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14浪生転生記~異世界にいる今、自由を求める~  作者: フィッシュスター
第六章:世界と呪いの森

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第79話:あの日の丘、重なる姿に想いを

「はは。俺、変だな。」

「そんなこと.....ないよ。」

「——えっ.....」


 振り向く。


 その声がサナの声に重なった気がした。


「ミル.....」


 彼女がそこに立っていた。





「なんで.....ミルがここに?」


 確か、寝ていたはずだ。


「寝れないに決まってるじゃない。」


 嘘だ。絶対寝てた.....


 ま、そんなことはどうでもいいか。


「ラーファルトはなんで、ここに来たの?」

「何でもないよ。」


 助けて欲しい。


 声をかけて欲しい。


 そんな欲がでかける。


 でも、そんなことをしていられない。


 出来ない。


 俺の立場はミルを守る護衛だ。


 時々、このことを忘れてしまいそうになる。


 パーティーを組んで、一緒に旅をして、楽しんで、笑って。


 逆に助けてもらって.....


 だから、今、こんな個人的な問題に対して、ミルを頼るなんてしてはいけない。


 できない。


「ラーファルト。」

「は.....」


 パチィン.....


 頬が熱くなった。


 叩かれたと認識するまでに時間がかかった。


「一体、いつまで取り繕うの。」

「えっ......」


「ラーファルトはね。優しすぎるのよ.....色々なことに気を使って、無理をし続けて、他人の為にしか動いてない。」


「それは、あくまで仕事だからで.....」


「じゃあラーファルトはこの旅が一切楽しくなかったものだっていうの!」


 言葉に詰まる。


 思わず目を逸らした。


「たとえ私の護衛が仕事だとしても、ラーファルトは多分、楽しませようとしてくれていたのよ。自分を捨てて、変えて、下手に取り繕って。私に、私たちに気を使って.....楽しかった。それが本当に楽しかったわ。」


「だったら.....」


「だから.....!!ラーファルトにも笑って欲しいの。心から!もう、上辺だけの笑顔なんて見たくない!辛い姿を見せて欲しい。」


 ミルは俺の話を遮って勢いよく話す。


 そんなこと、そんなことできるわけ無いじゃないか。


「.....」


 でも、ミルの話が正論だ。


 辛くて、苦しくて、どうしようもない。


 結局、無理をしていたから倒れた。


 辛さに心も体も耐えきれていない。



 だけど、それでも.....それでも.....!!


「ラーファルト。前、なんで頑張れるのかって聞いたの覚えてる?」


「うん。覚えてるよ。」


「ラーファルトはなんて答えてた?」


 周りのお陰ですよ.....だったかな.....?


「もし、僕を強いと感じたならば.....それは周りのお陰ですよ。ってラーファルトは言ってたのよ。」


「それが、何なんですか.....それが、何だって言うんですか.....!!」


 ラーファルトはそのまま声を荒げ、叫び、漏らした。


「言える訳無いじゃないですか!キツくて、辛くて、どうしようもないこの感情を、この苦しみを人に分けるなんて.....!!できる訳っ!ないですよ!」


 あ、やばい.....


 つい、大きな声で言ってしまった。


「もう、やめて下さい。一人にしておいて欲しいですから。」


 そう言ってミルに背を向ける。


「ラーファルト!」


 《ムーブドウインド》


 追いつかれないように魔術を使う。


 一人になりたい。


 じゃないと、この気持ちを漏らしてしまう。


 どうしようもないこの感情が漏れ出てしまう。


 俺はどうすればいいんだ.....


「ラーファルト!」

「えっ.....うわぁ!」


 ミルがすぐ後ろにいた。


 そのまま転ぶように押し倒されて止められた。


「ミル?どうして?」

「私も日々成長してるのよ!そんな速度で追いつけない訳無いじゃない!」

「.....そう。僕を心配してくれているんですか?」

「ええ。してるわ。」


 昼は素直に答えられなかったのに.....


