第75話:無
「行け!ラーファルト!」
「行って!ラーファルト!」
ミルとジェットはそうラーファルトへ声をかけた。
ーーー
——数分前
「反撃開始よ!」
敵の倒し方は少し分かった気がする。
赤い目。
その悪魔を優先的に倒す。
「死角からの攻撃を狙うのよ!」
「ガルス流急手」
《光剣!》
速度へ特化し、威力も敵を倒すのには十分な攻撃。
光剣。
敵の死角から一気に攻め込む。
だが.....赤い目の敵も.....
「死角からの攻撃をしていることを悟られ始めたぞ。」
「ええ。」
ライオの言ったことは正しい。
常に周りを見渡して敵が戦うようになった。
「ガルス流重」
《十連》
敵の数が集まって来たため、連撃で一掃する。
厄介だ。
赤い目のものに気を取られやすいが、黒い目もかなり面倒。
何か打開策を考えなくてはならない。
考えて、考えて、頭を動かせ.....!!
体を動かせ!
思考と行動を同時にこなすんだ.....!!
「ガルス流追手」
《乗燐》
斬撃を引いていく敵に放つ。
敵が少し後退した。
無理に追うと反撃の危険がある。
「敵の最前線より前に出るな!深追いは禁物だ!」
「おおおおおお!!!」
多くの者が指示に対し声をあげる。
みんなが私を信頼してくれている。
何か。
考えろ。
戦場を見渡し、思考し、行動しろ!
共に戦う者の為に.....!!
「ガルス流空」
《鳥殲》
上から攻撃を仕掛ける。
戦場全体を見渡してながら攻撃をする。
上の方へいることができるのはほんの数秒。
空中では隙も多い。
「キュアララララ!!」
敵もそこは見逃さない。
攻撃を繰り出してくる。
ほんの一瞬しかない視界が塞がれる。
「ガルス流麟」
《炎輪》
敵を無理矢理薙ぎ払う。
視界が開ける。
「.....見つけた。」
そう、呟いた。
見つけた。
敵の隙を.....!!
「半数は今のまま待機!敵を足止め!その指示はライオに任せる!もう半数は私についてきて!」
「おおおおおお!!!」
全員が指示通りに動く。
誰が、足止めで、誰が付いてくるのか。
そんなことは気にしない。
それぞれが、今、どうすべきかを一瞬だけ思考し、行動する。
ただ、それだけで半分は集まる。
「ライオ.....」
「.....分かった。」
ライオにあることを告げた後、私は隙のある場所へ向かった。
ーーー
「.....行くわよ!」
「ガルス流!奥義」
《一閃!》
私達は敵の後ろから攻撃を繰り出した。
半分が足止めすることで敵から見ると撤退に見える。
森の特徴ゆえ、別動隊の動きなど分からない。
木が私達を隠す。
そして、後ろに回り込んだ。
ここで.....!!
「いでよ。炎。その燃ゆる身を我に捧げ、我を勝利へと導きたまえ」
《ファイアーボム!》
不恰好で、ラーファルトとは比べ物にならないほど低威力な魔術。
だが、それが合図となる。
ーーー
「私が合図を出す。全然大きいものじゃないけど、火魔術だから。それが来たら一気に攻め込んで。ライオなら見逃さないでしょ。」
「.....分かった。」
そう返答するライオの顔はニヤリと笑っていた。
やってやろうという顔だ。
ーーー
《ファイアーボム!》
「.....見えた.....!!」
小さな、小さな炎。
だが、ライオにはそれが見えた。
戦闘に対して真摯に全体を見渡し、直感と己の強さを信じて進む。
それがライオだ。
故に遠くの戦況を変える一手を、ミルの合図を見逃さない。
「今!全員攻めろ.....!!」
「うおおおおおおおお!!!」
前後での挟み撃ち。
後退をしようとしていた敵にとってそれは大打撃であった。
また、反対方向から攻めることで死角を取りやすい。
敵は瞬く間に減っていく。
「ガルス流会心」
《遅巖》
ミルが剣を振った。
が、何も起こらない。
敵はその様子に困惑している様だ。
だが、その瞬間にもう命はない。
岩の様に重い斬撃が一斉に襲った。
敵の数は減っている。
だが、全てを倒すには更なる時間がいるだろう。
早めに倒して他の敵へ加勢をしたい。
何か方法は.....!!
