第61話:世界の真実
「あの、失礼ですが、どちら様ですか?」
場に静寂が走る。
誰もが言葉に詰まった。
「.....ラーファルト?」
始めに口を開いたのはミルだった。
信じたくない。
そんな顔をして彼の名前を呼んだ。
「おい、ラーファルト.....お前.....」
その次に口を開いたのはジェットだった。
が、こちらも名前を呼ぶことしか出来ない。
「嘘、だよね.....ラーファルト......!!ラーファルト.....!!らーふぁるとぉぉぁぁ。うわぁぁぁぁうう.....ううう.....」
ミルが泣き崩れた。
ミルは王宮で育てられた。人よりも大人っぽいとはいえ、まだ子供。
これまでの旅はラーファルトありきだった。
その精神的支柱が消えた。
心の支えが消えた。
それは彼女にとってあまりにも辛く、苦しいことであった。
子供の彼女が経験するには過酷すぎた。
「うわぁぁぁぁ......うううう.....うわぁぁぁぁ.....!!」
ミルはも号泣し続けている。
彼———記憶を無くしたラーファルトには、彼女に何をすれば良いのか分からなかった。
ーーー
ラーファルトが記憶を無くし、各々が混乱する中、彼女は一人、冷静でいた。
この森——呪いの森の調停者——ルーナ。
一通りミルが泣き終えたところで彼女は口を開いた。
「話が済んだなら、私の話を初めても良いか?」
「駄目に決まってるでしょ!」
ミルが叫んだ。
「ラーファルトがこんな状況なのよ!そんな話意味がないわ!」
だが、ルーナはその罵倒に屈しない。
「話す必要がある。」
「どうして!なんで!今なの!」
ミルは詰める。なおもラーファルトを思って罵倒し続けた。
が、それもここで終わる。
「記憶を戻すことに繋がる話だ。」
ーーー
「全員落ち着いたな。」
記憶を無くしたラーファルトを含む者が座っている。
五人のミクロスの者。その内の一人は村長。
ラーファルトらが戦った際にもいたライオもいる。
そして、ラーファルト、ミル、ジェットの三人の人族。
最後に妖精族でこの森——呪いの森の調停者ルーナ。
「早速だが、ラーファルトの記憶を戻す方法とはなんだ。」
初めてに口を開いたのはジェットだった。
「まぁ待て。」
急かすジェットをルーナはなだめる。
「まず、ラーファルト。お前は誰だ。」
「......??ラーファルト•エレニア。」
「それ以外の情報を言ってみろ。」
「えー.....情報.....」
「恐らく出てこない。記憶にない。魔術等の知識しかない。そうだろ?」
「.....はい。多分。」
ラーファルトは自身の名前以外をすべて忘れている。
知識はあれど経験を忘れている。
何もかも。
自分がどこで何をしていたかを覚えていないのだ。
自身が人生で何を経験して来たのか。
それは何も覚えていない。
「では、その話は後にしよう。先に世界の真実を話す。」
ーーー
この世界のどこかには世界樹が存在する。
場所は分からない。
その木は幾千年、幾万年も前に創造神コスモスによって作られた。
世界は世界樹の根により支えられ、世界は世界樹の葉により守られた。
葉と根は延々と広がり続け、やがてその端は見えず、端との間にある広大な海は端へ行くことも阻害した。
世界には平和と繁栄がもたらされた。
創造神コスモスは世界に大いに満足し、更なる繁栄を求めた。
そこで、時間を司る神と空間を司る神を作った。
時神クロノス、空神カオスである。
だが、コスモスはまだ繁栄を求めた。
様々な神を作った。
土神サートゥルヌス、水神オケアノス、風神アイオロス、火神ヘファイストス。
これだけではない。100以上もの神を作り出した。
また、神が神を作り出すこともあった。
しかし、神の作り出す神は創造神の作り出す神には及ばない、下級の神となったのだ。
ところが、例外が現れた。
作ったのは人魔神アルテミス。
生き物全てを司る神。
人魔神アルテミスの作った神の名は調停神。
調停神の力は強大すぎた。
創造神コスモスにさえ届きうる力。
いや、それさえ超えうる力であった。
調停神は恐れられた。
調停神にはまだ名がなかった。
調停神がただの調停神である内に殺すべきだという声が世界に広がった。
創造神コスモスによって処刑が命令された。
世界の平和を乱す存在として.....
だが、それに反対したのが時神クロノス、空神カオス、人魔神アルテミス。
そして、当時、創造神コスモスに次いで強いとされていた神。
海神ポセイドン。
それだけでない。当時、多大な影響力を持っていた陸神ガイアも賛成したことから一気に情勢が変わった。
神々が創造神コスモスから寝返ることが増えた。
世界の神は二つに分裂した。
やがて、その歪は戦いとなる。
調停神処刑の命令が出てから数日が経っても処刑は実行されなかった。
創造神コスモスは怒りを露わにし、世界に咆哮を放った。
創造神コスモスは調停神を守ろうとする全ての神の処刑を命令した。
神々による戦いが始まった。
神話大戦である。
創造神コスモスの歯向かう敵を駆逐するという発表が世界を震撼させた。
自身の創造した世界に再び平和をもたらす為に.....
その戦いの行方は今となっては分かっていない。
だが、この世界が残っていることからまだ創造神が生きていることは確定的である。
創造神が死ぬとこの世界は崩壊する。
ただし、調停神がいると別である。
調停神の力は創造神の代わりをこなすことができる。
だが、それは叶わなかっただろう。
神々の戦い——神話大戦の時、調停神は誕生直後で力は無かった。
この世界を繋ぎ止める力はない。
創造神コスモスは今もどこかで生きている。
創造神はどこにいるのか.....
調停神はどこにいるのか.....
それは誰にも分かっていない。
ーーー
「世界の真実か......これは実話なのか?」
疑問に思ったことをジェットが質問する。
「ああ、実話だ。そして調停神も死んでいないだろう。その力を調停者の私が使えるのだから。」
ルーナは淡々と答えた。
「じゃあ、その調停者って何なんだ?」
次々とジェットはルーナに詰めていく。
「というより調停者の力が調停神の力だとは限らないじゃない!」
ミルもそれは同様だ。
ラーファルトの記憶を一刻も早く戻したいという思いからだと考えられる。
一方、ルーナはその質問を待っていたかの様に不敵に笑った。
「それについては、この森——呪いの森の話をしてからにしましょう。」