第84話:黒のマント
「⓵、⓶、⓷どの答えでもいい。決めた答えに俺はついていく。」
アーレウスは思考停止といった表情だ。
「俺は、じゃなくて俺たちはだけどね!」
ミルが誰も話さなくなった時にそう声を上げた。
「きっと、ラーファルトはみんなの決定を尊重している。私たちの都合もあるけれど、自由に、生きたいように行動出来るように自らを動かしている。」
ミルなりに言葉を紡いで、人々へ語りかけている。
「だから、安心して考えて、迷って。自分たちのしたいことを選んで。その答えを実現できるように私たちが支えるから。」
50人の人々が考え込む。
それぞれが自身のこれからを考え込む。
「あの、私は国外に出たい.....」
最初に声をアイルが上げた。
「あ、えっと.....そのっ、確かにここは私たちの故郷だけど、生活を私はしたいの。またこれから戦争の余波で苦しい思いをするなら外に出たいの。」
アイルはそう全員へ話しかけている。
「わ、私は早く、笑って生きれる場所に行きたい。いや.....生きたいの.....!!」
場が静まりかえった。
「皆さんはそれで.....」
「それいいなぁ。」
ラーファルトが反応を促し終わる前にそう声を上げる者がいた。
「ああ、いいと思うぞ。」
「生きたいかぁ。最高だなぁ。」
「俺たちで新しい村作ろうぜー!」
うん。なんかまとまったな。
「では、明日国境を目指して出発しますので。いいですね。」
促すと反対意見はないと言うような目をしている。
「では、今日はゆっくり休んでください。」
そうしてそれぞれ部屋に戻った。
ーーー
「ありがとうございました。」
「あ、こちらこそ。」
お金が半分減ったが致し方ないな.....
昨日の夜は.....
うん、まあ疲れが取れたしいいか。
お金は半分減ったけど.....
「それじゃあ行きますよ。」
そうして俺は冒険者協会のドアを勢いよく開け放つ。
ーーー
《ロックショット!》
「ふむ。ロックショット!」
うん。アーレウスに無詠唱魔術は難しいかもしれない。
現れた魔物を魔術一発で処理しながらそう思う。
『魔力の動きをあまり捉えられていません。』
うーん.....どうしようか.....
ーーー
「ラーファルト.....さん?」
とアーレウスに呼ばれた。
明らかに子供だし、まあ、そう戸惑うよなぁ。
「ラーファルトでいいですよ。」
「そうか.....」
明らかに用はありそうだが、下を向いて躊躇している様子だ。
「どうかしましたか?」
そう話しかけると覚悟したように前を向いて彼は口を開いた。
「頼みがある。俺を.....強くしてくれないか?」
「強く?うーん。それはいいけど.....」
戦闘スタイルがあまり似ていない気がするんだよなぁ。
『マスターは無詠唱魔術により敵を迅速に処理するスタイルです。対して、アーレウスはクリス流を得意としていることから剣術とどこまで上手く組み合わせた戦いにできるかが問われるスタイルだと考えられます。』
そうなんだよなぁ.....
まあ、やれるだけやるか.....
ーーー
と、思ったのだが.....
「ロックショット!ウォーターガン!」
うーん.....
やはりこれは無詠唱魔術は無理そうだな.....
「アーレウスは魔力の動きを感じられますか?」
「魔力の動き?なんだそれ?」
うーん、やはり普通は感じられないものなのか.....??
「やはり剣術と魔術の組み合わせの練度をあげないと.....」
「ん?剣術.....??」
こ、この声.....
「ラーファルト?剣術を教えるのか?それなら俺にも教えさせてもらっても?」
「ああ、ジェット。移動しながらならいいよ。」
「そうかぁ!ありがとう!」
なんか嬉しそうだ.....ジェット.....
正直、ジェットの剣術に対する熱意は止めどないからな.....(50話参照)
「ラーファルトに加え、ジェットさんまで.....ありがとうございます!」
ああ、アーレウス.....ご愁傷様です.....
ーーー
5時間後
「こうして、こうして.....!!こう.....!!」
「ぜえ、はぁ.....こう!」
「ちっがーう!!!こうだ!こう!」
あれから五時間ずっとこの調子である。
うん。自分から志願していたとはいえ、さすがにきついよな.....
「ジェット.....今、休憩中だからまた歩いてる時とか魔物と戦った時にしたら?」
「ん?ああ、そうか?そうだな。分かった。」
ふぅ.....よかった。
軽くラーファルトが目配せするとアーレウスが感謝するようにこちらを見ていた。
ーーー
「副隊長!ここで待機でよろしいのでしょうか?」
「ああ、構わん。彼らはここに来るだろう。むしろ、ここに来なければただ他のところで始末されるだけ。」
黒のマントを羽織る四人の人影は国境付近に潜んでいた。
「アーレウスなぞ敵ではない。なぜ脱獄出来たのかは分からんが、もう一度牢獄へぶち込み、その方法を吐かせるだけよ.....」
副隊長の呟きを聞き、一人の男は顔を伏せていた。