『真下の地面から高い魔力を検知。攻撃を推奨します。』
真下.....?
『今まで敵の量から検知が困難でしたが、現在では確実に真下で何かが起こっていると断定できます。』
まぁ、ロードリングが言うなら事実なのだろう。
「ガルス流壕」
《土壊》
地響きと共に地面が割れる。
同時に血が吹き出してきた。
キュアラアアアアア.....!!
そう敵が叫びながら消えていく。
恐らく地面の下にあったのは核のようなものだったのだろう。
「おい!ミル!終わったのか!」
戦いに決着をつけてきたジェットがそう駆け寄ってきた。
「ええ、最後はラーファルトの方.....火柱も消えてないし早く加勢に.....」
『警告します。火柱の方向より高い魔力を検知!危険です。』
突如としてロードリングからそう報告があがる。
火柱.....魔力か.....
魔術が関わっているのならラーファルトにしか止められない可能性が高い。
それに勘だが、あそこにはラーファルトの記憶のヒントがある気がする。
下手をすると核心へも迫るだろう。
ならば.....
「ラーファルトの敵は私達二人で足止めするわ。」
「そんなこと.....」
「やるわ。」
ミルの目は覚悟に満ちていた。
ラーファルトの為に戦う。
その覚悟だけで最早十分だった。
「.....分かった。元々、指揮はお前だからな。」
ジェットも覚悟を決めた様だ。
二人はラーファルトの方へ駆け出した。
ーーー
「行け!ラーファルト!」
「行って!ラーファルト!」
行けって.....それじゃアリエルを止められない。
「こいつを倒してから.....!!」
「ダメよラーファルト!」
ミルはそう反論するラーファルトへ言い放った。
「あれを止められるのは多分ラーファルトだけ。」
キイン!
敵からの攻撃を弾きながらラーファルトへミルは話しかける。
「それでも.....!!」
ラーファルトは引き下がらない。
ミルやジェット.....大切な仲間を失いたくない。
その思いから足を火柱の方へ踏み出せない。
が、次の瞬間には走り出していた。
「ラーファルト。信じて。」
笑顔で微笑み、真っ直ぐと見つめてくる瞳。
覚悟の決まったそのミルの瞳にラーファルトは看過された。
最早、自分の思いなど関係ない。
あの目を見て、何を迷おうか。
人が覚悟を決めているのにそれを無下にしようなど言語道断。
そう考えて、駆け出した。
《ムーブドウインド!》
速度を上げる。
振り返らない。
「貴様!火柱の方か.....!!」
アリエルも察したようで怒号をあげている。
ムーブドウインドの使用中の為、魔力探知は反応しない。
攻撃が来たら不可避。
ミルとジェットに止めてもらうしかない。
だから信じる。
信頼する。
仲間に助けてもらう。
助け合い、支え合い、そうやってこの戦いに勝つ.....!!
あと15メートル!
もう少し.....!!
キイン.....!!ゴオオオオン.....!!
後ろでは轟音が鳴り響く。
間に合え.....!!
あと5メートル!
「ラーファルト!危ない!」
ミルからそう声が飛んだ。
後ろを一瞬振り返る。
土の中から攻撃が飛んできていた。
これは.....!!
間に合わな.....
当たる。
ラーファルトは身構えた。
が、衝撃は来ない。
同時に火柱に触った。
不思議と熱くない。
裂け目に吸い込まれる。
裂け目に触り、視界が小さくなっていくなか、ラーファルトの目に映ったのは攻撃を食い止める謎の網だった。
ーーー
「調停の技」
《守羅》
「このぐらいしか出来ないな.....あとを頼むぞ.....!!ラーファルト!ミル!ジェット!」
ルーナは祈る様に残る僅かな魔力で戦況を見つめていた。
ーーー
視界が暗い。
何もない。
無。
裂け目に入ったラーファルトはそんな世界にいた。
ここはどこだ.....??
「お前がラーファルト・エレニアか。」
「誰だ.....!!」
声の主へラーファルトは声を荒げて返答する。
それに対し、そいつは冷静に反応した。
「神だ。」
その返答にラーファルトは身を引き締め、杖を前に出し、交戦姿勢を示す。
呪いの森での戦いは最終局面へと移ろうとしていた。




