「えと、その、よろしくお願いします。」
そう答える彼女の顔は更に赤く染まっていた。
程なくしてモルガンが走ってきた。
「ラーフ。大きな音がなったが、これはお前がやったのか?」
「まあ、一応。」
そうして、俺は事の顛末を話した。
「ふむ。まあなんだ。説明もなしに森へ走っていく所は咎めたいけれど、今回ばかりは許してやろう。」
モルガンが、ふん、と息を吐いてこちらを見た。
「その、女の子に免じてな。」
モルガンが俺からサナへ視線を変えた。
自然と俺もその方向を向く。こちらを見ていた彼女と目が合った。
だが、すぐに目を逸らされた。
とほほ.....キラワレチャッタカナ.....
やがて、サナ以外の馬車に乗っていた人たちの意識も戻った。
モルガンと同様に事の顛末を説明すると、
「あの、本当にありがとうございました。この命の御恩は一生忘れられないものになると感じております。以後時間があるときで構いませんのでぜひお礼をさせていただければ嬉しいという所存であり........」
とだいぶ饒舌に言われた。
正直、ここまで言われると戸惑ってしまう。
それからしばらくしてサナたちの容態は大丈夫そうだということ。そして、彼女らの向かう方角が俺たちの村の方向だったことから、共に進むこととなった。
やっぱり襲われた後は不安の筈だからな。
ということで、道中は俺がサナと会話をすることになった。
「ラーフって何歳?」
「今、5歳だよ。」
「私と同じだ!!!」
「ねぇねぇ、何の魔術使えるの?」
「だいたいの種類の魔術を、初段あたりまでは使えるかな。」
「友達になろうよ!!」
「いいよ。というよりもう友達でしょ!」
まあ、そのような楽し気な会話を繰り返していたのだ。
いやぁ、これはもしかしてスカレチャッタ?
キラワレチャッタと思ったけどスカレチャッタ?
いやぁ、照れるなぁ.....!!
だが、そんな時間はあっという間に過ぎていき村へ着いてしまった。
さみしいが楽しかった時間はここで終わってしまう。
「それじゃあ、俺たちの家はここら辺だから...」
と言って別れを告げようとしたところ
「えっ!?!?」
ふいに、サナが目を輝かせた。
「どうかしたの?」
そう声をかけると彼女はこう言った。
「私たち、この村に引っ越しにきたんだよ。」
俺の開いた口と白目は数分、直らなかっただろう。
これが遺伝ってやつか.....!!
まぁ、何はともあれ、それぐらい衝撃的な一言だった。
サナたちがこの村に引っ越してくる人だった。
よく考えてみれば予想はできることだ。
普段人の来ないこの村に馬車で来る家族。
尚且つ、誰かが引っ越してくると知っていたならば普通は気づくだろう。
なぜ気づかなかったのだろう。
非常に恥ずかしい........
さらに驚くべきことに、サナの新しい住居は俺の家から徒歩3分程の距離しかなかった。
無論、村が小さい影響もある。
しかし、一番遠い住宅は30分ほどのかかる場所にあるため近い方であるのには違いない。
ここでサラのプロフィールを整理しよう。
サナ。本名、サラ・ラスファント。白い髪のポニーテールの少女。耳が長いエルフ族と人族のハーフである。俺と同い年の5歳である。
エルフかぁ。人族以外の種族は初めて見た。
思い返してみれば、種族について一度だけ考えたことがあった。
あれは、フィックス先生と種族についての話をしたときだ。
「この世界の種族には主に10種類の主要な種族があります。そこから派生、または独自の進化を遂げた小規模な種族が無数に存在するのですよ。」
「ふーん。そうなんですね。」
と俺は魔術の話よりも真剣に聞いていなかった記憶がある。
今考えると申し訳ない。この世界では大事なことなのだろう。
「今はあまり興味のない話かもしれませんが、覚えておいた方がいいですよ。」
確か、そういわれて少しだけ耳を傾けていたのだ。
「いいですか、まず10種類の主要な種族は2つの派にわかれます。」
「どのような基準で分けられているのですか?」
「戦争の勝利者です。」
そのとき俺は始めてこの世界でも戦争は起こるのだと知った。
「勝った陣営の一番の主要種族を人族と言います。反対に、負けた方の一番の主要種族を魔族というのですよ。」
「つまり、人族と魔族というのは戦争のたびに変わるのですか?」
「世界中を巻き込んでの戦争が起これば変わります。」
「いいですか。人族と魔族での差別は私はあってはならないものだと思っています。過去の戦争の勝利者のせいでその子孫が迫害を受けるだなんて理不尽ですからね。」
フィックス先生は知っての通りかなりの人格者だ。
もし、彼が地球にいたのならば、ノーベル平和賞を受賞できていたのではないだろうか?
「先生は優しいんですね!」
「ありがとうございます。しかし、世界には魔族を排斥しようという人たちもいます。一応10種類の種族がどのように分類されているのかを説明しますね。」
「はいっ!お願いします!」
「まず、人族派は私たち「人族」、「エルフ族」「ドワーフ」「獣族」「竜族」です。そして、魔族派は、最も差別されている「魔族」「ミクロス族」「ライドル族」「オアフ族」「エルフォ族」に分類されています。」
「なるほど。」
「いいですか、ラーフ。差別されていい種族などあっていいはずがありません。ですが、そのような風潮があり、それは中々なくならないのは事実です。もし、差別に対する意識の違う人とであったとしても決して争ってはいけません。争えば争うほどその差別というのは酷くなるのですから。」
「分かりました!」
ああ、一か月前まではまだこんな風に授業をしていだ。
そして、今日、俺にはエルフの隣人兼友人ができた。それも女子だ。
彼女は差別される部類にいない。
だが、差別はいつ、どこで、誰に起こるのか分からない。
差別はなぜ起こるのだろうか。
なぜ消えないのだろうか。
人々の争いは止まらない。
どうすれば止められるのだろうか
もし、それが止まるときが来たのなら.....
