第28話:風残し
ルイス視点
シュガーらの急襲から数分後.....
「はあ、はあ。」
「ぜえ、ぜえ。」
避難民は敵から逃げ切るために走り続けている。
さぞ、苦しいだろう。
だが、走るだけで自分の命の危機を脱することができるのだから安いものだ。
本当に危ないのはラーファルト。
あいつだ。
魔術師は基本的に剣士に対して不利だ。
剣士である俺が助けてあげたい。
だが、そういうわけにいもいかないのが現状だ。
俺は雇われの身。
簡単に言うと護衛だ。
表向きの護衛はラーファルト。
それを裏でサポートする。緊急時に対処する。それが俺の仕事だ。
これは誰にも伝えられていない。情報が漏れるわけにはいかないからだ。
この避難民たちを街へ送るまで、お前のところには行けないぞ.....
ラーファルト.....
耐えるんだ.....
頼んだぞ.....
ーーー
「ガルス流急手」
《光剣》
ふう、間に合った。ギリギリだったな。
ラーファルトは重症だ。
急いで決着をつけなければ助けられない。
「遅くなった。ラーファルト。後は任せろ。」
彼の目は開いていた。
俺を見ていた。
彼はまだ生きている。
だが、妙だ。
彼の目は死んだように見える。
生きる希望を無くしているように見える。
こいつらが何か吹き込んだのだろうか。
俺は目の前にいる男を見据えた。
「邪魔しやがって.....!!」
何やらラーファルトに止めをさそうとしていた男は憤慨していた。
頼りなさそうな奴が言っていそうな台詞だ。
だが、剣士の俺には分かる。
かなりの実力者だ。
そして、それはこいつの後ろにいる者も同じ。
「ふうう.....」
やるしかない。
勝ちに行け.....!!
「風残しのルイス参る.....」
「ふん。逆鱗のシュガー参る.....」
参る。
とは言ったが相手は相当な実力者。
むやみに攻め込むのは良くない。
無論、攻めないのも良くない。
ガルス流は攻め中心の剣術だ。
俺もシュガーも相手を警戒するようにジリジリと距離を詰める。
にらみ合い、距離は縮まる。
たが、剣はふるわない。
早めに決着をつけなければならないが焦っては負ける。
まずは、シュガーの手数を減らす.....
「ガルス流見切り」
《合わせ太刀》
「へっ...!!そう来るのか.....!!」
ガルス流見切り合わせ太刀
この技は相手へ防御を強制させ、手数を減らすことができる。
俺の攻撃に対応した敵の攻撃に更に合わせて途中で自身の太刀の方向を変えるのだ。
よって、怪我を負うことは少ない。
代わりに相手に怪我も負わせにくい。
「ガルス流重」
《十連》
ここで、連撃か.....!!
一連目は合わせ技での対処。
だが、二連目からは違う。
また違う技を出していかなくてはならない。
キィン!
金属音がして一連目が防がれる。
ならば.....
「ガルス流重」
《十連》
こちらも十連で返し最後の一連で.....!!
通常、連撃の後はほんの僅かな隙が生まれる。
そこを狙う.....!!
キィン.....!!
九連目!
次の太刀を.....!!
「ダストぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ダスト?何だ?それは!
そう考えた俺はコンマ一秒ほど躊躇した。
その時間がこの攻撃を防いだ。
「陰討ちのダスト参ります.....!!」
シュガーの陰から剣士が飛び出してきた.....
「アリス流守護」
アリス流....!!??
この状況でカウンターか!!
えぐいなっ!
《突止め》
ダストの放った突止めは俺の剣を飛ばし、顔にまで迫ってきた.....!!
「くっ!!」
ギリギリのところで体をのけ反り回避する。
それでもかすり傷が顔に出来た。
血が滴っている。
「ふう.....」
シュガーが死ななくて良かったという顔を見せる。
彼は俺よりも弱い剣士だ。
今の手合いで分かった。
たが、あのダストという剣士が厄介である。
「お前、強いなぁ。技巧以上だろう。」
シュガーが話しかけてくる。
何が目的だ.....?
「.....」
俺は黙ってシュガーを見据える。
「そんなに睨むなよ。」
別に睨んでいるつもりはない。
「.....」
「ははは。反応なしか。お前は強い。だが、俺には勝てねぇ!」
「.....なせだ?」
別に勝てない相手ではないと思う。
というよりも勝てる相手だ。
「勝利条件の話だよっ!そこの小僧。そいつが死ねば俺たちの実質的な勝利なんだからな。」
「.....」
「お前はその小僧を守りながら戦わないといけない。なおかつ、勝利を急ぐ必要がある。」
「.....」
「焦るだろう.....?守るものがあるって大変だよなぁ!」
悠長に話して....!!馬鹿馬鹿しい。
本当はすぐにでも決着をつけたいが.....
これだけは言おう.....
「お前は剣士に相応しくないな。逆鱗よ。不愉快だ。」
「ガルス流大義の剣」
《神剣雷撃-二連》
俺は剣を天に向ける。
「大義の剣使えるのかよ.....!!」
シュガー、並びにダストが緊張の面持ちで構える。
「神よ.....我が刀に雷の恵みをもたらせ.....」
剣が強い光を放ち出した。
「参る.....」
腰を落とし、前を見据える。
スッ.....
僅かな音を出し、俺は敵の後ろへ移動した。
剣に血はついていない。
一秒後.....
雷の落ちるような轟音や風と共に敵二人は首を落とした。




