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第65話:沈黙

「あの群れの魔物を一刀両断にして倒すわ。」


「胴を一刀両断か?どうしてだ?」


 ミクロス族の一人がミルにそう質問する。


「魔物の呪いの反動性を利用するためよ。今回はそれが条件なの。」


「そんなことが.....」


 ミルの言う事が本当なのかまだ疑っている様子だ。


「こいつの言っていることは本当だ。とりあえず一度協力してくれないか?」


 ジェットがそうフォローすると少し考え込んだ後納得してくれた様子で頷いた。


「全員同時に倒しにかかるわ。ミクロス族やルーナ、ジェットの攻撃方法は各々に任せる。」


「あ、あの、俺は.....」


 ラーファルトがミルにそうして声をかけた。


「ラーファルトは魔術で私たちの討ち洩らしを倒して。あと、私たちの準備の時間稼ぎもお願いするわ。」


「わ、分かった.....!!」


 いつもはラーファルトが指揮を取る側だ。


 自分の判断が正解か、こんなに怖いものなのかと思う。


 いつもラーファルトはこんな思いをしていたのだろうか。


 もし、失敗したらなどと考えないのだろうか......


 失敗が怖い。


 でも、やるしかない......!!


 この恐怖を乗り越えてこそ成功があるのだから......!!


「では、全員攻撃準備を.....!!」


 《ビルド!》


 ラーファルトが魔物の群れを魔術の壁で覆い足止めする。


 《ウォーターカット》


 ラーファルトは続けて水の刃を複数出現させて私たちの援護に備えている。



 記憶を無くしても尚、しっかりと自身の仕事をこなしているのだ。



 私も......自分の役割をこなさなければ......!!


「ふう......」


 深呼吸を一回。


「攻撃開始......!!」


 ミルの声と同時にビルドが解除される。



 攻撃しやすい......!!


 記憶を無くした状態でそこまで考えられるとは.....


 戦闘の経験などはやはり残っているのだろうか。


 なんにせよ、流石ラーファルトといったところだろう。



 今、一瞬のうちに......一つでも多く魔物の首をはねろ......!!


「ガルス流(かさね)・改」


 《(そく)十連》



 ミルの攻撃と同時に他の者も動き出した。


「荒野独流」


 《光業(こうごう)


 ジェットの繰り出した技。


 光業(こうごう)


 目にもとまらぬ速さで地を掛ける。


 その速度から何を何回斬ろうと、同時に斬ったようにしか見えない。


 また、ルーナも自身の最速の技を放っていた。


「調停の技」


 《空刃閃(くうじんせん)


 目に見えぬ刃が飛んでくる。


 その速度は操る本人にしか分からない。



 そしてこれらの行動と同時にミクロス族の者たちも攻撃を繰り出す。


 その中でも目立った動きをしていたのがラーファルトのウォーターガンを素手で止めた人物。


 ライオだった。


 彼は足で一瞬踏ん張ったかと思えば次の瞬間には敵五体を真っ二つにしてた。



 ミクロス族の者たちは基本的に技を使わない。


 個々の身体能力が高いため技を使わなくとも高威力の攻撃を繰り出せる。


 いわばジャブが他の族のストレート以上の威力になるのだ。


 最も、例外は存在する。


 ただ、今回はその例外のタイミングではなかったため全員が普通に攻撃をしているだけであった。



 ラーファルトもこの攻撃に集中していた。


 討ち洩らしがいると魔力探知で直感的に感じれば前から生成していたウォーターカットで胴を一刀両断にした。



 これらすべての攻撃の結果、敵総数五十体に対し四十八体の胴を一刀両断にする事に成功。


 呪いの反動性により、魔物の攻撃は収まった。



 ーーー



「調停の技」


 《天光(あまのひかり)


 魔物の攻撃が収まったことでルーナが楽に世界樹の根を処理する。



「すごい威力ね.....」

「うん.....」


 ミルの言葉にラーファルトが返事をする。


 最も、ルーナの攻撃にあっけに取られてそっけない様な返事になってしまっていた。


 そのラーファルトの様子に若干嫉妬しながらもミルは口を開いた。


「ラーファルト.....記憶ないけど魔術どんな感じで放ってるの?」


 その質問に少し考え込む。


「なんていうか。技の知識とかは忘れてないから、それに合わせてイメージしてぐわっとやったらなんかできた.....みたいな.....」


「へえ.....」


「.....」

「.....」


 場に沈黙が訪れる。


 ふいに二人で旅をしていた時を思い出した。




 ーーー




「.....」

「.....」


 その時も話していると突然沈黙がやってきた。


 沈黙というのは気まずいもので、一度その時間ができると次の一言を発しにくいものだ。


 だが、ラーファルトはそんなことを気にする素振りなんて見せなかった。


「ファルゴさんは自分に魔術のことを沢山教えてくれたんですよ。」


「おじいちゃんってどれくらい優秀だったの?」


 ラーファルトのおかげで何気ない旅の道中も楽しく明るいものになっていた気がする。


 笑って、ふざけて、楽しんで。



 きっとラーファルトがそうなるように仕向けていてくれたのだろう。




 ーーー




「.....」

「.....」


 だからこそ、今の沈黙が寂しい。


 ラーファルトが記憶を無くしてしまったことで沈黙が終わらなくなってしまった。



 今、ラーファルトは何を考えているのだろうか。


 いや、普段からラーファルトは何を考えているのだろうか。


 思えば、私の気持ちはさらけ出していたがラーファルトの気持など考えたことがなかった。


 考えただけではなく、見たことさえなかった気がする。



 私はラーファルトに気を使わせてばっかりだ......


 私は何をラーファルトにしてあげられるのだろうか。


 今、できることは......


「......ラーファルトはすごいね。」

「え?何が?」


 沈黙を破って、一緒に話して、気を使わせないこと。


 そして、彼の気持ちを受け止められる人になることなのかもしれない。



 それがラーファルトの救いになることを願うばかりだ......

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