第3話:はじめての
この話から、転生後の言語を日本語で表示となります。
魔術を使えるようになる。
それが今の俺の短期目標だ。
その先には自由に生きるという長期目標が待っている。
では、そのためにしなければいけないことは何なのか.....
必須と言えるのはこの世界の言語を覚えること。
特に読めるようにならなければならない。魔術を知るには誰かに学ばなければならないのだ。
しかし、赤ん坊が大人に話しかけて魔術を習いたいなどと言い出したら気味が悪すぎる。
それぐらいは容易に想像がつく。
だが、俺の1番の懸念はそんなことじゃない。
俺にとっての1番の懸念点、それは「不自由になってしまうこと」だ。
自由になりたい。それが俺の原点なのだ。
14回浪人した。これはもちろん俺にそこまでのセンスや努力の才能がなかったからと言っていいだろう。
しかし、医大を目指さなければいけない状況。試験に落ちても受験を続けなければいけない状況。
これは、紛れもなく俺の両親を中心とした者達が作り出したものだ。
本当は浪人なんて3回ぐらいでやめたかった。
しかし、人間というのは誰かに逆らえない瞬間が多々ある。
特に親は子供の生殺与奪の権を持っているのだ。
「それができないなら出て行け!」
そんな言葉だけで俺の正論を全て覆すことも可能なのである。
親だって人間であるためもちろん失敗を犯す。しかし、それを認めたくないというプライドは子供でなくとも存在する。
自分が間違えていると分かっていてもそれを表に出すことは滅多にない。
自分の子供には舐められるといけないため尚更だろう。
つまり、俺がこの歳で魔術を習いたいなどと言い出してしまうと、俺はエリートになれる逸材だと錯覚されてしまう。
不自由に、理不尽に、強制的に自分の将来を決定されてしまう。これが俺の1番の懸念点だ。
だから、俺は出来るだけ独学で魔術を扱いたいと思う。おそらく、魔術を習うための教本はあるだろう。
とりあえず、それを読めるようにならなければ始まらないのだ。
しかし、言語を覚えるために親の協力は必要不可欠である。
だから、言語を学ぼうとしていることを悟られないように赤ちゃん風に両親へ本の読み聞かせをねだった。
「ムームーこえ、おんべぇ」
この俺の自己流赤ちゃん語を翻訳すると「ねぇねぇこれ、読んで」である。
正直30を超えたおじさんがこれを言っているとなると恥ずかしいし、気持ち悪い。
しかし、そんなことは気にしていられない。
早く魔術を使いたい。
幸い、本も手に持っていたため1度で通じた。
それ以来、様々な本を読み聞かせてもらった。
・世界種族解明
・十超神聖誕生記
・世界一周冒険譚
よく分からない御伽話が多かった。元の世界でいう、桃太郎だな。だから、内容の理解はまだできた方だ。
もっとも言葉を完全に理解はできていないため内容も完全に理解できていないのだが.....
そうして、読み聞かせをしてもらって約2年。俺は本のほとんどを読めるほどまでにこの世界の言語に慣れてきていた。
やはり、子供の時期は記憶の定着が早いというのは本当なのだろうか。
そして、ついに俺の探していた魔術に関しての教本をみつけた。
そのタイトルは
・エミル・ミグル著「新版:現代の魔術」
というらしい。
ちなみにこのエミル・ミグルという方は魔術師としても指導者としてもかなり優秀であると巻末に書いている。
さぞ、楽しみだなぁ。
さて、今から頑張ってこの本を読み切るとするか。眠くなってしまうような内容だろうが、この世界における最も重要な知識の一つだと考えられる。しっかり読むことにしよう。
第1章:魔術の基礎知識
①魔術は魔力を消費する。
②魔力量は自身の鍛錬の年数に比例するがその変化の割合は人により異なる。ただし、幼少(7才以下が好ましい)であればあるほどその変化の割合は大きくなり、指数関数的な伸びとなることが期待できる。
おお!幼少であればいいのか!?それならばまだ2歳ほどの俺の魔力量はとんでもないものになるのでは!?
鍛錬するのが楽しみだなあ!!!よし、引き続きを読んでいくとするか.....!!