それは————————
「おーい。ルーフ!歓迎パーティーはじめるぞー!」
「今行きます。父様!」
ああ!だめだだめだ!!
種族のことについて考えていたら重くなってしまう。パーティーなのだ。
もっと明るい雰囲気でいかなければならない。
「遅くなりましたー!」
そうして、玄関を出ると、サナの一家も待っていた。
「やっほ!サナ!さっきぶり!」
「うん。さっきぶり!」
パーティーを行う広場まで歩き、ほどなくしてパーティーが始まった。
「今日はなんだ。めったにない移住者の歓迎会だ!みんなで仲良く話して親交を深めようじゃないか!いきなりで悪いが、ラスファントさん簡単な自己紹介頼めるます?」
当たり前と言ってはなんだが、このような話はモルガン”村長”の仕事だ。
「あ、はい。もちろん大丈夫です。えー、みなさん。サークス・ラスファントと申します。こちらは、妻のフィーン・ラスファントと子供のサナ・ラスファントです。今日からこの村に住まわせていただきます。以後お見知りおきを。ついでになりますが、本日、魔物に命を狙われたところを助けていただきました。本当にありがとうございました。以上です。」
即興で考えた割にはよい自己紹介だ。俺はここまでいい挨拶ができないだろう。
「挨拶ありがとう。これからはそんな畏まらなくていいからな。これから友人、隣人、仲間として過ごしていくんだ。それじゃあ、みんな待ち遠しいだろう。いくぞ!カンパーイ!!!」
この世界にも乾杯の文化は存在したらしい。俺もお酒を久しぶりに飲みてえなあ。子供だからって飲ませて貰えないのだけど.....
「うおー!おいしー!」「この肉うまいなー!」「パーティーなんでいつぶりじゃろうか」「本当にこれからよろしくお願いします。」「そのお肉ちょーだい!」
酒は飲めない。だけど、みんなの喜ぶ、楽しむ声が飛び交うパーティー。
人の笑顔がたくさん見れる場所にいるとつられて自分も楽しくなる。
「なな、この肉ってラーフくんが単独で倒したんだろ?」
パーティーが始まって数分後、そう話しかけられた。
「え?あ、はい一応。」
「いやー!その年で凄いなあ!」
「いえ、そこまでのことでは.....」
サナ達を助けるために倒した魔物。
その肉は地球のいのししと似た味がしておいしい。
一方、それ以前に取っていた魔物の獲物は少し不味い。
サナ達を助けてよかった.....!!
不味いものを食べなくてすむのだ!
まぁ、本質はそこでない気がするが.....
「ラーフ!」
「あ、サナ!パーティー楽しんでる?」
パーティーが始まって数十分。村の人達とある程度挨拶を終えたサナが俺のところにおしゃべりをしにきた。
「すっごく楽しいよ!!!村の色々な人と話せたんだ!でもラーフほど信頼できる人はいないかな....!」
「そんな大げさな!俺は助けただけだよ!」
「助けただけって、違うよ。助けたことが大きなことなんだよ。本当にありがとう。」
サナは満面の笑みで俺にそう言ってくれた。
「う、うん。どういたしまして。」
参ったな。女子に正面からお礼を言われるなんて。学生時代を勉強に費やし、さらに14浪した俺に女性経験なんてないんだ。女子に弱いから勘弁してくれ。といっても5歳なんだけど。
「あ、あのさ、ラーフ。」
「ど、どうしたの?」
家から出てきた時までは自然に話せていたのに......この笑顔を見たら意識してしまう。
「あの、暇な時間があったらなんだけど魔術教えてほしいなって思ってって。」
「魔術かあ。いいけど、どうして?」
「そりゃ、ラーフが魔術使って助けてくれたから。憧れるよ。」
憧れ。そうだ。憧れだ。彼女にとって命を救ってくれた俺は憧れの対象でしかない。
彼女はあこがれ以外の無駄な感情はこもっていないはずだ。
無駄な意識を俺がしてはいけない。
それにしても「魔術を教える」か。
つい、一か月前までは教わる側だった俺が。人に魔術を教える。
俺もフィックス先生のようになれるだろうか。できる限り善処はするつもりだ。
「サナ。」
「どうしたの?」
そう呼びかけると、サナはしっかり目を見つめていた。
「それでは、今からパーティーのラストに花火を打ち上げまーす!!」
モルガンがそう言っているのを聞きながら、サナに言った。
「魔術の特訓頑張ろうな!」
「うん!」
その花火は、村がサラたちの歓迎をと表すのと同時に、
二人の出会いを祝すかのように花火は打ちあがり、頬を赤く染めた。
【記録:人魔暦5年】ラーファルトとサナ・ラスファントが出会った
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何かしていただけると非常に嬉しく、今後のモチベにつながります!
よろしくお願いします!