第7話:新しい生活と魔物
自由を求めるラーファルトの人生を描く!
新章開幕——————!!!!!
————————————————
「————!?だ、誰か..!!た、助け.....」
ドン...................
————————————————
フィックス先生が俺の家から去った。
この別れは悲しみであると同時に俺の新しい生活の始まりを告げた。
彼は次会った時に師匠と呼ばせてくれるだろうか。
心配は無用だろう。
彼は俺の呼びかけに手で答えてくれた。背中で語ってくれた。
俺の気にすることではない。
今は俺が出来ることをやるのだ。
フィックス先生から貰ったものを胸に。
自由に。
フィックス先生が去って1ヶ月が経ち、変わったことといえば大きく二点だろう。
一点目は剣術の練習時間が増加したこと。
二点目は自由な時間ができたこと。
剣術の練習はフィックス先生がいた頃から合間の時間に行っていた。今は、魔術の特訓を行っていた時間の半分と少し程を使ってその鍛錬にあたった。
そして、2つめの自由な時間ができたというのは俺にとって重要である。
もちろん何をしてもいい時間だ。
魔術の練習等をしても良いだろう。
だが、この時間のすべてで魔術の練習をしていては前世と同じではないかと考えた。
自由な時間でさえも魔術の練習ばかりしている。それは魔術に俺の生活が束縛されているのと同義である。
だから、その時間は村の散策をすることにした。
かといって、魔術の練習を欠かすことは許されないだろう。
だから、今まで魔術の練習をしていた時間の半分は剣術の鍛錬にまわし、四分の一を村の散策にあてる。残りの時間は魔術の練習を続けた。
今はこの生活でいいのだ。
この生活を続け、自由とは何なのかを知り、自由を手に入れたい。
「おい、ラーフ集中できてないぞ!」
おっと、いけない。こんなことを考えていたが今は剣術の鍛錬の時間だった。
フィックス先生とモルガンの指導の仕方はかなり違う。
フィックス先生は言葉で物事を教える理論型の教え方だ。
それに対してモルガンは自身が行い、見様見真似でやらされる実践型だ。
「おい、ラーフ!そうじゃない、こうするんだ!」
そうして、モルガンは空中の落ち葉を真っ二つにした。
正直全く理屈が理解ができない。
逆にわかるやつはいるのか?
「AするよりBした方がいいですよ」
と言ってくれるフィックス先生がいかに優秀な指導者であるかが伺える。
やっぱり彼には才能があるのだろう。
「よし、そこの岩を斬るんだ!」
「はいっ!うおりゃぁぁぁぁぁ!!!」
ガツンッ!
「いだぁぁぁぁいいい!!!」
岩なんて斬れるかよ!
と思ったが、モルガンは容易く斬っていた。
「お前は、なんていうか足りてないことが多い。こうするんだよ!」
こうするってどうするんだよ!
モルガンは別の才能があるんだろうなぁ.....
そんな剣術の時間と違って自由な時間というのは良いものだ。
自分の行きたい場所へ行き、やりたいことをする。
そんんな生活をする中で一番変わったのは人間関係だ。
初めて外へ出たのがフィックスと一緒にいる時だったため、俺が彼の弟子だということは村人の大半に認知されている。
なんとも彼は人付き合いの上手な人だったのようだ。
「彼は頼まれたことは断らないし、相談を持ちかけられた時は親身に対応していたよ。」
とどのおじさんも口を揃えて言っていた。
ちなみに、おばさんに話しかけると、
「おほほほ、お坊ちゃんかわいいわねぇ。」
と言われるので関わらない様にしている。
とはいえ、フィックスはすべてタダでやっていたわけではないらしい。
彼の魔力量も有限だ。
毎日こき使われるということが無いように報酬は基本受け取っていたのだという。
そういう事情もあいまって信頼されていたのだろう。
彼の作った人間関係は俺へ多大な恩恵をもたらしている。
今までフィックスが行っていた村人からの依頼を俺に頼んでもらえるのだ。
もちろん、その依頼の際にコミュニケーションは欠かさないようにしている。
そうすることで初めよりも親しい関係を築くことができるのだ。
このようなスキルは前世の頃の私にはなかったことだ。
自分の知識に驕って、自慢のような態度で周りの人間を遠ざけた。
近づいてくるのは下心のある者ばかりだ。
最も、浪人回数が増えるに従って離れて行ったが.....