③魔術の種類として「火・水・土・風・回復・転移・解呪・解毒・禁忌(またの名を特殊)」がある。ただし、複数の魔術を組み合わせて新たな魔術を使うことができる(混魔術)。欠点としてそのような魔術は基本2回分の詠唱の時間がかかるが、無詠唱の人(詳しくは後の⑥※)に当てはまるような人ならば通常と変わらないスピードで発動できることが多い。
④魔術の階級として【初級】【中級】【上級】【初段】【中段】【上段】【技巧】【覇闘】【帝王】【神聖】が存在する。
「階級+名前」でどれ程の魔術師として階級に位置しているのかを表せる。
※この階級は剣士の称号でも使われている。また、種族名に「技巧」、「覇闘」、「帝王」または「神聖」を付与することでその種族のの中での実力者・権力者だと表すことができる。
おいおい、ちょっと待て!この世界には剣士もいたのか!?まあ、魔術師がいるんだもんな。
剣士かあ。魔術をマスターしたら少しは挑戦してみたいなあ。さてさて、次はどんなことが書いてあるのかなあ。新しい発見ばかりで楽しいなあ〜!!
⑤魔術の階級は基本、使用魔力量により決まっている。使用魔力量が多いほど威力の高いものになる。
⑥魔術は基本詠唱をして発動する。魔法陣は「治癒」「転移」「解呪」「解毒」「禁忌の一部」でのみ使うことが可能である。
※ごく稀に、詠唱を短縮できる、そしてその中の一握りの人は無詠唱で魔術を発動できる者がいる。
無詠唱魔法かあ。才能も必要なんだろうなあ。
ん!?基礎知識のページが終わってるぞ!?少なくないか!?
この本は80ページぐらいありそうだけど、2ページも使わずに終わったぞ!?
いや、それぐらいの基礎中の基礎ってことだ!まだだ!!!魔術の特訓の仕方の解説がある!
第2章:魔術特訓の方法
魔術をたくさん使いましょう。続けることで魔力量が増加します。
なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~!!!!!
解説じゃねえじゃないかあ!!!いや、まだだ!まだ続きがある!!
第3章:火魔術
初級火魔術①「ファイアーアロウ」
詠唱:「炎の鳥、フェニックスよ。かつてのように人々にその羽から我に力を与えたまえ」
初級火魔術②「ファイアーボム」
詠唱:「いでよ。炎。その燃ゆる身を我に捧げ、我を勝利へと導きたまえ」
初級火魔「ファイアーライ....
…………いや詠唱しか書かれていないんだが。もっとコツとかないの!?詠唱言えば魔術は発動できるかもしれないけどさあ!もっとなんか教えてくれないの!?
果たして、この本の作者は本当に優秀な指導者なのだろうか.....
まあ、解説がほとんどないとはいえ、詠唱を言えばいいだけだ!多分!
家の中で特訓をするんだ。火魔術は絶対使えないなあ。
水魔術は水びだしにすることはできないし...
風魔術は物が散乱してはいけないなあ....
じゃあ土魔術しかないじゃないか!!
よっしゃ!
それじゃあ今から”初めての”魔術特訓を始めるぞ~!!!
まずは、詠唱だ。初級土魔術の名前は「マッドスロウ」
ふむ。目潰しするような技か。趣味が悪いなぁ。
砂かけババアならぬ、砂かけベイビーにでもなってやるか.....!!
よし、やるぞ!
「大地の神よ。その土を我に与え、目の前の敵を砕きたまえ!」
《マッドスロウ!》
おお〜!使えた!使えたぞ!
やっぱり詠唱さえすれば基本できるってことだな。
よっしゃ〜!やっぱ新しいことができると嬉しいなぁ〜。
ん?あ.....部屋が土だらけになっちまった!
やばいやばいやばい!!!この飛ばした土を掃除しないと!
何か魔術で、、!!
ん〜、!!あ、これだな!
「マッドボール」
周囲の土を集めてボールを作り相手にぶつけるのか。
結構酷いことするなぁ。
「広がる土よ。我が魔力に支配され己の身を捧げよ。」
《マッドボール!》
ふぅ。片付けが終わったぜ。
ふわぁ。ね、眠い。なんでだ、?
ああ、もう耐えられない。
これが魔力切れってやつかぁ。
そうしてラーファルトの意識は途切れた。
【記録:人魔暦2年】ラーファルトがはじめて魔術を使用した
あー.....
