第32話:旅の始まり
『本日から五日以上は曇りの天気が続くと予想されています。旅立つならば本日がベストであると考えられます。』
ふむ。じゃあ今日出発か.....
冒険者教会へ行ってから二日が経った。
脳内に響くSariの声にもようやく慣れ始めたという感じである。
俺の運はそれほど良くない。というよりかなり悪い。
通り魔に刺されて死ぬ位運が悪いのだ。
そして、今回も運は悪かった。昨日は雨が降ったのだ。
それだけならば何も感じないだろう。
だが、この地域は雨がほとんど降らないのだ。
一年に3回とかそれぐらいだ。
うん。運がないねえ.....
『天文学的確率で言うと三百六十五分の三ほどです。』
分かっとるわ!というより運がなさすぎだろ!
というわけで今日出発......したいのだが.......
「むにゃむにゃ.....ふへー。ラーファルトーばかああー!うへへ。」
こいつ......
「おい、ミル。早く起きろ。旅の始まりだぞ。」
「うーん。何を言っている!今はラスボスだぞおお~......むにゃ......」
はあ......なんの夢を見ているのか......
一般人なら叩き起こすんだけどなあ......仮にも王女様な訳だし......
はあ......これからの旅が危ぶまれる......
Hey、Sari!怒られずに人を起こす方法を教えて!
『解。成功率百%のそのような方法はございません。』
ちっ!使えねえ奴め!
『私は使える方だと自負しております。少なくともミル様よりは使えます。』
まあ、それはそう!
今、目の前の悩みの種なんだからな!
「あのー。ミルー。起きて下さーい。」
「このジャブを食らえ!!」
「ふごおお!!」
『顔面に強烈な痛みを確認。周囲の状況から命の危険はないと判断されました。』
当たり前だろ!
命の危険なんてあってたまるか!
というより今のはジャブじゃない!ストレートだ!
「ふふふ。思い知ったか!これでも食らえ!踏みつけじゃあああ!!!」
「ぎゃああああ!!!」
『股間に強烈な痛みを確認。周囲の状況から命の危険はないと判断されました。』
ぅぐぐ......
痛い......どうして俺がこんな目に......
そして、踏みつけって言いながら普通に蹴っているのは何故なんだ.....
というより本当に命の危険はないのか......??
恐ろしい......
「これで止めだああ!デコピン!」
「うえ......??ん.....あれ?」
攻撃が来ない!失敗したのか?というよりデコピン......??まさかの犬か.......????
「ふん!」
「うだあああ.....」
ミルの強烈な頭突きが繰り出された。
こいつ、石頭だったのか......
頭はそこまで良くないと失礼ながら思っていたけど物理的にもそうだったとは......
痛い!痛すぎるぞ......
「う-ん!......もううるさい!ラーファルト何してるの?」
ううう.....こっちのセリフなんですけど?
ミルさん?いきなり起きてそれは酷いですって......
『でこに強烈な一撃が確認。周囲の状況から命の危険ありと判断されました。よって選択肢を提示させていただきます。逃げることをお勧めします。』
「えっ?」
「ラーファルト......私の眠りを邪魔して......」
「うえ......あ、いや、俺は悪くない......」
「うるさーーーーい!!......ん?その怪我どうしたの?」
「この怪我はその......ミルが......」
説明を続けているとだんだんとミルの顔が赤くなっていった。
『告。命の危機は去りました。』
うん。同意見だ。
ふう。逃げなくても何とかなるんだな。
でも、これからは逃げよ......
「し、心配してなんかないんだからね!ご、ごめんだなんて思ってないわよ!」
こいつ!今ぐらい素直に謝れ!
ーーー
と、トラブルもあったが無事出発だ。
敵の耳に入ったりしないためにひっそりと街を後にすることになっている。
宿を出ると偶然ルイスと出会った。
「ラーファルト、まだいたのか。」
「昨日は雨だったから今日の方が最適だと思ってですね。」
「そうか頼んだぞ。」
という真面目な会話をしているとミルが口を挟んできた。
「任せてって!人は旅の中で成長するんだから。」
うん......??
まあ、人は旅をすると成長するイメージはある......
だけど、本当にそうか?
そういうのって大体ラノベ主人公じゃないか?
あの、非現実的な世界で起こるやつじゃないのか?
『ここはあなたにとって非現実的な世界と言える場所です。』
あ、そういえば、ここは非現実的な世界だった。
『なお、あなたはラノベ主人公に近い人物像です。』
あ、そういえば異世界転生とかいうラノベ主人公筆頭な人物だった。
うん。成長できそうだ。
「そうですね。成長しながら旅してきますよ。任せてください。」
「そうか、それならいいんだ。気を付けて行けよ。」
ということでルイスとの別れは済んだ。
おとといで済ませてきたつもりだったんだけどなあ。
まあ、旅の直前の挨拶と前夜の挨拶は重みが違うから良しとしよう。
いい感じに決心もついた。
「それじゃあ、行きますよ。」
「ええ。行きましょう。ラーファルト!」
楽しそうなミルを横目に俺たちの二人旅は始まったのである。
絶望を抱えて。
ーーー
旅は順調に進んでいた。
うーん。Sari、この付近の依頼は何件ある?
『百件ほどあります。おすすめはこの三つです。』
①野菜の収穫の手伝い[報酬]収穫した野菜の5%
②魔物の討伐[報酬]公式依頼のため協会にて世界銀貨2枚/匹
③馬車護衛(三日以上)[報酬]世界金貨3枚?/日
③がよさそうだな......
『ただし、③は三日目のルートが我々の想定ルートから外れます。よって二日の時間ロスが発生すると思われます。』
なるほど、ちなみに最適なのは?
『すぐに自分たちの旅の利益となる①でしょう。ですが、②も受けておくと良いと思われます。』
その理由は?
『この魔物はどこにでもいます。いずれ進むだけで撃破出来るでしょう。』
なるほど、ならば①と②を受けるとしよう。
『ラーファルト・エレニアによる依頼受諾を確認.....承認されました。』
「よし、ミル!依頼が決まったぞ!」
「えっ!どうして勝手に決めたの!私も今、決めているのに......!!!」
あ、やっべ。相談するべきだったー。
「あー!受けようと思ってた依頼が......なくなっちゃった......全部ラーファルトのせいだから......!!許さないから!!」
いや、それは俺のせいじゃないだろ.....
「ふん。まぁ許してやらないこともないわ。」
「.....はい」
『野菜の収穫の依頼地まで2.5kmです。』
了解。行くとしよう.....!!
こうして波乱の初依頼が始まる.....!!