「ラーファルト。私は守られる側の人なのかもしれない。でも、それだけじゃないの。ラーファルトにとって、私がどんな人かは分からないけど、私もラーファルトの周りにいる人の一人なのよ。」


 ミルの言葉はぎこちなくて、まだまだ子供じみた発音で、真っ直ぐと自分の感情を伝えるものだった。


 でも、それは少し、大人びた。


 ラーファルトより2歳年上ということを感じさせる。


 そんなものだった。


「もっと、頼りなさい!私が、()()()いるのよ!」

「.....ミル.....」


 涙が溢れていた。



 夜。


 まるで、プラネタリウムみたいのような。


 投影されたような星空。


 その下の丘。


 ある日はラーファルトとフィックスの授業が行われた丘。


 ある日はラーファルトとサナが遊んだ丘。



 そして、今日の丘。


 ラーファルトはミルに向かって、始めて号泣し、その胸を借りた。


 ミルはそんなラーファルトを抱きしめ返し、頭を撫でていた。





 ーーー




「落ち着いた?」

「はい.....ありがとうございます。」

「そう。良かったわ。」


 暫く時間が経ち、ラーファルトとミルは二人で座って焼けた村を眺めていた。


「ラーファルトはさ、なんで宮廷魔術師になったの?」

「それは.....」


 強くなってサナ達を、村を守る。


 そして、自由を知る為.....


 でも、これは.....


「ラーファルト。また迷ってるの?」


 ミルが平手打ちの準備をしていた。


「え?いや!そう言う訳じゃ!」

「ふふふ。」


 ふいに、その笑い方がサナと重なる。


 驚き、目を見開いた。



 好きという感情が分からない。


 この感情が本物なのか分からない。


 そうやって、記憶のない時の俺は思っていた。


 今、記憶を手に入れて思う。


 俺は、サナのことが好きだ。


 今も、昔も。


 でも彼女はもういない。


 ミル・ルインド。彼女とサナが重なる。



 俺は多分、いや、確実にミルのことも好きだ。


 サナも好きだけれど、サナがもういない。


「俺、好きな人がいたんだ。」

「この村にだよね?」

「うん。サナ・ラスファントっていうエルフと人間のハーフなんだけど。」


 ミルは俺の話に耳を傾けていた。


「その人の笑顔が眩しくて。憧れで、この笑顔を守りたいって思うんだよ。」


「うん。」


「だから、俺は強くなる為に宮廷魔術師になった。」


「うん。」


「でも、でもさ.....こんなことになるなんて.....あんまりだよ.....」


 思わず弱音に変わる。


「俺、こんなこと、思い出さない方が良かったのかな.....全部、忘れたままで、そのまま生きる方が楽だったのかな.....」


「そんなこと.....ないよ。そのサナさんって人もラーファルトに自分のこと覚えておいて欲しいと思う。」


「どうして.....??」

「ちょっと、村まで降りてみようよ。」


 そう、ミルが駆け出した。


「ちょ!待てよ!」


 急いで俺はその後ろ姿を追いかけた。



ーーー



「ふー。探すの疲れた。これがラーファルトの家なのね。」

「ああ.....」


 もう、殆ど焼けてしまっている。


 思い出が壊されている。


 ふいに、庭の花に目が行った。


 庭に咲いているプロテアの花。



 半分は焼け、踏まれ、それでもまだ力強く数輪残ったままだ。


「原点.....」


 魔術を始めて知った日。


 花見をしていると雨が降った。


 エミリアが「ファイアボール」と「ウインド」の組み合わせで温風を作った。


 その様子に高揚し、興奮し、感動して、俺は魔術を始めた。


 俺の原点.....


 そして、魔術を使えるようになるのは短期目標。


 長期目標は.....


「自由になりたい.....」



 これが、俺の原点.....


 この世界で誰も知らない言語で。


 日本語で叫んだ俺の目標。



「ラーファルト。これ、マグウィップの跡じゃない。」


 家に所々、鞭のような跡がついている。


「確かに.....これは.....」


 途端にシュガーの発言が思い浮かんだ。


 〔ブユレ村の小娘の.....〕


 サナ.....


 マグウィップを.....


 一度だけ、彼女に見せたことがある。


 この綺麗な魔術。


 それを.....思い出して.....使ったのか.....?



「はは.....サナ.....」

「何があったのかとか詳しくは知らないけど、そのサナって人はラーファルトのこといつでも考えてたと思うよ。」

「確かに。そうだね。」


 サナはいつでも俺の為に行動してくれそうだ。


 優しくて、可愛くて、笑顔の素敵な女の子だ。


「なら、ラーファルトも忘れないようにしないと。ふふ。」


 そのミルの笑顔がまたもサナの笑顔と重なった。


 もう我慢が出来なかった。



 再び想いを伝えられないまま別れるのが耐えられなかった。


「ミル。好き。」

「えっ.....べ、別に私も.....」


 何か言おうとするミルを俺は強く、強く抱きしめていた。



【記録:人魔暦8年】

ミル・ルインドとラーファルト・エレニアが交際を始めた。

あわわ.....!!

書きながらニヤニヤしてました!

これにて6章終了です!

7章も引き続きよろしくお願いします!

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