昨日は起きたら大変だったなあ。
なんたってあの土を形成したまでは良いものの発動していなかったために真下へ落ちていたのだから。
エミリアに土を部屋に持ち込んだと勘違いされて叱られてしまった。
勘弁してほしい.....
それにしても今日は昨日よりも魔術使えるな。
これが魔力量が指数関数的に伸びるってことか!
と言ってもまだまだ使える回数は少ないけれども。
更に1週間が経った。俺がこの1週間で気づいたらことがある。
それは使う魔力量は技によって変わるということだ。
少し考えれば当たり前だが、範囲、威力、そんなものによって使用魔力量は変動する。
階級によって使用魔力量は変動するって書いてあったが、それは同じ階級でも例外でないのだろう。
俺の感覚では、「マッドスロウ」を1とした時に「マッドボール」は1.5ぐらいだな。
中級になると2程になるのだろうか。
今の俺はマッドスロウを50回ほど使える。
この調子で毎日魔術を使い続ければ相応の魔力量は手に入れられるだろう。
そうやって魔力量を増やすために初級魔術を使い増やすこと1年、その日事件は起こった。
「今日はお前に剣術を教えてやる。」
ん?モルガン今なんて言った?
「なんて言いました?父さん。」
「お前に剣術を教えてやるってんだ。」
もう転生してから3年経った。俺はすっかり言葉を覚えてしまっている。
いやぁ。流石といったところだな。
ていうより剣術か。いずれやりたいと思っていたんだよなぁ。
「いいんですか!?やりたいです!」
「おお!乗り気だなあ!よっしゃ!庭に出てこい!」
「はいっ!」
着替えたり靴を履いていたりしている間に父は庭で待っていた。
「よっしゃ!じゃあ稽古始めるぞ!」
「はいっ!よろしくお願いします!」
「おっ!いい挨拶だ。それじゃあまずは剣術の雑学から教えよう。」
そうしてモルガンは話し始めた。
「まずは、そうだなぁ。剣術には3大流派ってのがあるんだな。で、えっと、あーそうそう。この名前が....」
.....おいおい.....
.....はっきり言おう。こんなに分かりにくい説明だとは思っていなかった。ということで俺が要約して説明する。
まず、3大流派と呼ばれる剣術の流派がある。
1つ目が「ガリス流」である。
この流派は攻撃型で先手をとり相手を攻めたてて一撃必殺を打ち込むらしい。殺傷率は高いらしいが下手に攻めすぎると隙ができるため死亡率も高いらしい。
2つ目が「アリス流」である。
この流派は防御型であらゆる攻撃を受け流し、相手の疲労したところに一撃必殺を打ち込むらしい。また、カウンターも得意である。生存率が最も高いらしいが、ネックとして時間が長引くことが挙げられる。また敵に逃げられることも多いとのことだ。
3つ目が「クリス流」である。
この流派はバランス型であらゆる状況でも攻めたり、守ったりできるらしい。ただしどちらも中途半端になため同階級の剣術よりは弱いらしい。相手を引きつけたり、咄嗟の判断での守りに役立つため、魔術師が使うことが多い。魔術と組み合わせて使うことも多いらしいな。
ちなみに俺は3つ目を得意にしたい。
なんたって魔術はもう初級はある程度使えるからな。
さて、話を戻そう。
この世界では3大流派が中心だが、例外として奇抜な戦い方をする剣士の流派の総称の「幻惑流」というものがあるらしい。
次に階級があるがこれは魔術師と同じ説明をされた。
以上だ。
この世界に来て気づいたことを言おう。
説明が短い。
もう少し解説してもらってもいいのだが、まあいい。
ということで要約はここまでだ。
「よーし。俺の説明分かったか?」
「はいっ!とても分かりやすい説明でした!」
「そうかそうか。それは良かった。」
こいつ、乗せられやすいタイプだ。
「俺は説明下手すぎって言われるからなぁ。」
誰だよ!言った奴!!
「エミリアから。」
妻なのかよ.....!!
