第31話:Sari
「ミル。準備しますよー。」
「はーい!」
とりあえず、旅路の調査をしなければならない。
調査することは三つだ
一つ目が冒険者依頼の件。
二つ目が現在の戦況。
三つ目が帰路の特色。
これらは必ず抑える必要がある。
まず、行くべきは冒険者協会だろう。
「冒険者協会」
世界各地に配置されている施設である。
どこの国とも協力関係を作らない独立的な組織だ。
それ故に、国と国との戦争の引き金やトラブルに巻き込まれる依頼が存在する可能性が極めて低い。
つまり、信用の高い組織なのだ。
だが、今回はそれが裏目に出た。
冒険者協会は「戦争等の国の争いに関与しない」という組織なのだ。
戦争の起こっている地域での依頼の受付が停止している可能性がある。
厄介なものだ.....
「ねえ、ラーファルト。冒険者として稼げなかったらどうするの?」
ミル君.....痛いこと言ってくるじゃないか.....
そうなんだよなあ.....どうしようかな.....
「まあ、借金.....とか.....??」
「えっ!!??本当に借金するの!?」
そういえば、借金の案を出していたのはミルだったか.....
まあ、とりあえず行ってみないと分からない.....
もしかすると依頼があるかもしれない.....!!
「えーと。そのお.....ルインド王国方面の依頼は国境に近付くにつれて全面的に中止に.....」
まじか.....おわたー!おわたー!おわたー!
じゃなくて......もっと真面目に考えないと.....
そうなると本格的に借金という説が濃厚に......
だけどなあ......後で面倒なんだよなあ.....
借金っていいイメージないし......はあ...どうしよう......
「ドンマイ!ラーファルト.....」
なんか慰められた.....
「う、ううう.....」
「で、ですが、すべて中止になったわけではありませんよ。」
「どういうことですか?」
これが暗闇の中の一筋の光という奴か.....!!
「この地図を見ていただきたいのですが.....」
(大大陸の地図)
「私たちの現在地である所から最短距離で王都を目指すと戦線を通ってしまいます。そこにはもちろん依頼などあるはずがございません。」
いや、それはある方が怖いな。うん。
「なんでないのよ.....!!」
おい!ミルさん!あるわけないだろ!
「しかし、ルインド王国の東側。森の方にはまだ依頼がございます。」
「おお!ならば、そこを経由すれば.....」
「しかし、その方法は私たちは推奨しておりません。」
「どうしてですか?」
「森は危険です。」
それは確かに一理ある。
だが、戦地を通るか森を通るかと言われると.....森だな.....
「一応聞いておきますが、森ってどのくらい危険なのでしょうか.....?」
「そうですねえ.....まあ歴戦の猛者パーティーが挑んでも三つに一つは壊滅しますね。」
うわあ.....危険すぎじゃん.....
「それに、最近は魔物が活発化しているとか.....原因は不明なのですが.....」
タイミング的に最悪じゃないか.....!!
でもまあ、背に腹は変えられない......か.....
「冒険者としての手続きをお願いできますか。」
「はい。もちろんです。冒険者の世界へようこそ。」
「では、こちらを。」
数分後、諸々の手続きを終えた俺とミルに腕輪が渡された。
「これは?」
「ロードリングと呼ばれるものです。」
「ロードリング.....??」
「えっ?ラーファルト知らないの?」
逆になんで知っていると思ったんだよ.....
「ロードリングは一定以上の任務をクリアすると、その見た目が変化するんだよ!」
え......!!??何それ!
「基準は秘密ですが、実力のあるパーティーが変化する可能性が高いです。変化後は特別な任務にも挑戦できます。」
なるほど。ランク分けの道具であるという感じか。
「ロードリングの性能はそれだけではありません。」
『そのとーり!!!』
「うわあ!なんか喋った!」
なんなんだ!?これは!AIか.....!!?
「あ、聞こえましたか?その声はあなたにしか聞こえません。まあ、説明するときりがないので省きますが、冒険するうちにロードリング自身が教えてくれると思いますよ。」
なるほど。つまりSi〇iって事か......!!
『私はSi〇iではありません!』
じゃあ、なんなんだよ.....
『それは、あなたが今、考えてください。』
ならSi〇iでもいいじゃないか!!