そんな生活を続け、一年が経過した。
いつものようにエミリアが話しかけてくる。
「ねぇラーフ。」
「どうしたんですか?お母様!」
「今日、この村に引っ越してくる人がいるの。」
「ヘェ〜!この村に来るなんてフィックス先生以来ですね!」
ここはフィックス先生によると田舎である。
悔しいが田舎である!!
だから、引っ越してくる人などいないに等しい。
「珍しいことだなぁ。この村にフィックスのように依頼でくる人は時々いるのだが......こんな風にただ引っ越してくる人は10年に1人もいないぐらいだ。」
そうやってモルガンが付け足してくれた。
「まあ、そういうことでだ。実は今日は村全体で歓迎会を開こうということになったんだ。」
歓迎会!動物の丸焼きかなー!
「ということで.....今日、狩りを手伝ってくれないか?」
狩り.....狩りかぁ.....危険は伴うだろうが、実力を試すには良い機会だ。
「はいっ!いいですよ!」
この世界の習慣。
いつもは雇った冒険者と村の者で狩を行っているのだという。
だが、今日は引っ越してくる者が急で間に合わないから俺にも協力をお願いしたわけだ。
別に文句はないが一つだけ言っておこう。
「父様。」
「ん?どうかしたか?」
「言いたいことは最初から言ってもらえればいいですよ......」
説明が何か回りくどかった。
エミリアにもなぜか協力してもらっていたし.....
「あ、うん、いや、まぁーそのだな。」
モルガンが面白い反応をしている。よし、からかおう。
「えっ!父様もしかして断られるのが怖かったんですか!?」
「そ、そ、そんなわけないだろ!」
図星らしい。そんな様子をエミリアがみて笑っていた。
今日の狩りはかなりの重労働とのことだ。村全体でのパーティーだ。無理もない。
狩りに行くということは森へ入る。
フィックス先生は森の怖さを何度か俺に話してくれた。
「森には魅力的なものも、恐ろしいものも沢山あるのですよ。」
と何度もだ。
森の奥へ行けば行くほど高価で珍しい物が手に入るが、魔物との遭遇率や危険度も上がる。
今日は森の深くまでは行かない。実力の低い村人もいる。過度の危険は伴えない。
その瞬間は森に入ってまもなく、いきなり訪れた。
「出たぞ!魔物だ!」「複数体いるぞ!」「10匹ぐらいだあ!!」
この声を聞くだけで足が震えている人もいた。
俺は今日が初めての魔物との遭遇ではない。
魔物というのは弱いものから強いものまでいる。
俺は自由に村を散策し、森の付近まで何度も行った。
毎回、というほどではないが三日に1回は弱い魔物と遭遇している。
だが、落ち着いて対処すればなんてことない。
モルガンの動きの方が速い。
そして、魔物への恐怖心より、前世の暴漢に対しての恐怖心の方が大きい。
あいつ今考えると怖い顔だったもんなぁ.....
という感じで、負ける要素が今のところ見当たらないのである。
「警戒しろ!」
しかし、モルガンは決して油断の様子など見せない。
これが剣士としてのモルガンの姿なのだろう。
俺も無詠唱魔術で応戦しようと思った。
「皆さん合図で一斉に離れてください!」
「えっ?何を言ってるんだ!距離を離したら倒せないだろう!」
ああ、いや。倒せるんですが、あなた達に当たると危険なので........
もちろん歴戦の猛者ならば仲間に当たらないように繊細なコントロールで敵を攻撃する。
だが、俺はまだ見ての通り子供だ。実践経験など皆無である。
実際、そのようなコントロールはフィックス先生の方が数倍上手だ。
そうして、何もできないでいるとモルガンが話しかけてきた。
「おい、ラーフ。その様子じゃ何か策があるんだろ。」
「あ、はいっ!」
「そうか、じゃあお前に一度だけチャンスをやる。村の者たちに「あっ」と言わせてやれ!」
なんて優しい人なのだろう。村に溶け込む機会をくださるなんて.....!!
