第30話:二人旅
注目度ランキング2位を記念して
10月から再開予定だったこの作品を急いで執筆しております!
投稿頻度は3日に1回ほどと考えていただけると幸いです!
俺は今、何をしているのだろうか.....
何のために生きているのだろうか?
「自由に生きる」という目標さえも霞んだ。
そんなこと不可能だと思ってしまう。
自分の好きな人さえ守れない。
そんな人が自由に生きるなど夢物語だ。
だが、その絶望を背負って今は生きなくてはならない。
まだ、仕事が残っている。
宮廷魔術師として最後の仕事だ。
避難民を無事に届ける。
だが、こんな大移動.....どうすれば.....
はあ.....
思考が捗どらない。
考えがまとまらない。
頭の中が絡まった靴紐のようだ。
俺の思いを誰かに話したい......
支えてほしい......
サナ......
君なら今、どうしているのだろうか......
何を思うのだろうか......
「......ルト!ラー......ルト!ラーファルト!」
「ん?あ!どうかしましたか?」
つい、考え込んでしまっていた。
傍でミルから呼ばれているのに全く気付かなかった。
「いや、つ、辛そうだったから......何かしてあげようとかじゃなくて......」
辛そうな......そうか、伝わってしまったか......
「ミルは優しいんですね。」
「べ、別に!そんなんじゃないし!」
こういうのを見ると安心する。
以前と同じように接されること。それが救いになるのかもしれない。
失ったものは大きい。
サナ.....家族だってどうなっているか分からない。
誰かが俺を.....
いや、それは甘えなのだろう......
少なくとも、今、背負うのは俺だけでいい。
余計な不安を煽るだけだ。
今、このことを背負わなければいけないのは俺自身だ。
「ルイスさん!」
「ああ、ラーファルト!体の調子は?」
部屋にルイスさんが訪ねてきた。
彼は秘密の護衛だったらしい。
秘密とは言え、俺にぐらいは教えてほしいものだ。
そうすればもう少し順調にことが運んだだろうに......
「順調ですよ。おかげでもう完全復活です。」
まあ、一度意識が戻れば自分で治癒魔術をかけられる。
それで大抵復活だ。
だが、怪我をした俺をこの町の病院まで連れて行ってくれたのにも感謝しないとなあ......
恩が出来てしまった.....!!
「ルイスさん!大きな部屋か何かを借りてそこで集めてくれませんか。」
「ああ、そうだな。これからのことについて話さないといけないよなあ.....」
ーーー
一時間もたてば、場所は確保できるし人も集まる。
これからの会議は俺たちのこれからの動向を決める重要な会議だ。
「それでは、会議を始めます。」
俺がそう宣言して始まった。
「まずは、俺が弱いばかりに迷惑をかけてすみません......」
俺が弱いばかりに......はあ......
「気にすんなって!」
「俺より強いだろ。」
「べ、別に慰めたりしないんだからね!」
うん。寛大だ。
寛大っていいなあ......
「ありがとうございます。それじゃあ現状について確認しましょう。ルイスさんお願いします。」
「ああ、任せろ。」
ここでルイスへ司会交代だ。
「まあ、今となっては分かり切っているが秘密で護衛をしていたルイスだ。」
「旦那強いよなあ。」
「俺は分かってたぜ!」
「窮地を救った英雄だあ!」
なんかふざけてないか?
「おほんっ...!!」
シーン
ルイスの咳払い。強いな。
「現在、宿と食料については一週間分の確保が完了しています。そこはご安心を。そして、今、我々の滞在している都市。この地はジャック王国、三番目の都市と言われる、ガルストです。」
「ここから俺たちの避難先までかかる期間はどのくらいですか?」
「この集団で動くとなると約一年はかかるだろう。どうやら転移を使われたらしい。」
一年か.....長すぎるな.....
避難場所に行く、行かないを考えずとも俺は戻る必要がある。
少なくとも今回の任務について国王に話さなければならないのは確かだ。
そして、娘を無事に生還させましたと報告する必要もあるしな.....
「ルイス。戦争はどのくらいの期間で終わると思いますか?」
「そうだなあ。短くて三か月。長くて一年といったところだ。ジャック王国は小国だ。大国相手にそう長い間暴れることは出来ない。」
なるほど。
この戦争の着地点は三つと推測できる。
一つ目はルインド王国とジャック王国が和平合意する。
二つ目はジャック王国が有利な状況でルインド王国と条約を結ぶ。
三つ目はルインド王国がジャック王国を押し戻す。
どの条件で終わるかによって戦争の期間も変わるか.....
「難しいな.....」
帰るにしても人数が多すぎて行く当てがなくなる。
また、帰る途中で戦争の終結となる可能性があるのだ。
面倒だなあ.....
「俺たちは残った方がいいのか?」
「何も無理して......」
「俺は一刻も早く......」
避難民の中でも様々な意見が飛び交っている。
「一つ提案がある。」
ルイスだった。ルイスが手をあげたのだ。
「どんな案ですか?」
「ラーファルトとミル様だけ帰還するのはどうかと。」
え?俺とミル?俺とミルなのか?
「どうして?」
「正式な護衛はラーファルトだ。ミル様は帰還しなければ交渉が有利に行えないかと.....」
…..確かに.....ミルは王族だ。
ミルの身を重んじるあまり戦争が終結しない可能性がある。
意見としては妥当だな.....
だが.....
「だが、残る者たちはどうするのだ?」
そう俺が質問すると避難民たちがまたひそひそと話し始めた。
「確かに.....」
「こちらで生活するにはお金が.....」
「追手の問題も.....」
いけないな。不安を煽ってしまっただろうか.....
「問題ないだろう。」
ここも、ルイスが言い切った。
「お金の問題は仕事を探せばいくらでも集まる。追手は街にいる限り見つけられないさ。」
それもそうだ。
「じゃあ、僕とミルは......どうやってお金を.....?」
「冒険者だ。」
なるほど。依頼をこなしながら行くってことか。
ただ、問題は.....
「ルインド王国方面の依頼は全面中止になっていないのか?」
「それは.....確かに.....」
戦争の影響がここに出ている可能性は考えなければならない。
そこは調査する必要がありそうだ。
もし、冒険者で稼げそうにないのならば.....
うーん。どうしようか.....
「まあ、とりあえず、今日の話し合いの確認をしていいですか?」
誰も何も言わないため合意とみなして話を進める。
「まず、僕とミルの二人で国へ帰る。他の者はこの街に残る。これは決定事項ということで大丈夫ですか?」
周囲を見回すが、反対意志を示している者はいなかった。
「それでは、今後の役割を話します。僕とミルは帰還しながら稼ぐ方法を探します。その他の人は生活に必要なものをまとめて各自取り掛かってください。異論は?」
こちらも反対する者はいないようだ。
「それでは、僕とミルは恐らく秘密裏にこの街を出ます。この町での護衛はルイスに一任します。これからはそちらを頼ってください。」
「ああ、任せろ!」
ルイスも快く応えてくれた。
俺とミルの二人旅が始まろうとしていた。