第74話:火柱の向こう、裂け目の中
「神託」
《閃殲》
《マッドスロウ!》
アリエルの攻撃が周囲に余波をもたらす。
木々は揺れ、空は雲に覆われ、雷が無数に落ちる。
正に、神の力に等しい。
神から力を授けられた者。
神に創られたその力。
それが神使の実力だった。
以前、ラーファルトは同じような力の者と戦ったことがある。
荒野の覇者の部下にいたセンジュだ。
命の契約によって、神の力の一部を借りた。
その凄まじさは目の前にした者ならば忘れないだろう。
最も、ラーファルトは記憶を無くしている。
だが、ラーファルトの記憶には無くとも、経験は深く染み付いていた。
「塵となるか、生き残るか.....」
ラーファルトのマッドスロウが晴れる。
そこにラーファルトの姿はない。
「塵か。」
アリエルの目にラーファルトはうつらない。
パシ.....!!
足に突如として何かに触られた感覚が宿った。
《デスマジックパワー!》
「うあああ.....!!」
ラーファルトの手が土の中から手を出して攻撃していた。
ーーー
《マッドスロウ!》
砂煙を発生させることで自身の姿を隠す。
《ロード!》
続け様に魔術を発動し、土の中へ潜って敵の攻撃を回避。
そしてアリエルの下へ移動し攻撃を放つ。
目で敵は追えない。
が、ラーファルトには魔力探知がある。
敵の位置をそれにより正確に把握した。
《デスマジックパワー!》
「うわああああ.....!!」
ラーファルトの膨大な魔力がアリエルへ襲いかかる。
奇しくも、この攻撃方法はセンジュへ行ったものと全く同じである。
もちろん、ラーファルトにその記憶はない。
が、頭に微かに残る自身の知識から導いた結果、同じ結論へと至った。
しかし、センジュにこの攻撃は決定打とはならなかった。
アリエルの神託。
それは命の契約のように時間制限などない。
自由に神の力を操る。
そして、威力もそれより高い。
いわば、センジュの上位互換だ。
それ故に神から直接、その力を授けられなければならない。
センジュに通じなかったものはアリエルにはもっと通じない。
と思われたが、実際は違う。
記憶のある時のセンジュ戦では、なす術など殆どなく、蹂躙されかけていた。
アリエルはあのセンジュより強い。
それどころか、荒野の覇者をも上回る強さだ。
神から直接授かった力は大きい。
だが、ラーファルトはその強さの差を上回る速度で成長していた。
ラーファルトは今、アリエルへダメージを与えられている。
「うああああ.....!!貴様あああ.....!!」
「神託.....!!」
《エアエリア!》
またも原理のよく分からない禁忌魔術をアリエルは使用する。
体、それどころかラーファルトの周りの土さえも宙に浮いた。
ラーファルトの攻撃はアリエルに当たらなくなる。
「はあ.....はあ.....!!」
アリエルは受けた攻撃から荒い息をしていた。
「やってくれたな.....!!」
アリエルはそうラーファルトへ言い放った。
「始めにやってきたのはそっちだろ。」
ラーファルトもそう負けじと言い返す。
それも完全なる正論だ。
「.....ラーファルト、最後の忠告だ。仲間が殺されたくなければ.....」
「その提案には乗らないと言っただろ。さあ、決着をつけよう。」
アリエルの話に対しそうばっさり断った。
最早、和解の方法など存在しない。
残るは戦いの結末のみ。
「はぁ.....はぁ.....!!」
アリエルが劣勢に見える。
アリエルの耐久力は低いのが露見している。
それでも、アリエルへ攻撃を当てるのは難しい。
気は全く抜けないどころか、攻撃を一度当てたことで更に警戒度が増した。
ラーファルトとアリエル。
両者が睨み合う。
次の瞬間、ラーファルトの魔力探知が大きく反応した。
未だ残る火柱の方向。
先程から微かに魔力探知の反応はあったが、アリエルの攻撃の可能性もあり、それ程気にしていなかった。
が、今度はアリエルの攻撃とは全く別のものだと考えられた。
「来た.....!!ヒヒ.....我が神が.....!!もうすぐ.....!!」
我が神.....!!
神が.....来る.....!!
止めなければ.....!!
「神託」
《壊氷》
無数の氷の矢が同時に飛んでくる。
《デストロイフレイム!》
レジストするので精一杯か.....!!
くそっ.....!!止められねぇ.....!!
アリエルともかろうじて膠着状態。
そこな所に神が来たとすると押し込まれる.....!!
なんとか.....!!
「ガルス流麟」
《炎輪》
「荒野独流」
《刺貫》
二つの攻撃はラーファルトの魔術が無くとも攻撃を弾き飛ばした。
「行け!ラーファルト!」
「行って!ラーファルト!」
ミルとジェット。
二人が火柱への道を作っていた。
ーーー
「もう、通れるかねぇ.....!!ふふは。ふは。ふはははははは!!!」
火柱の中、裂け目の向こう。
不気味に、鋭い目でその時を待っていた。