「それでは、皆さん合図で一斉に離れてください!」
「おう。分かったぜ。」「村長が言うなら仕方ねえな。」
そういって俺に従ってくれる村人たちも優しい人達である。
「いきますよ!3、2、1、離れて!」
同時に魔術を発動した。
《アンダーフローズン!》
俺は、敵の足と地面を氷で凍らせた。これで彼らは動くことが不可能になった。
もちろんこれ以上凍らせることもできるが、仲間の被害も考えて抑えた。
「あっ!」
モルガンからはあっと言わせてやれ、と言われたが、実際に言うとは思っていなかった。
普通言わねえだろ!
ということもあり、無事、魔物は撃破された。
「それじゃ、先に進みますか。」
と魔物を倒して上機嫌になっている俺が独り言を言った時だった。
周りの人間の顔に突然、疑問の色が広まった。
「これが今回の獲物だよ?」
村で農家をしているエミールさんがいきなりそう言ってきた。
その時の俺の顔にも疑問の色が浮かんだことだろう。
だが、すぐにそれがどのような意味なのか理解をした。
この世界では魔物は食物の一つだということだ。
この魔物......不味そうだ.......
パーティーでこれを食べられるか不安だ.......
前世で言うと、巨大なGを食べる様な感じだな。
最悪だ!
「よし、帰るぞー!」
モルガンがそう言って、指揮を取る。
そういえば、さっき知ったのだが、モルガンはこの村の若村長らしい。
みんなから慕われるいい村長だ。
モルガンの指示は的確で、みるみるうちに帰り支度が進んでいった。
「今日はいい飯が食べられるな!」
「いやあ、こんなに獲物が取れたのはいつぶりだろうなあ!」
Gが良い獲物ってどうなっているんだよ.....
最も厳格に言えばGではない。
はぁ.....でもやだなぁ.....
帰り道が歩きにくいこともそんな俺の気持ちを助長してくる。
狩りへ行く時にはなかったタイヤ痕が歩くのを邪魔しているのだ。行きと同じ道なのにも関わらず歩きにくさが倍増している。
いつ、こんなタイヤ痕ができたのだろうか。
だが、その道中は獲物が大量に取れたことで大盛り上がりだ。
俺以外は.....
「いやあ、俺の剣術みたか?」
とトルーという男が自慢している。
そんな自慢を無視して副村長のカールドさんが発言をした。
「いやあ、みんな頑張っていたけど、今回ばかりは、村長のとこのラーフのおかげだな。」
え?俺のおかげか?
どちらかというと、俺が魔術を使える状況にしてくれたモルガンをほめるべきだ。
だが、みんな俺の方を見て笑いかけてくれている。モルガンも後ろを振り返って俺の方を見ている。
ふと、モルガンが、頷いた。その頷きに応えるように俺はこういった。
「はいっ!ありがとうございます!」
「ヒューヒュー!!」「これからも頼むぜえ!」
というような声とともに拍手が贈られた。
モルガンはその様子を見て前を向いて満足したように歩き始めた。
モルガンはこうなることを読んでいたのだろうか。俺がこの村により一層溶け込めるようにこの状況を作り出したのだろう。
いや、子供に良い思いをさせてあげたかっただけか.....??
どちらにせよ、モルガンもまた、フィックス先生と同じように尊敬すべき人なのかもしれない。
「かもしれない」というニュアンスになってしまうのはあれの影響かもしれない。
彼は最近”夜のお遊び”がとっても激しい.....俺もそのせいで寝不足だ。
今までそんな様子がなかったのは赤ちゃん同然の俺に配慮したのだろう。
というより俺は32歳まで生きた前世でHの経験ないのに......なんでモルガン結婚して、子供作れてんだよお。羨ましい〜。俺もこの世界では将来結婚したい〜!!!
何はともあれ、この様子なら俺に弟や妹が近い内にできるかもしれない。
そんなことを考えながら村人の集団の最後尾を歩いていた。
奇妙なことに気が付いた。
ふいに、今まで地面についていたタイヤ痕が消えた。
更に途切れたタイヤ痕は道などないのにも関わらず、最後に多少右へ引きづられているように見える。
この道は左右を森に挟まれている。
そして、行きのときにはこのタイヤ痕はなかった。
これらのことから導き出されることは........................