でも、まあ、Si〇iにも著作権があると困るからな.....
じゃあ、Sariにしておこう。
『名前.....Sariをインプットしました。』
よし。これで〇という記号は不必要になったな!
それじゃあ、Hey!Si〇i!じゃなくてHey!Sari!
『二度と名前を間違えないでください。』
……はい。すみません.....
『で、何の御用でしょうか?』
今のルインド王国とジャック王国の戦況を教えてほしい。
『現在はジャック王国が優勢。しかし、ルインド王国も反撃に転じようとしています。しかし、国境付近にあった戦線は暫く内地の方へ押されそうです。』
へえ。すげえ。細かい所まで分かるものなんだなあ。
『このロードリングは装着者同士の知識が共有されています。故に、今、装着者で戦線にいるものから情報を抜き取るのです。ただし、プライベートなことや内情を知るものしか知りえない情報などは保護されます。』
ふーん。フィルタリング的なものなのか。
「もうそろそろ。戻ってきては.....?」
「ああ。はい。すみません。」
『激しい怒りを感知しました。』
うるせえ!ていうかそんなことも感知できるのか!便利だな!おい!
何にせよ、準備はかなり進んだ。
依頼はロードリングを通して出来るらしい。便利だ......
とことん便利だこいつ。
『そうでしょう。そうでしょう。』
勝手に喋りだすところを除いては.....
そうだなあ、現代で言えば、
「あれさあ、○○だよねえ。」
と発言したときに「アレ〇サ」さんが反応するような.....
または、
「おっけーググっとくねえー!」
と発言したときに「おっけーG○○gle」さんが反応するような.....
『少し違うと思われます。』
うう、確かに。
どっちかって言うと全く頼んでないのに世話を焼いてくるお母さんに近い。
だが、俺の母は医者で忙しかったのでそんなことはなかった!!!
ん?あれ?スルーしたけど......
Sariはなんで「アレ〇サ」とかのことを知っているんだ?
『あなたの記憶から読み取りました。』
こいつ怖いな......人の記憶を読むなんて.....
まして初めての前世バレがこいつなのか.....
『なお、この情報はプライベートなので保護されます。』
当たり前だ!洩らしたら許さないからな!
「ら、ラーファルト!いつ出発するの?」
「うーん。明日かな。今日中は準備しよう。」
「そ、そうね。早く旅に行きたいなんてね......!!そんなんじゃないもんね!」
うん。ミルは早く行きたそうだ。
だが、まあ今日ぐらいはしっかり休憩して出発するのがいいだろう。
「今日は早めに寝ましょうね。」
「わ、分かってるわよ!」
分かってねえなこいつ。
遠足前は寝られない小学生の状態だ。
ということで俺たちは宿に戻ってきた。
「もう寝ますよ。」
「わ、分かってるって!」
うん。分かってねえな!
「おねんねしましょー。おねんねしましょー。らんらんらん。」
とまあ、年下の俺が子守唄を歌っているとミルはいつのまにか寝て居た。
我ながらなんてへんてこな子守唄なんだ.....
てか、今ので寝れるのかよ。すげえな!
それはともかく、今からルイスに会いに行かなければならない。
コンコンコン。
部屋のドアを三回ノックした。
知っているだろうか?
部屋のノック二回はトイレ、他のノックは三回が常識らしい。
「入っていいぞ。」
「はい。」
「ラーファルトか。何の用だ?明日出発か?」
「そうですね。一応、動向を説明しておこうと思いまして。」
「そうか。まあ、不要だ。」
「はい......これから.....ってえ?」
不要?不要って言ったよな?
「聞こえなかったか?不要だ。」
そうか、不要なのか。
「どうしてですか?」
「いや、ロードリングをしているからな。情報は共有出来る。」
なるほど。
やはり、便利だ.....
「では、それで、失礼します。また、いつか会いましょう。」
「ああ、またな。」
そうして部屋を出ようとした時、ふいにルイスから呼び止められた。
「そういえばラーファルト.....」
「はい。何ですか?」
「ノック三回はトイレでしか使わないからな。二回が基本だ。」
…..俺は改めて異世界を実感した。
『ノックの仕方をインプットしました。』
やかましい!!!