「まあ、それは置いといて、ちなみに俺は全ての流派を中段で使えるからな。」
置きたくないなぁ。もっと聞きたい。
「幻惑流もですか?」
「ああ、使えるが難しいぞ。あと、あれめんどいから使えわねえな。」
どうりで幻惑流の話が適当だったわけだ。
「じゃあそれ以外を教えて下さい!父さん!」
「剣術をしている時は師範だ!そして一応教えるだけ教えとく。」
「はいっ!師範!」
「よし。じゃあ型などを教える前にお前に打ち込みをしよう。」
ん?打ち込み?
「父さ...師範!それって叩かれるってことですか?」
「そうだ!恐怖を無くすためだな。」
うわー最悪だあ。痛そうだなぁ。
「それじゃあいくぞ〜!」
「師範!早い!はやっ、!うわっぁ!」
モルガンの動きは人とは思えないほど早かった。
気づいた時には目の前にいた。
「うわぁぁぁ.....!」
《マッドスロウ!》
こうして、ラーファルトが魔術を使えることを父に知られた。
ーーー
「お、おいっ!ラーフ!」
「なっ、なんでしょうか師範!」
「いや、父さんでいい。いつ魔術を習得した?」
「えーえーと。そのー。1年程前に.....本で。」
「1年!?1年も前って、お前が2歳の時からか!?」
「は、はい....」
「.....エミリアー!!!」
モルガンはエミリアを呼んだ。
あーあ。俺の人生は詰んだなぁ。また不自由になっちまう。
ーーー
その日の夜の食卓で俺の今後について話した。
「なあ、ラーフ。家庭教師を雇うか学校へ行かないか?」
はあ。そうなるよなあ。
またもや不自由な人生の始まり。最悪だ。
「いや、決断する前にお前の話を聞こう。なぜ黙って練習していたんだ?」
俺は迷ってしまった。どのように説明すべきか。
何せ異世界にいてどうこう、と言える訳ではない。
迷ったとき、自然と俯いて黙ってしまうのだ。
「.....」
「.....」
誰も一言も発さない。
俺が答えるまでこの沈黙は続くのだろうか。
そう思った時、エミリアがこの沈黙を破った。
「ねぇ、ラーフ。」
とエミリアが言う。
「.....はい。」
「あなたがなぜ黙っていたのかを別に怒っていないのよ。」
そんなことは知っている。
「それは分かっています。」
「なら、どうして喋らないの?」
「それは....」
「ラーフはこれからどんな風に生きたいの?」
その言葉にはすぐに反応できた。
「自由に生きたい。」
「その理由は?」
今度はモルガンに聞かれた。
「僕が後悔しないため。自由に生きることが生きる意味だと思うから。」
「じゃあ自由って何だと思う?」
「それは.....まだ分からない.....」
するとモルガンは笑いながら話してくれた。
「そうだな。分からないはずだ。俺だってまだ分からない。もしかするとこれからも分からないかもしれない。特にまだお前は3歳だ。分からないことは俺より多いだろう。だけど、自由に生きたいっていうお前に何かを強制させることはできないだろ。ならせめて俺達からは選択肢をあげたいんだ。もちろんお前がそれを拒絶するならそれでもいい。お前は自由だ。」
だから、俺は気づいたのだ。この人達は俺をエリートへしたい訳ではないことに。
不自由にしたいわけではない。
何かを強制するわけでもない。
この人達は俺がより、自由になるように考えてくれていたのだ。
自分達と対等な立場の人間として、そして自分の子供として。
その2つを同時に見てくれていたのだ。
「もう一度聞こうと思う。家庭教師を雇うか学校へ行かないか?」
「.....家庭教師がいい.....」
「おう。分かった。頑張ろうな。」
独学での限界は感じていた。
いずれ誰かに学ぶ必要があった。
それを後押ししてくれたのは間違いなくこの2人だ。
というよりこの2人以外と関わっていない。
家庭教師を選んだのは前世の経験からかもしれない。
家庭教師から学ぶ。
この選択も俺の自由を後押ししてくれるだろうか。
そんなことは分からない。
だがこれからも自由は追い求めていこうと思う。
モルガンやエミリアのような味方を探しながら。
それから1週間が経った。
見つかるまでに時間がかかると思っていた家庭教師はすぐに見つかった。
そうして、俺の元にやってきたはじめて家庭教師。
そいつは白い髭と眉毛が伸びた、三角帽の先が折れているTHE魔術師だった。
【記録:人魔暦3年】ラーファルトと師匠フィックス・レートが出会う。