俺は右側の森へ突っ込んだ。
「おいっ、ラーフ!どうした!」
モルガンが呼びかけてくる。
だが、説明している暇はない。
「すぐに戻ります!!!」
そう言って走り続けた。
しばらくして、馬と壊れた馬車の一部を発見した。
馬はすでに死亡している。
上空から、叩き落されたように見えた。どちらかの車輪が壊れて落ちている。
他にも衝撃で壊れたと思われる部分が散乱していた。
調べていると、さらに森の奥へと何かが引きずられた跡を発見した。
俺は、馬車をここまでぼろぼろに破壊する者に恐怖を感じながらもその方向へ走った。
【モルガン視点】
遅い。
走って森の中まで行った息子が帰ってこない。
あいつはあの年齢だが技巧級火魔術師だ。命を落とすようなことはおそらくない。
仲間たちは、
「子供ですから、虫でも発見して捕まえに行ったんですよ」
と言っているが、やはり心配だ。
「なあ、大丈夫だと思うか?遅くないか?」
そう全体へ聞くと
「あの、モルガン村長。まだ2分も経ってないですよ。」
と言われて、笑われてしまった。
「まあ、心配な気持ちも分かりますが気長に待ちましょう。」
と言われ一旦、落ち着くことにした。
これでも一応村長だ。その威厳は守らなくてはならない。
しかし、10分経っても息子は戻ってこない。
「おい、ちょっと遅すぎないか?」「だが、彼の実力は見ただろ。」
流石の仲間たちにも少しずつ焦りが見え始めた。
その時だった。森の方向で大きな音がして土埃が舞った——————
【ラーフ視点】
5分程走り続けただろうか。かなりの距離を馬車の本体は引きずられたらしい。
やがて、水辺に出た。
そこで、彼の目に留まったものは三つだ。
一つ目が、綺麗な滝。
二つ目が、馬車の本体とその中にのっている人達。
三つ目が、信じられない程大きな魔物だった。
その魔物を一言で表すなら「いのしし」である。
しかし、その魔物はマンモスのような巨体と二本の牙を持っていた。
おそらく馬車は牙によって空高くに飛ばされ、落下したのだろう。
なんにせよ、この魔物から馬車にのっている人達を守らなければならない。
先手必勝だ。
《ロックショット》
魔力により生成した岩(小規模にしたら石にできる)をぶつける上級土魔術。
この技を2回放ち、まずはその二本の牙から奪わせてもらう!
よし、いいぞ、牙に向かて飛んでいる!
しかし、次の瞬間、魔物はこちらを振り返った。
その影響で牙は一本しか折ることは出来なかった。だが、それは魔物を怒らせるのに十分すぎる攻撃である。
魔物は俺に向かって突進を仕掛けてきた。それも何回も連続でだ。
俺がその突進をよけると後ろで大きな音がする。
見ると木が粉々に破壊されている。
牙が残ったせいで攻撃力が高い。油断が全くできない。一度でも食らえば死につながる可能性が高いだろう。
俺は次の手を考えていた。しかし、実戦経験が豊富でない俺の対応は後手に回ってしまう。
避けることに集中してしまうと考えが頭から離れていってしまうのだ。
「くそっ!」
俺に焦りが見え始めていた。
ふと、フィックス先生なら今どうするのだろうという思いが浮かんだ。
いつだっただろうか。魔術を使う心構えを教えられた時な気がする。
「戦闘において冷静さを欠かないというのは最も重要なことだ。」
ここは冷静になって今の状況や条件を整理するのだ。
まず、火系統は使えない。周りの木々に引火するからだ。
次に、初段以上の魔術は使えない。馬車にのっている人達に当たると危ないからだ。
そして、魔物の基本の攻撃手段は突進だ。横に逃げて避けることができる。
この情報から俺は中距離から火以外の魔術の攻撃で攻めていくのがよさそうだ。
よし!情報整理をしたことで落ち着くこともできた。
必ず馬車にのっている人達救ってみせる.....!!
さて反撃開始といこう———————!!